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聖宝 - Wikipedia

聖宝

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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聖宝(しょうぼう、天長9年(832年) - 延喜9年7月6日(909年8月29日))は、平安時代初期の真言宗の僧。当山派修験道の祖。俗名は恒蔭王。天智天皇の6世孫にあたり、父は葛声王(かどなおう)という。諡号は理源大師。

空海の実弟真雅の室に入る。真言密教(真言宗)の教学を学び、南都に遊学して大乗教学(三論法相華厳)を修めた。貴顕社会との交流を重視した師真雅に対して、華美や権勢と一定の距離を置き、清廉潔白・豪胆な人柄として知られ、この点から真雅との確執すらも言われているが、吉野の金峰山(きんぷせん)で山岳修行を行い、また役行者に私淑して、以降途絶えていた修験道、即ち大峯山での修験道修行を復興したことで、真雅の活動と好対照とされる。

真雅からは受明灌頂と無量寿法を受法。師の死後、49歳で高野山に上がり、真雅の資(弟子)真然から金胎両部の秘法を受けた。53歳で東寺南池院源仁から伝法灌頂を受け、56歳で阿闍梨位を得て、空海以来の真言密教正嫡となる。京都山科の地(現在の伏見区山科)に醍醐寺を開山した。一方で東大寺に東南院を建立して三論教学の拠点を築いたが、これは聖宝の中観/般若空重視の態度という観点からだけではなく、宗祖空海によって実施された南都大寺における儀礼の真言密教化という観点からも見落とすべきではない。そもそも真言教学それ自体は、華厳経の教説を基盤として展開するものである。言い換えると、華厳教学が秘密曼荼羅十住心論において第八(天台法華)ではなく第九住心に配置された意味を併せて考えれば、即身成仏義の重重帝網(無碍)が、一即多・多即一という華厳教学を象徴的にする哲理を重要な基礎として、実践作法の理論的基礎に展開したものとして見ることできるからである。『この世界は仏の身体である(六大)』として、沈黙する存在としてばかり考えられていたビルシャナ仏が自ら説法すると宣言した意味は大きいのである。方便を極めて重要視する密教信仰において、理論から実践への橋渡しをすることは、大乗仏教興隆の観点からも大きく肯定されるべきものとなる。この点に聖宝が宗祖空海の直系を自覚して、東大寺における活動を推進した根本義が表れていると見るべきである。また曼荼羅それ自体が、華厳経の教説『普賢菩薩の行の総体』を基盤としていることにも注意すべきであろう。

その後も東大寺華厳宗の別当職、東寺長者等を務め、顕密両教の研鑽に努めた。一方、山科小野の地に曼荼羅寺を建立して密教修行の活動拠点を築いた東密小野流の開祖/仁海、御室仁和寺で宇多法王に灌頂を授けた益信の後進にして、広沢池ほとりに遍照寺を建立した東密広沢流の開祖/寛朝らが事相面の法孫として対照されるが、広沢流/益信とともに、後世野沢三十六流と呼ばれる真言事作法分流における重要な基点を創った法匠として捉える。

聖宝は如意輪准胝の両観音を尊崇して上醍醐笠取山上に祭祀し、朱雀村上両帝の誕生を祈ったことが記録される。同時に如意輪観音には、空海が帰朝する際に付き従った清滝権現(清瀧権現)(せいりょうごんげん)の化身であるとの信仰が護持伝承されている。

正嫡には、弘法大師号を弟子淳祐を伴い高野山奥の院に奉告し、空海後の真言宗団の組織興隆化を図った醍醐寺第一世座主観賢とする。

聖宝を祖とする当山派修験道においては、一方で『修験恵印総漫拏羅』を通じて表現された不二一乗の世界観をもって大日如来による秘奥の説法を示すものとする。一般に真言密教においては、金胎両部の曼荼羅を通じて、密教宇宙の理と智に係わるそれぞれの所謂『大(法身大日)・三(意密)・法(口密)・羯(身密)』パノラマで、或いは六大(体)・四曼(相)・三密(用)などの多元的な視点と、重重帝網(無碍)という統合的視点から大日如来の教えを展開/把握することが知られるが(即身成仏義)、聖宝においてはこの時代において理と智を一元論的な手法をオモテにして示していることは、修験道という日本的アニミスティック神霊信仰の点から注目される。これは平安後期の覚鑁興教大師以降、『金剛界/胎蔵界』という並立的表現方法が顕著となる以前の出来事であり、日本固有の信仰観について、後の応永の大成を頂点とする二而不二/不二而二に係わる各法匠の立場/背景、さらには日本の密教思想史、殊に事教二相を実践/検討する上で銘記するべき事象として理解することを求められよう。

聖宝が遺した『実修実証』の言葉は、当山派修行者の実践過程において、常に護持すべき修験道の心とする。その実修根本となる『最勝恵印三昧耶法』(恵印灌頂)は、『理智不二界会礼讃』の具現化であり、正嫡の観賢だけでなく、大和鳥栖真言院鳳閣寺において貞崇に授けたと伝える。当山派恵印法は、龍樹菩薩による霊異相承の伝から峰受法流とも呼ばれ、本山派峰中法流と対照されることがあるが、両派に共通する肝心は、実践第一を旨とし、世間の言語/思考に依るところの一切戯論を断絶して、山岳、或いは、人里の道場においても、ひたすら修行に打ち込むところにあると言える。このことは、神秘直感を通じて般若空の真理に直参せんとした大乗仏教中観派の法匠たる龍樹菩薩の教えを忠実にすることに通じるものである。また理智不二礼讃によって明かされる清浄菩提心に向かう祈りの実践は、真言第三祖/龍猛ナーガルジュナの直系たることを自覚するものであり、同時に、全ては普門総徳大日如来から生み出される別徳諸仏諸菩薩の理趣を体得せんとして在る真言密教への篤信と確信に繋がるものである。

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