耽美主義
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耽美主義 ( たんびしゅぎ、aestheticism・唯美主義、審美主義とも) とは道徳功利性を廃して美の享受・形成に最高の価値を置く西欧の芸術思潮である。これを是とする風潮は19世紀後半、フランス・イギリスを中心に起こり、生活を芸術化して官能の享楽を求めた。1860年頃に始まり、作品の価値はそれに込められた思想やメッセージではなく、形態と色彩の美にある、とする立場である。
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[編集] 概略
アルジャーノン・スウィンバーンがある絵画を評して曰く「この絵の意味は美そのものだ。存在することだけが、この絵の存在理由(raison d'être) なのだ」という表現が耽美主義の本質を説明している。耽美主義者の中ではオスカー・ワイルドなどが代表的である。19世紀の末に近づくにつれ、デカダンスの様相を呈した反社会的な動きとなっていった。これは、当時ヨーロッパを席巻していた楽観的な進歩主義へのアンチテーゼでもあった。
その反社会的思潮から悪魔主義などと括られることもあるが、耽美主義じたいは悪魔主義や退廃芸術とは必ずしも一致しない。むしろ感性の復興という意味ではルネサンスとも通底している。その一方で神秘主義とも相通じるものもある。フランス人作家ペラダン(Joséphin Péladan) は「美が生み出すのは感情を観念に昇華させる歓びである」と語っている。
耽美主義の流れは日本の知識人にも影響を与え、三島由紀夫や谷崎潤一郎も耽美派に含まれる場合がある。
[編集] 耽美派
耽美主義を奉ずる文芸上の一派。唯美派。
[編集] 耽美派の人々
【文芸】
- オスカー・ワイルド ( アイルランド出身、『サロメ』が大ヒットした)
- ピエール・ロティ ( フランス、2度来日して『お菊さん』を著した)
- マシュー・アーノルド ( イギリスの耽美派詩人)
【絵画】
- ジェームズ・マクニール・ホイッスラー ( アメリカ出身)
- フェリシアン・ロップス
[編集] 映画における耽美主義
上述のように、耽美主義は芸術における流派、あるいは芸術家自身の主張というよりは、むしろ「美の為の美を追求する」という創作態度や、そこから生まれてくる芸術作品というべきものであるから、周囲がどう評価するかにかかわる場合が多い。映画においては、
- ピーター・グリーナウェイ ( 「英国式庭園殺人事件」、「ピーター・グリーナウェイの枕草子」など)
- ルキノ・ヴィスコンティ ( 「山猫」、「異邦人」、「地獄に堕ちた勇者ども」、「ベニスに死す」、「ルートヴィヒ」、「イノセント」など)
の作品は耽美主義的傾向が強いと評価されることが多い。
[編集] ギャラリー
ヴィクトル・カズン(哲学者) |
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[編集] 参考文献
- 岡谷公二『ピエル・ロティの館―エグゾティスムという病い』作品社、2000.9、ISBN 9784878937576