縊鬼
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縊鬼(くびれおに、いつき、いき)は、幕末の旗本文士・鈴木桃野の随筆『反古のうらがき』などに見られる日本の妖怪。人に取り憑いて首を括らせるとされる。
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[編集] 概要
海岸や川縁などに現れ、人に取り憑く。その正体はその辺りで自殺した者の霊とされる。
道連れを求めており、取り憑かれると急に水中に跳び込みたくなったり、首を括りたくなる。気を確かに持ち一喝するか、他の事に自らの気をそらす事が出来れば、逃れる事が出来る。川を見ているとなんとなく自殺をしたくなるのはこの妖怪のせいらしい[1]。
江戸時代の奇談集『絵本百物語』には「死神」と題した絵があるが、これは悪念を持ったまま死んだ者の霊が、同様に悪念を持った者を首括りなどに遭わせようとしているものとされ[2]、近世の宗教における死神より、本項の縊鬼に近いものとされる[3]。
[編集] 伝承
『反古のうらがき』巻一には、この縊鬼のものとされる江戸の麹町の奇談が以下のように語られている。
ある組頭が酒宴を開き、ある同心も客の1人として来るはずだったが、なかなか現れない。やがて現れた同心は「急用があるので断りに来た」と言って帰ろうとした。組頭が訳を問いただすと「首をくくる約束をした」と言い、しきりに帰ろうとした。組頭はその同心が乱心したと見て、酒を飲ませて引き止めたところ、やがて同心は落ち着いた。
やがて、喰違御門で首吊り自殺があったという報せが届いた。組頭は、縊鬼がこの同心を殺そうとしたものの諦め、別の者に取り憑いた、これで彼に憑いた縊鬼は離れたと考え、再度事情を問うた。すると同心は、夢の中のようなぼんやりした状態だったのでよく覚えていないがと言いつつ、経緯を話した。それによれば、喰違御門のもとまで彼がやって来たところ、何者かが「首をくくれ」と言った。なぜか彼は拒否できない気持ちになり「組頭のもとへ言って断ってからにしたい」と答えると、相手は「早く断って来い」と送り出したのだという。
事情を知った組頭が「今でも首をくくりたいのか」と尋ねると、同心は首をくくるそぶりをしながら「穴おそろしやおそろしや」と答えたという[4][5][6]。
[編集] 関連項目
[編集] 脚注
- ^ 水木しげる 『妖怪大図鑑』 講談社、1994年、31頁。ISBN 4-06-259008-5。
- ^ 多田克己編 『竹原春泉 絵本百物語 -桃山人夜話- 』 国書刊行会、1997年、27頁。ISBN 4-336-03948-8。
- ^ 『竹原春泉 絵本百物語 -桃山人夜話-』 128頁。
- ^ 柴田宵曲編 『随筆辞典 第4巻 奇談異聞編』 東京堂、1961年。21-22頁。
- ^ 村上健司編著 『妖怪事典』 毎日新聞社、2000年、38頁。ISBN 4-620-31428-5。
- ^ 水木しげる 『妖怪画談』 岩波新書 1992年、170-171頁。ISBN 4-004-30238-2。