紀州 (落語)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
紀州(きしゅう)は古典落語の演目の一つ。原話は、松浦静山が文政4年(1821年)に出版した随筆・「甲子夜話」の「第十七巻」。
主な演者には、6代目三遊亭圓生や5代目古今亭志ん生などがいる。
注意:以降の記述で物語・作品に関する核心部分が明かされています。
目次 |
[編集] あらすじ
七代将軍・徳川家継が幼くして急死し、急遽、次代の将軍を決めなければならなくなった。
その候補として上がったのは、尾州侯・徳川継友と紀州侯・徳川吉宗の二人。
二人の勢力は均衡で、とうとう幕閣の評定で次代を決める事になった。
さて、その最終日・大評定の朝…。 尾州侯が駕籠で登城する途中、遠くから鍛冶屋が槌を打つ音が聞こえてきた。 【トンテンカン、トンテンカン…】 尾州侯の耳には、その音が『テンカトル、テンカトル』と聞こえる。 「これは瑞兆である」と大喜びの尾州侯。大評定の席では、少しでも貫禄を出そうとこんな事をいってみる。
「余は徳薄く、将軍の任ではない」
すぐ飛びついてはあまりに露骨なので、一度辞退してみせ、周りの者に無理やり薦められる形で「嫌々ながら」引き受けるというセコイ算段だ。
ところが、ライバルの紀州侯も、質問されると「余は徳薄くして…」とまったく同じ事を言う。 『如何なっているのか?』と、 尾州侯が首を傾げた、そのとき…!
「しかしながら…かほどまでに乞われて固持するのは、御三家の身として責任上心苦しい。しからば天下万人のため…」
自分が言うつもりだったセリフをそっくりそのまま使われてしまい、あえなくその場で次期将軍は紀州侯に決まってしまった。 意気消沈の尾州侯。帰りに同じ所を通りかかると、また鍛冶屋が槌を打つ音が聞こえてきた。 【テンカトル、テンカトル…】
「なるほど。紀州の奴、あそこで一度引き受けておいて、後になって『私の分ではない』と余に引き受けさせようとする算段だな…」 そう思い、ほくそ笑む尾州侯。ところが、親方が焼けた鉄に水をさすと…。
【キィ…シューゥ!】
[編集] 「聞き違い」の小噺
『紀州』そのものの短さをカバーするため、噺の枕として「聞き違い」を扱った様々な小噺を入れて一席の落語としている。
[編集] 蛙の鳴き声
博打で服も取られた男が田んぼの脇を歩いていると蛙が…。
「ハダカダ。ハダカダ」
[編集] 妾が欲しい
「えぇー、お好みの妾」…と言う声が聞こえたので、世話してくれるのかと思い、振り返ってみたら…。
「えぇー、鋸の目立て…」
[編集] 山手線のアナウンス
お昼時。電車に乗っている男が、ふと時計に目をやった。
「もう、十二時か」‐アナウンスが『腹空く~♪』(原宿)
「何を食べようかな?」‐アナウンスが『マグロ~♪』(目黒)
「マグロ? 刺身か。飲み物は…」‐アナウンスが『エビス~♪』 (恵比寿)』
「ビールか。でも、余計にのどが渇くだろうな…」‐アナウンスが『[[お茶と水~♪』 (御茶ノ水)
[編集] 江戸時代の『暴露本』?
原作者である松浦静山は、江戸時代中・後期の大名で肥前国平戸藩の第9代藩主。
まさかこんな事が、実際に起きたわけではないのだろうが、大真面目な『次代の将軍選び』をギャグにしてしまった作者には驚かされてしまう。