筋力トレーニング
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筋力トレーニングとは、ある骨格筋の筋力・筋持久力の維持向上を目的とした運動の総称。多くは目的の骨格筋に対して抵抗(resistance)をかけるものであり、レジスタンストレーニングとも呼ばれる。自重すなわち自分自身の体重を利用する、フリーウエイトと呼ばれる錘を利用するなど様々な方法トレーニング方法がある。これに対して近年、身体を不安定な状態に置きバランスをとるトレーニングが普及しつつある。バランスボール・ケトルベルが代表的な例である。
目次 |
[編集] 筋力向上のしくみ
- 神経機能の発達[1][2]
- 骨格筋は、運動神経からの信号を受けて筋線維が収縮して、力を発揮する。動員される筋線維が多いほど力が大きくなる。トレーニングにより神経機能が発達すると、より多くの筋線維を動員できるようになり、大きな力を出せるようになる。
- 筋肥大
- 日常生活より大きな負荷のかかる運動を行うと、筋線維に微細な損傷が発生する。運動直後や睡眠時には成長ホルモンが多く分泌されており、適度の休息及び栄養補給を行うと体内の栄養素を使って筋線維が修復される。このとき筋線維が肥大し、運動前より大きな力を発揮できるようになる。その後何もしなければ再び元の水準に戻るが、上記の運動・休息を長期間繰り返すと、僅かずつ筋量を向上させ続けることができる。
[編集] トレーニング方法の分類
[編集] 骨格筋の活動様式による分類
骨格筋の活動様式は、骨格筋が長さを変えながら力を発揮する等張性筋活動(Isotonic muscle action) [3] と長さを変えずに力を発揮する等尺性質筋活動(Isometoric muscle action)[3]に大別される [4]。 等張性筋活動による運動をアイトニック運動、等尺性質筋活動による運動をアイソメトリック運動あるいはアイソメトリクスと呼ぶ。
一例として、腕立て伏せやベンチプレスは腕や胸の筋肉が伸び縮みするのでアイトニック運動に分類される。腕立て伏せの姿勢で静止する運動(プランク、棒のポーズなどと呼ばれる)はアイソメトリック運動である。
[編集] 負荷による分類
- ウェイトトレーニング
- 自重(自分自身の体重)あるいはバーベル・ダンベル等の錘を利用するトレーニング。
- 空気圧
- トレーニングマシンの中には、空気圧を負荷とするものもある。
- ラバー
- ラバーすなわちゴムのチューブやバンドを使用する。ラバーが伸ばされたときに発生する張力を負荷として利用する。張力は伸びぐあいにより異なり(伸びがない状態ではゼロ、伸びが大きくなるほど負荷が大きくなる)、この点が短所とされるが、持ち運びが便利、負荷の方向を選びやすい[5]などの長所がある。
- アクアエクササイズ
- プールなどで水の抵抗を負荷として行う。
- 加圧トレーニング
- 腕や脚に加圧ベルトを巻いて軽い負荷を用いるトレーニング方法。
- バランスボール、バランスディスク
- バランスボールは人間が乗ることのできる大きさ、強度をもったボール。バランスディスクは人間が乗ることのできる大きさ、強度をもち、かつ、上下方向に膨らみのある円盤型の道具。これらの上に乗るとボールやディスクから落ちやすい状態になる。これに逆らい、バランスをとることで姿勢保持に必要な筋肉を鍛えることができる。
これらのほかに、電気的筋肉刺激(EMS)を使い骨格筋を発達させる方法が宣伝されているが、現在のところ効果は確認されていない。
[編集] 筋力トレーニングの目的となるもの
[編集] 運動強度と効果
レジスタンストレーニングで得られる効果は、運動強度より異なる。一般に、運動強度高く繰り返し回数が少ない場合は筋力が、運動強度が低く繰り返し回数が多い場合は筋持久力が、それぞれ発達するといわれている>[2][7]。
[編集] 近代スポーツにおける筋力トレーニングの重要性
近代スポーツにおいて筋力トレーニングは不可欠であり、筋力トレーニングによって培ったパワーが無ければ、競技会で好成績を収める事は不可能と言える。
[編集] 日本スポーツ界における筋力トレーニング
日本スポーツ界では『柔よく剛を制す』の言葉に表れているように、テクニックを重視しパワーを軽視する傾向が見られた。
そのため最近まで、「日本人の筋肉アレルギー」と揶揄されるように、筋力トレーニングを導入する事に抵抗を感じるスポーツの指導者が多かった。
筋力トレーニングによって起きる弊害とされてきた誤解には
- 身体が硬くなる
- スピードが落ちる
- 見せかけだけの身体になる
- 疾病に対する抵抗力が下がる
- 筋力トレーニングで得たパワーは、実際の競技では役に立たない
などがあり、こうした情報による指導者の筋力トレーニングへの無理解が、結果として各種競技の国際大会における日本人選手の低迷を招いてしまった。
だが、近年は指導者の世代交代が進んだ事により、筋力トレーニングが本格的に導入されるようになっている。
海外のスポーツ選手のなかには、練習内容の半分以上を筋力トレーニングが占める者も珍しくなく、日本人スポーツ選手も科学的な筋力トレーニングを導入する傾向にある。
[編集] 脚注
- ^ 覚張秀樹、矢野雅知『スポーツPNFトレーニング』(大修館書店, 1994)
- ^ a b 日本エアロビックフィットネス協会『Fitness Handy Notes 30 (補訂版)』(2001)
- ^ a b 等張性筋収縮、等尺性筋収縮という呼び名が広く使われているが、長さが短くならないケースもあることから、筋収縮ではなく筋活動という呼び名が使われ始めている。この記事では後者を採った。
- ^ これらのほかに、等速性筋活動(Isokinetic muscle action)があるが、コンピュータ制御の機器で速度を一定に保つものである。一般的ではないので、ここでは割愛する。
- ^ 例えばチューブの場合、チューブの一端を固定する場所があれば、上向き、下向き、水平方向のいずれの運動も可能である。
- ^ Quality Of Life (生活の質)
- ^ アメリカスポーツ医学会『運動処方の指針(第6版)』