百年目
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百年目(ひゃくねんめ)は、落語の演目。上方ネタでのち東京に移植された。(一説には東西とも同じ原話があり偶然に作られたという。)3代目桂米朝、2代目桂小文治、2代目桂小南、6代目三遊亭圓生ら大看板が得意とした。
注意:以降の記述で物語・作品に関する核心部分が明かされています。
[編集] あらすじ
船場のさる大店、「これ、定吉」「これ藤吉。」「ああ、幸助どん。」と番頭は口やかましく奉公人を叱っている。
この番頭、奉公人にはきびしいが、なかなかのやり手で主人の信頼も厚い。そろそろ暖簾分けをむかえており、「ほんまにわしがおらんかったらどうなりますのや。わたいも今年で四十二、ほんまやったらとうに分家させてもらうのをアンさんがたが頼んないよって、伸ばしてもろてるのやないかいな。」と二言目にはぼやいている。奉公人は番頭のことを「毛虫」と陰口をついているものの怖いので面と向かっては逆らえない。
番頭は実は大変な遊び人で、店の者に、得意先廻りに行くと嘘をついてこっそり派手な服に着替え、大川で屋形船を借り、芸者幇間をあげてどんちゃん騒ぎをする。船は満開の桜とそれを愛でる人々でにぎわう桜ノ宮へ。一同船を下りると、「目ン無い千鳥」という扇子で目隠しをして芸者を追い回す遊びを始める。目隠しされた番頭、偶々捕まえた人を「そうれ。扇子取って面を拝見。ばあ。」と目隠しを取って見れば、何と大旦那。「やあ、番頭どんかいな。」「うっへえ~。これは大旦那はん。ご機嫌よろしゅう存じます。長らくご無沙汰をいたしました。つきましては、お家も繁盛と受けたまわり、おめでとうございます。」と、酔いも醒め真っ青な顔で平伏する番頭。「ああ、これ、これ、アッハハハ、何を言いますのじゃ。・・・もう堪忍してんか。年より相手に俄の稽古さすのやないで。ああ。お連れの衆ですか。どうぞ、うちの番頭どん大事な人じゃさかい、よう遊ばしとくなされ。でも、早よう帰らしとくなはれ。それだけたのんどきますよってにな。ご免。」と逃げるように去ってしまう。 茫然自失の番頭、みんなを置いて店に飛んで帰り、大旦那が友人と桜ノ宮に桜を見に行ったことを確かめ、「う~ん。ああ。二階寝床敷いとくれ。頭痛うてかなわん。しばらく寝ますわい。」と寝込んでしまう。
その晩、「ああ、川口で船割った。なんちゅう悪日やろかいな。」謝ろうか。いっそ逃げてしまおうかと番頭一睡も出来ない。うとうとすると、許されて元気で働く夢や警察でどつかれる夢をかわりばんこで見る始末である。翌朝も針の筵に座る心地。ようよう大旦那に呼ばれた番頭、覚悟を決めて行くと、案に相違して大旦那は穏やかな口調で普段の働きを誉め、自分一人が楽しむのではなく奉公人にもゆとりをもたせなはれ、さらに金は使うときは惜しまず使え、昨晩帳簿を調べたが番頭は自分の金で散財している。それくらいの度胸がないと大きな商いはできない。わしも付き合うからこれからもどしどし遊べというありがたい話。恐縮する番頭に「それはそうと、あのとき何で『長らくご無沙汰してます。』て、何じゃ、長い事おうてないような言い方したが、どないしたのじゃ。」「へえ。あのときは酔いもなんも醒めてもて、大旦那さんのお顔見たらああ言うしか他にござりまへんでした。」「ほお。毎日顔合わしてるやないか。」「ところが、顔見られて、しもた。これが、百年目と思いました。」
[編集] その他
「鴻池の犬」「菊江の仏壇」などと同じ、船場の商家を舞台にした大ネタである。かなりの技量と体力が演じ手に求められ、米朝も数年前の独演会でしくじった事があるほどだ。大旦那、番頭、丁稚、手代、幇間、芸者など多くの登場人物を描きわけ、さらに踊りの要素があらねばならない。力の配分が難しい噺である。