熱帯低気圧
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熱帯低気圧(ねったいていきあつ, 英:Tropical Cyclone)とは、熱帯から亜熱帯の海洋上で発生する低気圧のことである。 強い風と雨を伴うため、しばしば甚大な気象災害をもたらす。その進路や勢力は季節によって変化し、温帯にまで移動し被害をもたらすこともある。 台風、ハリケーン、サイクロンなどは、強い熱帯低気圧に対してその位置する海域別に与えられている名称である。
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[編集] 概要
[編集] 構造
積乱雲が中心に向かって巻き込む渦巻き状に配列した構造を持っており、発達したものは中心に目と呼ばれる雲のない領域を持つ。 直径は300km程度から2000km程度までとさまざまである。全体が熱帯の暖かい空気からなるため、温帯低気圧と異なり前線を持っていない。
暖められた海面から発生する水蒸気が上空で凝結する際に放出する、潜熱をエネルギー源として発達する。発生した熱帯低気圧は北半球ではまず北西(南半球では南西)へ移動し、その後転向して北東(南半球では南東)へ移動する。中緯度まで移動してきた熱帯低気圧は寒気の影響を受けて温帯低気圧に変化する。
熱帯低気圧も低気圧の一種であるため、周囲から空気が流れ込む。それがコリオリの力によって進行方向が曲げられるため、北半球では左回り(反時計回り)、南半球では右回り(時計回り)に回転する渦状の構造を持つ。この構造の大きさは、直径300km程度の小型のものから2000km近い超大型のものまでと様々である。
熱帯低気圧に流れ込む空気は中心に向かい、角運動量保存則によってその風速を増やす。風速が大きくなるにつれて遠心力も大きくなる。十分に遠心力が大きくなると、中心に空気を吸い込もうとする気圧傾度力と釣り合うため、それ以上中心に近づけなくなる。
しかし、外側から空気がさらに流れ込んできているため、それに押される形で今度は上昇気流となって上空へ押し上げられる。熱帯の海上の空気は大量の水蒸気を含んでいるが、上空に押し上げられると気温が下がるため、これが凝縮して積乱雲となる。対流圏界面まで上昇した上昇気流はそこから台風の外側に向かって、流入の際とは逆方向に吹き出している。
上昇気流が起こっている部分よりも中心に近い部分は穏やかな状態となる。これを目という。
目が明瞭に形成されるには遠心力が大きくなくてはならないので、目を持つのはかなり発達した熱帯低気圧である。発達が進むに従い通常目も大きくなっていくが、「猛烈な台風」ほどにまで発達すると逆にピンホールのようなごく小さな目になることがある。
目の外側は上昇気流によって作られた積乱雲の壁になっている。これをアイ・ウォールという。アイ・ウォールの外側には熱帯低気圧に流れ込んでくる空気の流れにそって形成されたらせん状の積乱雲の雲列がならんでいる。これをスパイラル・バンドという。
熱帯低気圧の最大の特徴は前線が存在しないことである。これは、熱帯地方には寒気がなく暖気だけから低気圧が構成されているためである。中心の東西南北の空気の性質にほとんど差がないために、熱帯低気圧の構造はほとんど中心に対して対称になっている。このため、高緯度地域に移動して寒気を巻き込んでしまうと、ほぼ対称な構造が崩れ、エネルギー源である潜熱の供給量が減って衰弱し、やがて温帯低気圧になる。
[編集] 熱帯低気圧に関する概念
熱帯低気圧の位置を示す際には、地上・海上での気象観測や気象衛星の画像などから推定した、熱帯低気圧の中心の位置を熱帯低気圧の位置とし、熱帯低気圧の移動や速度なども中心の位置をもとに表される。
熱帯の海洋上で雲がまとまって渦を巻く兆候があり、気圧の低下が見られ、今後も発達する傾向があるような場合に、「熱帯低気圧が発生した」とするが、そのタイミングは明確には規定されていない。
熱帯低気圧が陸上に達することを、上陸という。一般的に、大きな島や大陸に達したときに上陸といい、小規模な島を通った場合には、上陸ではなく通過という表現を用いる。
熱帯低気圧が勢力を弱め、温帯低気圧に変わることを、温帯低気圧化(温低化)あるいは消滅という。温帯低気圧にならずにそのまま勢力を弱め、消えた場合も消滅という。
[編集] 分類・命名
国際的にはすべての熱帯低気圧はその区域内の最大風速によって4段階に分類されている。以下の表における最大風速は、10分間の平均値を用いる。
世界気象機関による熱帯低気圧の分類 | 一般的な熱帯低気圧の分類 | ||||||
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分類 | 略号 | 最大風速(m/s) | 最大風速(ノット) | 風力 | 北西太平洋 | 北東大平洋・大西洋 | インド洋・南太平洋 |
トロピカル・デプレッション | TD | ~17.1 | ~33 | ~7 | 熱帯低気圧 | - | - |
トロピカル・ストーム | TS | 17.2~24.4 | 34~47 | 8~9 | 台風 | トロピカル・ストーム注1 | サイクロン |
シビア・トロピカル・ストーム | STS | 24.5~32.6 | 48~63 | 10~11 | |||
タイフーン | T | 32.7~ | 64~ | 12 | ハリケーン |
- 注1:日本語訳で「熱帯性暴風」などと呼ぶこともある。
- 注意:この分類は、主に北西太平洋地域での分類であり、地域によってはさらに細分化、あるいは全く異なる分類を行っていることがある。WMOでの分類では、上記表のTropical storm以上は、熱帯低気圧(Tropical cyclone)として分類している。
- 一番右の「分類」行および右から6番目の「北西太平洋」行の分類は、日本の『気象官署予報業務規則』第78条に定められたものに基づく。
また熱帯低気圧が存在する海域による分類もしばしば使用される。 東経100度から東経180度までの北半球に存在するトロピカル・ストーム以上の強度の熱帯低気圧は台風と称される。 西経180度から大西洋までの北半球に存在するタイフーン強度の熱帯低気圧はハリケーンと称される。 東経100度以西のインド洋とその周辺の北半球、および南半球全域に存在するトロピカル・ストーム以上の強度の熱帯低気圧はサイクロンと称される。 南大西洋については、2004年に初めて熱帯低気圧が発生し「サイクロン」(サイクロン・カタリーナ)とされた。しかし、名称は今のところ確定していない上、サイクロン・カタリーナを熱帯低気圧と考えてよいのかということについても意見が分かれている。
なお、オーストラリア周辺の熱帯低気圧をウィリー・ウィリーと呼ぶという話があるが、これは正確には誤りである。 ウィリー・ウィリーは砂漠などに発生する塵旋風や竜巻をアボリジニーが呼んでいる語であるが、熱帯低気圧を指す語として誤解されて研究者の間でも用いられたようである。
日本においては台風以外の熱帯低気圧はその強度に関係なく、すべて単に「熱帯低気圧」と呼称される。 2000年5月まではトロピカル・デプレッション強度の熱帯低気圧は「弱い熱帯低気圧」と呼称して区別していたが、玄倉川水難事故の際に災害が起こらないかのような誤解を招くという指摘を受けたため、区別を行なわなくなった。
[編集] 観測機関別の分類
また、上記のものとは別に、熱帯低気圧観測を行う機関ごとに分類されている。以下の表における最大風速は、北インド洋・南西インド洋・オーストラリア周辺・南西太平洋・北西太平洋(気象庁)は10分間のノット基準の平均値、北西太平洋(合同台風警報センター)・北東太平洋・北大西洋は1分間のマイル毎時基準の平均値を用いる。
観測機関別の熱帯低気圧の分類 (Tropical Cyclone Classifications) | |||||||||
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風力 | 最大風速(ノット) | 北インド洋 IMD |
南西インド洋 MF |
オーストラリア周辺 BOM |
南西太平洋 FMS |
北西太平洋 気象庁 |
最大風速(マイル毎時) | 北西太平洋 JTWC |
北東太平洋 & 北大西洋 NHC & CPHC |
0-6 | <28 | デプレッション | トロピカル・ディスターバンス | トロピカル・ロー | トロピカル・デプレッション | トロピカル・デプレッション | ≦38 | トロピカル・デプレッション | トロピカル・デプレッション |
7 | 28-29 | ディープ・デプレッション | トロピカル・デプレッション | ||||||
30-33 | |||||||||
8-9 | 34-47 | サイクロニック・ストーム | モデラート・トロピカル・ストーム | トロピカル・サイクロン (1) | トロピカル・サイクロン | トロピカル・ストーム | 39-73 | トロピカル・ストーム | トロピカル・ストーム |
10 | 48-55 | シビア・サイクロニック・ストーム | シビア・トロピカル・ストーム | トロピカル・サイクロン (2) | シビア・トロピカル・ストーム | ||||
11 | 56-63 | ||||||||
12 | 64-72 | ベリー・シビア・サイクロニック・ストーム | トロピカル・サイクロン | シビア・トロピカル・サイクロン (3) | タイフーン | 74-95 | タイフーン | ハリケーン (1) | |
73-85 | |||||||||
86-89 | シビア・トロピカル・サイクロン (4) | 96-110 | ハリケーン (2) | ||||||
90-99 | インテンス・トロピカル・サイクロン | 111-130 | ハリケーン(メジャー・ハリケーン) (3) | ||||||
100-106 | |||||||||
107-114 | シビア・トロピカル・サイクロン (5) | 131-149 | ハリケーン(メジャー・ハリケーン) (4) | ||||||
115-119 | ベリー・インテンス・トロピカル・サイクロン | 150-155 | スーパー・タイフーン | ||||||
≧120 | スーパー・サイクロニック・ストーム | ≧156 | ハリケーン(メジャー・ハリケーン) (5) | ||||||
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[編集] 命名
世界気象機関が定義するトロピカル・ストーム以上の強度の熱帯低気圧には、それが存在する海域ごとの命名規則に従って、番号や人名による命名がされる。また、海域によっては、トロピカル・デプレッション以上の強度の熱帯低気圧に番号を付与するところもある。
北西太平洋の熱帯低気圧(台風)については、トロピカル・デプレッション以上の強度で、JTWCによる番号の付与(数字の後にWを付ける)、PAGASAによるフィリピン名の命名が行われる(フィリピンに接近しない台風にはフィリピン名はつかない)。トロピカル・ストーム以上の強度では、気象庁による番号の付与(甚大な被害をもたらした台風は命名されることもある)台風委員会によるアジア名の命名が行われる。台風は最大で4つの呼称を同時に持つ。各気象機関によって分類基準となる最大風速の観測値が多少異なることがあり、ある気象機関だけがトロピカル・デプレッション以上の強度とみなす場合がある。このようなときは「気象機関の略号+Tropical Depression+番号」のような呼称が使用される。
- 詳しくは台風の命名を参照。
北大西洋および西経140度より東の太平洋北東部の熱帯低気圧(ハリケーン)については、トロピカル・デプレッション以上の強度で、NHCによる英語数字による命名が行われ、トロピカル・ストーム以上の強度に達すると同センターによる命名が行われる。北大西洋と太平洋北東部それぞれで別々に命名が行われ、数字や名前のリストも別々である。北大西洋から太平洋北東部、またはその逆に熱帯低気圧が移った場合、それまでの名称とは別に新たにその海域の名称が命名される。
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- 例:2007年ハリケーン・ディーン:Four(数字命名), Dean(命名)
- 例:2007年トロピカルストーム・バーバラ:Two-E(数字命名), Barbara(命名)
- 詳しくはハリケーンの命名を参照。
180度から西経140度までの太平洋北中部の熱帯低気圧(ハリケーン)については、トロピカル・デプレッション以上の強度で、CPHCによる英語数字による命名が行われ、トロピカル・ストーム以上の強度に達すると同センターによる命名が行われる。
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- 例:
- 詳しくはハリケーンの命名を参照。
北インド洋の熱帯低気圧(サイクロン)については、JTWCによる番号の付与(ベンガル湾で発生した場合はB、そのほかの海域の場合はAを、数字の後に付ける)、IMDによる番号の付与、沿岸8カ国合同での命名が行われる。
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- 例:2007年サイクロン・ゴヌ:02A(JTWC数字番号), Gonu(命名)
東経90度から125度までのオーストラリア西部海域の熱帯低気圧(サイクロン)については、JTWCによる番号の付与(数字の後にSを付ける)、BOMによる命名が行われる。
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- 例:
東経125度から137度までのオーストラリア北部海域の熱帯低気圧(サイクロン)については、JTWCによる番号の付与(数字の後にSを付ける)、BOMによる命名が行われる。
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- 例:
東経137度から160度までで南緯10度より南のオーストラリア西部海域の熱帯低気圧(サイクロン)については、JTWCによる番号の付与(数字の後にSを付ける)、BOMによる命名が行われる。
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- 例:
東経90度より西の南インド洋の熱帯低気圧(サイクロン)については、JTWCによる番号の付与(数字の後にSまたはRを付ける)、モーリシャス気象局による命名が行われる。
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- 例:2003年-2004年サイクロン・ガフィロ:16S(番号), Gafilo(命名)
東経141度から160度までで南緯10度から赤道までの熱帯低気圧(サイクロン)については、JTWCによる番号の付与(数字の後にSを付ける)、パプアニューギニアのTCWCによる命名が行われる。
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- 例:
南半球において、東経160度より東の太平洋の熱帯低気圧(サイクロン)については、JTWCによる番号の付与(インド洋で発生した場合はS、太平洋で発生した場合はPまたはFを、数字の後に付ける)、FMSによる命名が行われる。
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- 例:2002年-2003年サイクロン・ゾーイ:04F(番号), Zoe(命名)
[編集] 各海域の熱帯低気圧
各海域によって年間発生数は異なる。北西太平洋以外には「シーズン」と呼ばれる熱帯低気圧の発生期があるが、北西太平洋では年中発生する。ただ、これまでの統計によれば北西太平洋でも2月上旬から2月中旬にかけてはほとんど熱帯低気圧が発生していない。
各海域の熱帯低気圧の「シーズン」と年平均発生数 | ||||
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海域 | シーズン | トロピカル・ストーム以上 | タイフーン以上 | カテゴリ3以上 |
北西太平洋 | 一年中 | 26.7 | 16.9 | 8.5 |
南インド洋 | 10月~翌年5月 | 20.6 | 10.3 | 4.3 |
北東太平洋 | 5月~11月 | 16.3 | 9.0 | 4.1 |
北大西洋 | 6月~11月 | 10.6 | 5.9 | 2.0 |
南西太平洋 | 10月~翌年5月 | 10.6 | 4.8 | 1.9 |
北インド洋 | 4月~12月 | 5.4 | 2.2 | 0.4 |
NOAAの資料による。 |
[編集] 発生から消滅まで
[編集] 発生
まず、熱帯低気圧は海上でしか発生せず、温帯低気圧とは異なり陸上では発生しない。これは、熱帯低気圧のエネルギー源が海水が蒸発する際の潜熱であることが理由であり、海上で発生した熱帯低気圧が上陸すると急速に勢力が弱くなる。ただし、熱帯低気圧の位置は渦の中心の位置であり、熱帯低気圧が陸上にあっても周辺部は海上にある場合があり、ごく稀に海に近い陸上で熱帯低気圧が発生することがある。
熱帯地方の海上では北半球の亜熱帯高圧帯からの北東貿易風と南半球の中緯度高圧帯からの南東貿易風が収束することによって上昇気流が発生し、常に積乱雲の発生、消滅が繰り返されている。 これらの積乱雲の集まりの中から熱帯低気圧が発生する。 しかし、どのようにして積乱雲の集まりが1つの熱帯低気圧にまとまっていくのか、その機構の詳細は未だ研究途上である。 赤道上空を流れる偏東風が高緯度側に蛇行した偏東風のトラフの先端部分に渦が形成され、これと熱帯収束帯の積乱雲が相互作用して熱帯低気圧となっていくと考えられている。
熱帯低気圧の大部分は緯度10~15度の海域で発生し、緯度が5度以下の海域ではほとんど発生していない。 これは渦の形成にコリオリの力が必要なためと考えられている。 また、熱帯低気圧の発生には海面からの持続的な水蒸気の供給が必要であると考えられている。 そのため熱帯低気圧の発生海域は海面水温が26度以上の海域とほぼ一致している。 このため熱帯低気圧の発生は緯度25度以下の海域にだいたい限られている。 また寒流が流れていて海面水温が低い南太平洋東部、南大西洋では熱帯低気圧がほとんど発生しない。 また夏から秋にかけて海面水温が高い状態になるので熱帯低気圧の発生が多くなり、冬から春にはほとんど発生しない。
また上層と下層の風向・風速の違い(鉛直シア)が少ないこと、上空に寒気があることなどが、上昇気流を起こしやすくし熱帯低気圧の発生の要因として重要と考えられている。
[編集] 発達
熱帯低気圧は熱帯の海洋上の湿った空気が持つ水蒸気の潜熱をエネルギー源としている。 熱帯低気圧に吹き込んできた空気は中心付近で上昇気流となって上空に運ばれる。 上空に運ばれた空気は冷やされるため、含んでいる水蒸気が飽和して凝縮し水滴となる。 このとき水滴1gあたり2.4kJ程度の熱が放出されて周囲の空気を暖める。 暖められた空気は密度が低くなるため中心気圧が低下し、その結果熱帯低気圧に吹き込んでくる空気の量が増加する。 そうするとより多くの潜熱が放出されるためさらに中心気圧は低下していく。 この連鎖によって熱帯低気圧は急速に発達する。 このように積乱雲の発達→低気圧の発達→積乱雲の発達→低気圧の発達というような繰り返しが可能となる大気の状態を第2種条件付不安定(CISK:Conditional Instability of the Second Kind)という。
トロピカル・ストーム以上の強度に発達する熱帯低気圧は世界で年間90個程度である。 そのうち60個程度が北半球、30個程度が南半球で発生している。 特に北西太平洋での台風の発生が顕著であり年間30個程度がこの海域で発生し、かつ最も発達する。これまでに観測された熱帯低気圧の最低気圧は、1979年10月の台風第20号(台風197920号)における870hPaである。
[編集] 衰弱
熱帯低気圧のエネルギー源は水蒸気の潜熱であるため、水蒸気の供給が減少すると勢力が衰える。 海面水温が26度未満の海域に入った場合、または陸地に上陸した場合には水蒸気の供給が無くなるだけでなく、地表との摩擦が大きくなってエネルギーを奪われるため急激に勢力が衰える。
また熱帯低気圧が中緯度まで北上すると寒気の影響を受ける。 寒気は含んでいる水蒸気の量が少ないため、寒気が流入することによって熱帯低気圧の勢力は衰える。 それだけでなく性質が暖気と寒気の境界に発生する温帯低気圧に近くなってくる。 これを温帯低気圧化(温低化)という。 温帯低気圧化は熱帯低気圧の外側から徐々に進行し、熱帯低気圧の北東側に温暖前線が、南西側に寒冷前線が形成され、これが徐々に熱帯低気圧の中心に向かって侵入していく。 中心まで前線が侵入すると、この熱帯低気圧は温帯低気圧との違いはまったくなくなり、温帯低気圧に分類されるようになる。 温帯低気圧のエネルギー源は暖気と寒気の温度差による位置エネルギーであるため、熱帯低気圧が持っていた暖気と寒気の温度差が大きい場合などは、温帯低気圧化により再発達することがある。
[編集] 移動
高緯度ほどコリオリの力が大きくなるため、熱帯低気圧は高緯度に向かって移動する。 また熱帯低気圧は中緯度高圧帯からの風、すなわち低緯度では貿易風、中緯度では偏西風に流されて移動する。 これらの効果が合わさる結果、熱帯低気圧は発生後、北半球では北西(南半球では南西)へ移動しながら発達し、進行方向を北半球では北東(南半球では南東)に変える。 この進行方向を変えることを転向(てんこう)といい、転向する位置を転向点(てんこうてん)という。
[編集] 観測
熱帯低気圧は激しい風雨を伴うため甚大な被害をもたらすことが多い。 そのため熱帯低気圧を接近前に観測して対策をとることは極めて重要である。 古くは船舶や航空機によって熱帯低気圧内に突入して直接観測することも行なわれていた。特にアメリカ軍による飛行機観測(U-2を用いた)は台風やハリケーンの構造や勢力を直接観測できるため、大きな危険を伴うにもかかわらず第2次世界大戦後から続行されてきたが、経費削減等の影響を受けて北西太平洋海域では1987年以降中止され、現在では気象レーダーや気象衛星による遠隔観測が主となっている。北大西洋では現在も飛行機観測が継続中である。
[編集] ドヴォラック法
アメリカのNOAAの気象学者ヴァーン・ドヴォラックによって1975年に提唱された気象衛星によって観測した熱帯低気圧の雲パターンから中心気圧と最大風速を推定する手法である。 雲パターンは、主に赤外線波長帯の画像と、可視画像から決定する方法があり、衛星視野の昼間は、併用される。赤外画像は、ドヴォラーク温度スケール(カラー化または、グレースケール)の温度変化パターンを使って、DT数(Data T-Number)、PT数(Pattern T-Number)、MET数(Model Expected T-Number)を割り出していく。可視画像は、スパイラルバンドの状態は中心付近の動きなどを含めた判断が行われる。以上の解析から、T数を計算し、それを選択・補正してT数(T-Number)を決定する。 そしてこのT数に台風が発達段階か衰弱段階かで補正したCI数(Current Intensity Number)を計算し、これを対応表に当てはめて中心気圧と最大風速を推定する。 この解析法は、年代によって解析法も改良されている。近年では、極軌道衛星の画像を用いたものや、サウンディング観測による方法で決定する方法などもある。問題点は、衛星の分解能や波長帯、画像のサンプル量・時間間隔によって、この解析値自体にぶれが生じることがある。北西太平洋地域では、解析する機関によって最大でCI=1.5程度の違いが生じる。
[編集] 熱帯低気圧がもたらす影響と被害
[編集] 災害
熱帯低気圧の多くはまとまった積乱雲を有し、多くの雨を降らせ、強い風を吹かせる。風については、勢力が強い(≒気圧が低い=周囲との気圧差が大きい)ほど強くなり、強い風の範囲も広くなる。
一般的に、熱帯低気圧固有の風速に熱帯低気圧の移動速度を足した分風速が増すため、熱帯低気圧の東側では風が強くなる。ただし、これはまっすぐに北上・南下する場合のことであり、厳密には進行方向と風向が一致する地域で風が強くなるため、東側以外でも風が強くなることがある。
[編集] 気象への影響
熱帯低気圧は、地球表面の大気の循環の中でも一定の役割を担っている。最大の役割が熱の運搬である。熱帯低気圧は地球上で最も暖かい赤道気団から構成され、大量の熱を持っている。熱帯低気圧が移動することにより、低緯度から高緯度へ暖かい空気が運搬されることになる。また、水蒸気が豊富な海上から、陸上へと水を運搬したり、上層と下層で温度が大きく異なる海水をかき混ぜて対流を抑える効果もある。
[編集] 関連項目
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北西太平洋 | 北東太平洋 大西洋 |
インド洋 南太平洋 |
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台風 "Typhoon" |
ハリケーン "Hurricane" |
サイクロン "Cyclone" |
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