沈黙の春
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『沈黙の春』(ちんもくのはる、Silent Spring, ISBN 978-4102074015)は、1962年に出版されたレイチェル・カーソンの著書。DDTを始めとする農薬などの化学物質の危険性を、鳥達が鳴かなくなった春という出来事を通し訴えた作品。
この本の反響によって当時の米政府が推進していた「化学薬品による有害生物絶滅計画」は中止になった。
1964年に初めて日本語に訳された際の題名は、『生と死の妙薬』(せいとしのみょうやく)だった。
[編集] 現在の評価
レイチェル・カーソンのこの著作は、あまり知られていなかったDDTの残留性や生態系への影響を公にし、社会的に大きな影響を与えているが、執筆から40年以上経過した現時点の最新の科学的知見から見ると、その主張の根拠となった1950年代の知見の中には、その後の研究で疑問符が付けられたものも存在する。例えばDDTは当時は発ガン性があるとする意見が多かったが、過去数十年にわたる追跡調査があるにもかかわらず、現在に至ってもDDTの人間に対する発ガン性は発見されていない。よって人間に関する限りDDTの発ガン性はなしと考えられている。またアメリカではオスのワニが生まれなくなっており、これは農薬のためではないかという指摘がなされているが、ワニの卵は温度によって性別が決まる性質を持っている事を著者は知らなかった。
また本書がDDTの世界的な禁止運動のきっかけとなった点についても、マラリア撲滅という視点から見ると後世に悪影響を与えたのではないかという指摘も存在している。DDTを使ったマラリアの予防は屋内、特に子供のベッドにDDTを散布し屋内感染を防ぐというもので、この予防法に対する先進国からの援助が打ち切られ、マラリアに対する死亡者が途上国で増加したと批判されている。一方で安価な殺虫剤であるDDTの田畑での農薬としての使用は途上国では最近までほとんど減少しなかった。このため猛禽類や水棲生物の減少による生態系破壊はそのままで、DDTに耐性を持つ蚊の増加をふやす結果となった。
本書が環境問題の告発という、大きな役割を果した、現在の環境運動の原動になったという評価はあるが、一方で化学物質は何でも悪であるという、科学的な根拠を無視した環境運動の原因の一つであるとの批判も存在する。