朝のガスパール
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『朝のガスパール』は筒井康隆の長編小説。1992年に朝日新聞社から刊行。朝日新聞の朝刊に連載され、読者からの投書、パソコン通信を使った読者参加のメタフィクションが話題となる。1992年日本SF大賞受賞。挿絵は真鍋博。タイトルはモーリス・ラヴェルの『夜のガスパール』より。
注意:以降の記述で物語・作品に関する核心部分が明かされています。
目次 |
[編集] 概要
この小説は一日一話ずつ掲載という新聞連載の特性を利用し、その日の掲載分を読んだ読者からの、投書やASAHIネットのBBSへの投稿を作品世界に反映させ、虚構と現実の壁を破るという実験的手法がとられた。具体的には、投書や投稿により物語の展開に対して読者が作者に要望を出すことが出来るというものだが、単にそうした企画であるにとどまらず、物語中に作者を模した小説家が登場し、その投書や投稿を引用して批評(時には激しく罵倒)するなど、作者独特の世界が開陳され従来の新聞小説に慣れた読者を驚かせた。BBSでは、単に読者からの要望を物語の展開に採用するのみならず、書き込み内容やハンドルネームから醸成されるBBS住人のキャラクターを登場人物の造形に利用したりもした。また、当時はインターネット普及以前で(BBSもいわゆる「パソコン通信」のものであった)、当時はまだ一般に普及しておらず言葉すらなかったオンラインゲームやオンライントレードに近いものが登場し、非常に先進的な設定を取り入れた小説であった。BBSそのものも、連載中に現在で言うところの「荒らし」「アスキーアート」「炎上」「祭り」などに相当する事態が頻発し、ネット社会を先取りする形となった。このBBSでのやり取りは「電脳筒井線-朝のガスパール・セッション」という全3巻からなるペーパーバックにまとめられ、出版された。 尚、1993年9月に筒井康隆が『断筆宣言』を発表した際、同作品で「『狂』という字が使えなかった」と朝日新聞社側から『用語規制』があった事を明らかにしている[1]。
[編集] 世界
この小説には世界が5重に存在する。オンラインゲーム「まぼろしの遊撃隊」内の世界、そのゲームに熱中する主人公達の世界、その主人公たちの物語を書いている(という設定の)小説家(筒井康隆ではない)や編集者の世界、その小説家の新聞連載に影響を与えている投書やBBSの世界(作者筒井康隆の脳内とも言える)、その投書を書いたりBBSに書き込んだりしている読者(現実)の世界である。通常ならば互いに交わるはずのない5つの階層に、筒井ならではの文学的実験(メタフィクションの手法)が試みられる。
[編集] ストーリー
金剛商事常務、貴野原征三はオンラインゲーム「まぼろしの遊撃隊」に熱中し、会社でもその話題で持ち切りだった。世間的にも大企業の重役や中間管理職クラスが、かつてのホワイトカラーが休日のゴルフを楽しんだように、このオンラインゲームを知的な遊びとして楽しんでいた。一方で貴野原の美貌の妻、聡子はセレブパーティ仲間にすすめられて始めた株のオンライントレードで巨額の損失を出し、消費者金融にまで手を出して多重債務を抱えこんでいた。夫に知られずに損失を取り戻すべく孤軍奮闘する聡子。貴野原の部下である石部智子は、「まぼろしの遊撃隊」の運営元「まぼろしの遊撃隊センター」を訪れる。そこにはセンターの責任者・時田浩作とその妻・敦子が住んでいた。[2]
…という小説を新聞に連載している作家・櫟沢は、読者からの新聞社への投書とパソコン通信のBBSへの投稿を物語の展開に反映させ連載を続けていた。投稿の内容は、セレブパーティを中心としたドメスティックな内容を希望する新聞投書と、「まぼろしの遊撃隊」の活躍するSFシーンを希望するBBS投稿とに大きく分かれていた。SFシーンを描けば、購読を中止するなどという非難の投書が増え、パーティ場面を描けばBBSに荒らしめいた投稿が目立つようになる。櫟沢は新しい手法を続けることに次第に頭を痛めるようになる。[3]
その投書や投稿の荒れ具合に呼応するかのように、「まぼろしの遊撃隊」も変化を見せ始める。連載初期の段階では、ある程度の知識と教養が要求されるゲームであり、登場人物達もそれにあわせて思慮深い人物達がメインになりゲームが進んでいたが、連載も後期になると単なる撃ち合い殺し合いのゲームに変貌し、それにあわせて貴野原たちもゲームに対する情熱を次第に失っていった。そんな中、夫・征三に巨額の負債があることを知られ、消費者金融からの督促に疲れ果てた聡子が、救いを求めるかのように「まぼろしの遊撃隊」にアクセスする。「まぼろしの遊撃隊」の登場人物で、ゲーム内での貴野原の分身でもある深江は、救いを求める聡子の声を聞く。そして他の隊員達と共に、彼女を助けるため『レベルの壁』を崩壊させる…
以上で物語・作品に関する核心部分の記述は終わりです。