月 (タロット)
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月(つき、The Moon)は、タロットの大アルカナに属するカードの1枚。カード番号は「18」。
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[編集] カードの概要
アーサー・エドワード・ウェイトのタロット図解における解説では「隠れた敵・幻想・欺瞞・失敗」を意味するとされる。また、カバラに於けるヘブライ文字の神秘的解釈と関連付けた解釈では、ヘブライ文字コフ(ק)を介して西洋占星術上では「双魚宮」と結び付けられ、生命の樹に於けるネツァクとマルクトのセフィラを結合する経に関連付けられている。
[編集] 絵の意味
ウェイト版とマルセイユ版を見比べて分かるように、22枚の大アルカナの中でウェイトが(世界などと同じく)大きく構図を変更しなかったうちの1枚である。主な相違点といっても、水(濠)の中の甲殻類の位置や建物の形の他は全体の配色程度に留められている。だが、ウェイト版では2匹の犬が遮る道を「整備された道」として描いている。この変更は象徴的に重要な意味を表しており、整備された道は既に人の手が加わっている事を暗示する。つまり、後述する「試練」についてこれから挑むのではなく既に終わった事を暗示し、見る者の側の立ち位置を決定的に変えてしまっているのである。
マルセイユ版においては、この「道」は前人未到の荒野に生える「草」として描き表されている。この草は、現実的な緑色ではなく黄金色であることから、象徴的に「黄金の華」即ち「不死の華」を咲かせるものと解釈され、「月」ではその「華」に近づくことが困難であることを暗示している。さらに草が2本で一対として描かれるのは、2匹の犬、2棟の建物と共に「双子」の反復表現であり、無意識の中から出現する「像」が、18番の「月」においてより意識的に具体性を帯びてきたことを表している。
「月」の名前の示す通り、このカードには人面の月が描かれている。象徴的に月は、夜を呼び、闇を呼び、陰であり、マイナスであるが、夜は朝を呼び、闇は光を際立たせ、陰は陽でもあり(太極図参照)、マイナスはプラスを呼び寄せる。また、月は「女性」や「女神」の象徴として扱われ、様々な絵画の中に女性と共に登場し、陽への対立物として解釈が行われる。一見すると、描かれる月が人の顔を持っていることから母性的な側面を感じさせる。しかし、マルセイユ版に描かれる雫の形は下向きではなく上向きに描かれている。この「雫」はマナ等のような創造的エネルギーの象徴と解釈され、大地に降り注ぐ下向きではなく、月がエネルギーを吸い上げているように上向きに描かれていることから、この「月」が肯定的な「母性・女神」よりも「悪妻・魔女」といった否定的な存在であると解釈されることが多い。
カードの両脇には塔のような建物が見える。この建物は世界への入り口となる門を表しており、手前に位置する2匹の犬は文字通り番犬を表しているといえる。この犬は自己の内面における動物的本能を表し、門へ続く道を遮る姿は凶暴化した本能の象徴と解釈され、やがて今日の人間と犬の関係に見られるように事態が好転して行くであろう事を暗示している。
問題はザリガニである。ギリシャ神話などでは、カニがヘラクレスを川へと引きずり込もうとする等、甲殻類が悪役として扱われることがある。このザリガニはカードを見る者の側ではなく「門」の方を向いている。さらにマルセイユ版では水中に沈んだ状態であることから、2匹の犬とは違い、行く手を遮っている訳では無いことを暗示する。このザリガニは未だ試練を超える事の出来ていない状態を暗示し、「月」の負の力に挑む内面の葛藤を表している。故にウェイト版では、ザリガニは水面に姿を出し、地平線にはうっすら光が差し始め、月は敗北を認めたかのように俯(うつむ)き、雫を大地へと帰す。
- 正位置の意味
- 不安定、幻惑、現実逃避、親友の裏切り。
- 逆位置の意味
- 軽微なミス、過去が蒸し返される、徐々に好転。
[編集] 参考文献
- サリー・ニコルズ『ユングとタロット』ISBN 4-7835-1183-7
- アルフレッド・ダグラス『タロット』ISBN 4-3092-2428-8
- 井上 教子『タロット解釈実践事典―大宇宙の神秘と小宇宙の密儀』ISBN 4-3360-4259-4