後発医薬品
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後発医薬品(こうはついやくひん、Generic drug)とは、成分そのものやその製造方法を対象とする特許権が消滅した先発医薬品について、特許権者ではなかった医薬品製造メーカーがその特許の内容を利用して製造した、同じ主成分を含んだ医薬品をいう。先発医薬品の特許権が消滅するとゾロゾロたくさん出てくるので「ゾロ」「ゾロ薬」等と呼ばれていたが、商品名でなく有効成分名を指す一般名(generic name)で処方されることが多い欧米にならって、近年「ジェネリック医薬品」とよばれるようになった。
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[編集] 現状
諸外国に比べ、日本では普及が進んでいない。普及を妨げる理由には安定供給がなかなか難しいというジェネリック医薬品メーカーの問題とジェネリック医薬品に対する医師・薬剤師の知識不足がある[1]。
現状で後発品の普及がすすんでいる国は英国、米国、ドイツなどで以下に各国の普及率(数量ベース)を示した[2]。
- 55% 英国
- 53% 米国
- 46% ドイツ
- 17% 日本
- 13% フランス
なお2006年のデータでは従来普及率の低かったフランスが39%に伸びている。現在、日本でも医療費抑制のため厚生労働省主導でジェネリック医薬品(後発品)の普及が進められている。具体的な動きとして、2008年4月より処方箋の書式が変更になり「病気に対して処方できるジェネリック医薬品がない」「患者が新薬を望んでいる」など特別な事情がない限りジェネリック薬が処方されるようになった。この動きにあわせて各医薬品メーカーはジェネリック医薬品の積極生産へシフトしつつある。
[編集] 特許
新薬(先発医薬品)の開発には巨額の費用と膨大な時間を必要とするために、開発企業(先発企業)は新薬の構造やその製造方法、などについて特許権を取得し、自社が新規に開発した医薬品を製造販売することによって、資本の回収を図る。また、その新薬で得た利益を新たな新薬の開発費用として投資する。当然、特許の存続期間が満了すると、他の企業(後発企業)も自由に先発医薬品とほぼ同じ主成分を有する医薬品(=後発医薬品)を製造販売ができるようになる。
特許権の存続期間は、原則として特許出願日から20年の経過をもって終了する。しかし、新薬の製造販売の承認を得るには長期間を要するため、特許権を取得したにもかかわらず、対象となる医薬品の製造販売の承認が依然として得られないケースが多い。その場合、特許権の存続期間を最長で5年間延長できる。
先発企業は同一薬効成分に新たな効能・適用・結晶型などを発見することで特許権を追加取得したり、製剤・剤型を見直して効能以外の付加価値をつけるなどして、後発企業の進出に対抗する。
[編集] 承認申請
新薬(先発医薬品)の承認申請には、発見の経緯や外国での使用状況、物理的化学的性質や規格・試験方法、安全性、毒性・催奇性、薬理作用、吸収・分布・代謝・排泄、臨床試験など数多くの試験を行い、20を越える資料を提出する必要がある。
これに対して後発医薬品では、有効性・安全性については既に先発医薬品で確認されていることから、安定性試験・生物学的同等性試験等を実施して基準をクリアすれば製造承認がなされる。生物学的同等性試験とは先発品とジェネリック医薬品の生物学的利用能を比較評価することにより行われ、投与者の生物学的利用能に統計的に差がなければ効果も同じで生物学的に同等であるものと判断される。血中濃度の推移が同等であれば生物学的効果に差がないとする考え方は米国FDAを始め諸外国でも同様に認められた解釈である[3]。新薬と主成分が全く同じである後発医薬品に、新薬と同等のハードルを課すことは経済的でない点から考慮すると合理的な試験である。
一方、承認申請時に必要な書類は、規格および試験方法、加速試験、生物学的同等性試験のみであり(医薬品により長期保存試験も必要となる)、7つの毒性試験が全て免除されていることは問題、とする意見がある。
[編集] 生物学的同等性試験
後発医薬品が、先発医薬品と同等の薬効・作用を持つことを証明するために、後発医薬品の承認申請には、生物学的同等性試験のデータが必要とされる。
生物学的同等性試験では、原則として、ヒト(健常人)に先発品、後発品を投与して両者の血中濃度推移に統計学的な差がないことを確認する。より具体的には、先発品、後発品を、各々10名~20名程度のヒト(健常人)に投与し、一定時間ごとに採血を行い、薬物血中濃度の推移を比較し、両群の間に統計学的な差がないことを証明する手法がとられる。ただし、倫理的な面や、製剤特性等の理由から、ヒト以外の動物での試験が認められることもある。
日本では現在、厚生労働省より通達されている「後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドライン」に従って生物学的同等性試験は行われている。
[編集] 品質再評価
1997年4月以降、新薬の承認時には溶出試験規格の認定が義務付けられ、 当該医薬品の後発品についても自動的に溶出試験規格が求められているが、それ以前の医薬品には溶出試験規格が無い。そこで溶出試験規格が無い医薬品のうち、後発医薬品があり、かつ先発医薬品との同等性を設定する必要がある約550成分(約7000品目)を対象として、1997年2月から国が品質の再評価を始めた。
[編集] オレンジブック
オレンジブックとは後発医薬品の使用促進のため米国で発刊されているもので、 FDAが先発医薬品と後発医薬品の生物学的同等性の判定を行い(生物学的同等性試験)、 その治療上の同等性についての評価を掲載したものである。
日本版オレンジブックとは「医療用医薬品品質情報集」のことで、上記の品質再評価の経過や結果を掲載したものである。
日本版オレンジブックは通知のごとに発行されるため一覧性が無く、通知に含まれない重要な品質再評価情報が掲載されないことがある為、日本ジェネリック製薬協会がこれらを補い更に広範囲の情報を掲載したものを「オレンジブック総合版」としてネット上で公開している[4]。
[編集] 日本での経緯
後発医薬品の普及率は、アメリカ、ドイツ、イギリスなど一部の国では数量ベースで5割近くを占めるのに対し、日本では1割程度に留まっていた。これはブランド嗜好が強い国民性やパターナリズム(家父長主義)が浸透していた医療の現場において医師が、情報提供が少なく信頼性に不安を感じる後発医薬品よりも、長年の育薬に基づく豊富な情報が提供され、後発品に比べて薬効・供給量の安定している先発医薬品を処方した為と考えられる[5],[6]。
医療費に占める薬剤費比率は、上昇傾向の欧米諸国に対し、日本は薬価差(=保険請求価格-購入価格)削減により低下傾向を示し、既に仏・伊より低率となった。しかし依然、高めな理由は投薬の種類・量が多い為ではなく、先発医薬品の薬価が高すぎる為であり、経済産業省もこれを国際的に適正な額にまで引き下げれば、1兆5千億円程度削減できる、との試算を発表している。
近年、急に後発医薬品であるジェネリック医薬品が注目されるようになったのは、バブル崩壊後の長引く不況の中、長年の放漫経営による健康保険財政の破綻に直面し、政府が少子高齢化を迎えての医療費削減を唱え、その一環として薬価の低い後発医薬品に着目した為である。
しかしながら、低価格な錠剤では先発医薬品との価格差が顕著に表れない例もある。例えば、歯痛、腰痛などに一般的に使われる解熱鎮痛剤のロキソプロフェンを比較すると、患者負担では1錠5円の違いしかない。
ロキソニン錠60mg 1錠23.3円(3割負担額8円)第一三共株式会社
サンロキソ錠60mg 1錠 9.8円(3割負担額3円)株式会社三恵薬品
[編集] 処方箋様式
2006年4月より処方箋の様式が変更となり、医師が処方箋中の「後発医薬品への変更可」欄に署名(または記名押印)すれば後発医薬品に変更して調剤することが可能となった。しかし当該欄の利用頻度が伸びなかったため、2008年4月より、後発医薬品への変更が認められない場合「後発医薬品への変更不可」欄に署名する形式に再変更された[7],[8]。
[編集] その他
・先述の生物学的同等性試験によって先発品・後発品の同等性は証明されているが、実際に使用した患者や医師からは、効果に違いがあるとの意見も見られる。 その理由となる可能性として多く挙げられるのは、添加物などの副成分が異なることである。このことにより、いずれも個人差はあるが、内服薬の飲み易さ、外用剤の剥がれ易さなどに違いが生じる場合がある。特に小児科においては、小児用内服薬の矯味(味付け)が商品により異なるため、商品を変更すると患児の嗜好によっては服用させること自体が困難になることがあり、切り替えには慎重を要する。
いずれも必ずしも先発医薬品の方が良質とは限らず、後発品によっては先発品以上の服用・使用しやすさを実現し、好評を博している商品もある。
・後発企業の多くは準大手・中小企業であり、大手新薬メーカーに比べ、供給面での不安定さが指摘されている。
・後発医薬品の企業の医薬情報担当者(MR)の数が少なく、医師や薬剤師の情報収集の観点から不安の声もある。しかし、後発医薬品が発売される時期には、先発医薬品は発売後10年以上が経過していることが一般的であり、十分な副作用情報が蓄積されていることや、近年では、医師、薬剤師が、副作用情報入手にインターネットを活用していることから、後発医薬品に関してMRからの情報をさほど期待しないとする医師も多い。
・後発企業は先発企業に対抗するために薬剤の販売に大幅な値引を行うことがある。その結果、2年に1回の薬価改定では大幅な薬価の値下げが行われる。そこで、後発企業はさらに値引き販売をすることになり薬剤価格の競争均衡が実現され、消費者は需要と供給に基づいた市場価格で薬剤を入手することができるようになる。一方、最終的に採算が合わなくなった一部の後発企業は採算の合わない薬剤を販売中止してしまうことがある。過去には、1ロットを製造した後、在庫が切れたら販売中止してしまうこともあった(これを売り逃げという)。しかし、近年では、厚生労働省の指導により、売り逃げを行う企業には製造販売承認を与えないことになっており、新規申請においては状況は改善されつつある。しかし、一部には、長期にわたり販売した製品を販売中止した例もみられる。(ナシンドレン:辰巳科学、など) また、新薬メーカーの持つ特許を侵害し開発・販売すると、訴訟問題となり、結果製造中止や回収となる場合もある。(セフジニル:大洋薬品、など)
・同じ成分の先発医薬品と後発医薬品で効能・効果(適応症)が異なることがある。これは先発医薬品が有する用途特許が残っており、それが原因で同じ成分の後発医薬品がその効能・効果を謳えないことに起因する。
[編集] 取扱会社
- 沢井製薬
- 鶴原製薬
- 東和薬品
- 日医工(新薬も取り扱っている)
- 大洋薬品工業(医薬品の生産受託も行っている)
- 日本ケミファ(新薬も取り扱っている)
- 共和薬品工業(ルピン(インドのジェネリックメーカー)傘下)
- キョーリンリメディオ(キョーリン傘下)
- メルク製薬(ドイツメルク傘下、米国のメルクとは関係ない。)
- 二プロファーマ(二プロの子会社、医薬品の生産受託も行っている)
2007年5月現在、日本に後発医薬品企業は300社以上あると言われている。また田辺三菱製薬や塩野義製薬など「先発メーカー」と言われている製薬メーカーも後発医薬品を主要事業の1つとして位置付け、取り組みを始めている。
[編集] 脚注
- ^ [1]
- ^ [2]
- ^ [3]
- ^ [4] オレンジブック総合版
- ^ [5]
- ^ [6]
- ^ [7] 厚生労働省中央社会保険医療協議会診療報酬基本問題小委員会資料
- ^ [8] 厚生労働省中央社会保険医療協議会診療報酬基本問題小委員会議事録