労働貴族
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労働貴族(ろうどうきぞく)とは、使用者や政治家と癒着するなどして、労働者の擁護とは懸け離れた行動をする労働組合幹部を揶揄する語。
[編集] 社会主義国の例
「全ての労働者の平等」の実現をその最大の目的においた共産主義や社会主義が発展する段階で、党中央や労働組合などに所属する一部の労働者が、その運動や活動の過程で権力や財力を得て、「全ての労働者の平等」とは懸け離れた状態、そのような行為を行っている人物を指す。
旧ソビエト連邦や中華人民共和国など、名目では社会主義や共産主義を称する国家における共産貴族が典型例である。
[編集] 資本主義国の例
南アメリカでは、財界・企業経営者と一部労働組合の癒着が見られる国家が少なくない。ベネスエラでは、労働組合幹部が、資本家とともに福祉を独占していた。
韓国では、現代自動車など大企業の労働組合が強く、特に現代自動車労組はほぼ毎年ストライキを繰り返し「現代自動車の工場ラインは年に11ヶ月しか稼動しない」とまで言われている。2007年9月の労使合意では、労組は1997年以来10年ぶりにスト無しに年内の賃金・団体交渉の合意に至ったが、合意事項には「新車の生産工場と生産量を労使共同委員会で審議・議決する」「海外工場の新設・増設はもちろん、国内生産車種の海外移転や海外生産製品の第3国輸出までも労組の同意を受ける」という内容となっており、今後の工場建設や国内車種の海外移転、海外生産品の輸出に至るまで、組合員雇用に影響を及ぼす事案について労組の同意を必要とすることになるという、事実上現代自動車は経営権を労組に握られたに等しい状況となった。労組が事実上の経営権を掌握したという例は、資本主義国家では前例が無い、前代未聞の事態であった。[1]
1960年代以降の日本では、労使協調路線の下で、御用組合幹部は経営者から特権を与えられ、組織内での出世が約束されることが多かった。一部では、左翼系労働運動のリーダーが労働貴族化し、労働者の権利保護とは無縁のイデオロギー闘争に明け暮れた例がある。また、バブル崩壊以降の日本では、派遣社員、契約社員など非正規雇用の労働者が急増したにも関らず、組合への加入資格を正社員に限定し続けたために、割合として決して高くなく、比較的優遇されている正社員のみによる組合が「労働者の代表」として労使交渉を行っていた。その結果、「正社員の新規採用を停止し、少数派の正社員の雇用、所得を確保するためにそれ以外大部分の労働者の待遇を切り下げる」といった事が蔓延し、実質的に正社員側が労働貴族と化してしまっているケースも見受けられる。(この場合「労働貴族」という言い方はあまりしない) 結果的に組合加入率の低下に直結し、労働組合そのものの求心力の低下を招く結果に繋がってしまった例も見受けられる。
日本の労働貴族の代表的な人物としては、日産自動車で御用組合路線を作り「塩路天皇」と呼ばれた塩路一郎が挙げられる。塩路は、高杉良の小説『労働貴族』のモデルにもなっている(高杉は『対決』においても労働貴族を採り上げている)。