分娩
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
この項目には、オペレーティングシステムやブラウザなどの環境により表示が異なる文字があります。「娩」の文字は公式の表記と異なる可能性があります。 |
分娩(ぶんべん)とは、哺乳類などの胎生の動物で、胎児が雌の胎内(子宮内)から出ること、および出る経過を指す。お産(おさん)、あるいは出産(しゅっさん)とも言うが、出産は社会的、文化的側面も含み、分娩よりも広い概念である。
胎児がその種の標準に照らし合わせて十分成熟して体外に出る場合を正期産と呼ぶ。 正期産分娩に至るまでの期間や分娩時の成熟度は種によってまちまちである。 標準より早い場合は「早産」「流産」、遅い場合は「過期産」と呼ぶ。
分娩(お産)が比較的楽にできる場合は「お産が軽い」、何らかの困難を伴う場合は「お産が重い」という言い方をする。 カンガルーのようにごく小さく産む種ではお産は軽いが、人間のように胎児が大きい場合、お産は重くなる。
目次 |
[編集] 人間の分娩
満期産では妊娠37週から41週頃において、子宮が周期的に収縮を繰り返し、収縮に痛みが伴い始める(「産気づく」)。最初は、間歇的に突っ張る程度だったのが、だんだん強度と頻度を増していく)。子宮の有痛性の定期的な収縮が10分周期となった時点で陣痛発来という。ただし、いったん陣痛が発来したもののその後陣痛が消失した場合は、その陣痛は偽陣痛であったとされる。
子宮の収縮で胎児の頭が子宮口をだんだん押しひろげていく。子宮口が広がることを子宮口開大と言う。多くは収縮を繰り返すうちに、胎胞の卵膜が破れて羊水が出る(破水)。
児頭直径がおよそ10cmであった場合、子宮口の直径10cmで「全開大」と言われる。
陣痛が発来し、分娩が進行するとともに産婦にいきみたい感じが生じ(「努責(いきみ)」息を止めて腹に力を加えるような状態)、胎児はゆっくりと回旋しながら産道を下降し、ついには母体から出る。
分娩は第1期から第3期まで分けられる。
[編集] 正常経腟分娩の所要時間
経産婦では各々約6時間、1時間、10分、初妊婦ではその倍の約12時間、2時間、20分、といわれているが、その所要時間は個体差が著しい。
[編集] 分娩第1期
分娩第1期は分娩開始(陣痛発来)から、子宮口全開大になるまで。分娩第1期を開口期とも言う。
[編集] 分娩第2期
分娩第2期は子宮口全開大から胎児が娩出されるまで。分娩第2期は娩出期とも言う。
[編集] 分娩第3期
分娩第3期は児娩出から胎盤と臍帯が娩出し終わるまで。児娩出によって不要となった胎盤は、児娩出の後数分で剥がれ、娩出される。胎盤は胞衣と呼ばれることがある。後産によって胎児付属物が娩出される事を後産娩出と言う。分娩第3期は後産期、後産とも言う。
元気な新生児は出生直後から啼泣し、肌は赤みがかっている。陣痛発来前の子宮内環境が思わしくなかった児や、分娩中の低酸素状態により大きなストレスがかかった児は産声を上げず、肌は血の気がなく青白いことがある。状態によっては直ちに蘇生処置が必要となる。娩出直後の児の状態をあらわす指標にApgar scoreがある。
[編集] 分娩の異常
分娩は「分娩の3要素」全てが揃わないと正常に営まれない。分娩の3要素とは、娩出力、産道、娩出物(胎児、胎盤、等)、であり、これらが揃わないと難産となる。
[編集] 産道の異常
産道の評価方法としてビショップスコアがある。
- ビショップスコア(Bishop Score、Bishopスコア)
点数 | [単位] | |||||
0 | 1 | 2 | 3 | 点 | ||
検査項目 | 児頭下降度 | ~-3 | -2 | -1~0 | +1~ | [Sp] |
頸管開大度 | 0 | 1~2 | 3~4 | 5~ | [cm] | |
頸管展退度 | ~30 | 40~50 | 60~70 | 80~ | [%] | |
子宮口の位置 | 後方 | 中央 | 前方 | |||
子宮口の硬度 | 硬 | 中 | 軟 | |||
表.1 ビショップスコア |
-
- ビショップスコアは子宮頸部の熟化を判定する指標。
- 方法
- 右の表.1を元に点数を合計して算出する。
- 判定
- 13点満点中、判定は~8点で頸管未熟、9点~で頸管熟化と判定する。
ビショップスコア | 判定 |
~8点 | 頸管未熟 |
9点~ | 頸管熟化 |
-
- 歴史
- ビショップ博士によって考案された。
- 歴史
[編集] 娩出物の異常
巨大児は経膣分娩においては難産になりやすく、分娩停止に陥りやすい。特に児頭が通っても肩が通らないことを肩甲難産と言う。児頭娩出後に前在、後在娩出が長引くようであれば肩甲難産である。
[編集] 帝王切開
骨盤位や狭骨盤など、経膣分娩での危険が予想される場合、妊娠高血圧症候群などで妊娠を早期に終わらせる必要がある場合、胎児が極小のうちに早産が避けられない場合などに、胎児および母体の安全を図るため、帝王切開が行われる。
[編集] 胎児の位置の異常
分娩時の胎児の胎位と胎向と胎勢は分娩経過に大きな影響を及ぼす。胎勢は分娩経過中に変化することもあり、難産の要因となることもある。
- 胎位
- 胎位とは胎児の長軸と子宮の縦軸の位置関係を示すもので、縦位、横位、斜位がある。縦位で児頭が先進するものを頭位、骨盤端または下肢が下方にあるものを骨盤位という。
- 胎向
- 縦位では児背、横位では児頭が、母体の左右・前後に対する向きをいう。第一胎向は児背が母体の左側を、第二胎向は母体の右側に位置しているものを意味する。さらに児背が母体の前方に傾くのを第一分類、母体の後方に傾くのを第二分類という。
- 胎勢
- 胎勢とは胎児の姿勢を示すもので、正常な胎勢は屈位であり、異常な胎勢は反屈位である。反屈位は程度により頭頂位、前頭位、額位、顔位に分けられる。
分娩の難度に関係するものは胎位と胎勢である。胎向は殆ど関与しない。胎位、胎向、胎勢はLeopold診察法で確認をすることができる。
胎児の回旋の異常に関しては内部リンク低在横定位や高在縦定位を参照のこと。
[編集] 分娩の評価
分娩の進行度合いの評価としてパルトグラムによる評価と、フリードマン曲線、また分娩の進行に伴う胎児ジストレスの発見のための分娩監視装置というものがある。
[編集] パルトグラム
パルトグラムは分娩進行状態を一目で把握できるように記載した表である。パルトグラムで記載される代表的なパラメータを列記する。
- 頸管開大部
- 先進部の下降度
- 先進部の回旋状況
- 母体のバイタルサイン
- CTGのデータ
パルトグラムの異常としては以下のものが有名である。
- 始めから降りてこない、分娩が開始しない
- 子宮頚管の未成熟、または児頭骨盤不均衡の疑い
- 途中から降りてこない
- 微弱陣痛、回旋異常
[編集] フリードマン曲線
分娩の進行状態を表すもので、児頭の下降度と頸管の開大度を分娩所要時間に対してあらわしたもの。遷延分娩の診断に役に立つ。典型的にはS字型カーブを描く。分娩第一期から分娩第二期(破水)までを記述する。
[編集] 分娩監視装置
遅発一過性徐脈や変動一過性徐脈を見つけたら、胎児ジストレスを疑う。
[編集] 種類
- 分娩の重さにはかなり個人差がある。
- 初産の場合、産道・子宮口が固いため、通常は分娩に時間がかかる。第一子を通常分娩で出産した婦人の場合、第二子以降の分娩は、第一子の時に比べて軽くなる。
- 「流産」
- 「早産」
- 「過期産」と呼ぶ。
分娩直前
- 胎児
- 子宮収縮
- 子宮口
- 産道
- 分娩準備 - 点滴、監視装置ほか
陣痛
- 個人差
- 陣痛微弱
- 陣痛促進剤 - 問題点
- 分娩監視装置
- 監視(表示・記録・警報)する生体現象は、母体の子宮収縮曲線(陣痛の度合い)、母体の心電図および心拍数、胎児の心電図および心拍数の概ね3点である。陣痛による子宮収縮が起こると胎児は圧迫され胎児心拍数は低下する。子宮収縮の間隔が定期に移行することと、過度の胎児心拍数低下を監視する目的を持つ装置。母体へは子宮底部の硬直状態を検出するトランスデューサがベルトによって腹部に装着され、母体および胎児の心電検出の電極が心電計と同様に四肢に装着される。胎児心拍の検出には母体心拍検出用の電極が兼用され、特許を含む高度な電子回路によって母体と胎児の心電が分別される。多胎を想定し胎児の心電検出のロジックには高度の電子技術が用いられている。
正常分娩の過程
- 分娩第1期
- 分娩第2期
- 分娩第3期
異常分娩
- 胎児の異常
- 産道の異常
- 娩出物の異常
- 帝王切開
- 墜落分娩
無痛分娩
- 医薬的手段
- ラマーズ法(Lamaze Technique)
- その他
産後:産褥期
[編集] 分娩で用いる薬物
- 塩酸リドトリン:子宮収縮抑制薬
- オキシトシン:子宮収縮促進薬
- 硫酸マグネシウム:陣痛が強すぎるとき用いる。
(陣痛促進剤も参照)
[編集] 関連項目
- 出産方法: 呼吸法、ラマーズ法、水中出産、LDRシステム
- 帝王切開