仮差押
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
この項目は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。ご自身が現実に遭遇した事件については法律関連の専門家にご相談ください。免責事項もお読みください。 |
仮差押えないし仮差押(かりさしおさえ)とは、金銭債権の執行を保全するために、債務者の財産の処分に一定の制約を加える裁判所の決定をいう(表記に関する注:民事保全法の条文上は、「かりさしおさえ」の後に別の名詞が直接続くかどうかによって「え」の文字を送るかどうかが区別されている。例「仮差押命令においては、仮差押えの執行の停止を得るため」(民事保全法22条1項の抜粋)。本稿では項目名(仮差押)の表記にかかわらず、法文の区別に従うこととする。)。
- 民事執行法は、以下で条数のみ記載する。
目次 |
[編集] 仮差押の制度概観
債権者が債務者に対し、実体法上、金銭債権を有している場合であっても、債務者がその存在や内容を争った場合には、債権者は、最終的には民事訴訟の手続を経た上で債務名義(判決など、権利の存在及び内容を示す文書)を取得し、これに基づいて強制執行をする必要がある。
このような債務名義の取得には、一定の時間が必要となるが、これは適正手続の保障の観点からやむを得ない。しかし、債務名義を取得したときに債務者の財産が散逸してしまっており、債権者が強制執行しても満足を得ることができないという事態は避けなければならない。そこで、民事保全法は、金銭債権の執行を保全するために仮差押えの制度を整備している。
なお、仮差押命令の対象となった財産の処分が法律上禁止されるわけではない。例えば、不動産に対して仮差押えがされた場合であっても、あえて債務者が第三者に当該不動産を売却することは法律上可能であり、所有権移転登記をすることもできる。ただし、仮差押えの被保全債権の存在が民事訴訟により確定され、債権者が債務名義を得て仮差押えが本差押えに移行した場合、仮差押登記の後の登記権利者は仮差押債権者に対抗できない。このような形で債務者の財産への追及を可能にしているのが仮差押えの制度の特徴である。
仮差押えの対象は不動産、船舶、動産及び債権その他の財産権である。
仮差押えの申立てには、時効中断効がある(民法147条2号)が、権利者の請求によりまたは法律の規定に従わないことにより取り消されたときは、時効中断効を生じない(同法154条)。
[編集] 仮差押命令の発令手続
仮差押命令は、債権者の申立てにより裁判所が決定で行う。仮差押命令の申立てがされたことが債務者に知られると、債務者が急いで仮差押えの財産を処分する可能性があるので、債務者の審尋を行わないのが通常である。
仮差押命令の申立てに当たっては、債権者は、被保全債権(債権者の債務者に対する金銭債権の存在)及び保全の必要性(本案訴訟を提起して判決を待っていたのでは強制執行をすることができなくなり、又は著しい困難を生ずるおそれがあること)を疎明する必要がある(13条、20条)。
仮差押えの対象となる財産は特定すべきなのが原則だが、動産についてはこの限りではない(21条)。 (stub)
[編集] 担保
裁判所は、債権者に担保を立てさせて、又は担保を立てさせないで保全命令を発令することができる(14条)が、仮差押えについては担保を立てさせるのが通例である。ここにいう担保とは、仮差押命令の被保全債権が存在しなかったにもかかわらず仮差押命令を受けたために債務者が被った損害等に充てられるためのものである。
担保の額は、仮差押えの対象となる財産の価額の一定割合として定められることが多い。 (stub)
[編集] 仮差押命令の執行手続
不動産に対する仮差押命令の執行は裁判所書記官の嘱託による仮差押えの登記により行われる(民事保全法47条)。
動産に対する仮差押命令の執行は執行官が目的物を占有することにより行われる(民事保全法49条)。
債権に対する仮差押命令の執行は、第三債務者(仮に差し押さえられた債権についての債務者)に対し債務者への弁済を禁止する命令により行われる(民事保全法50条1項)。なお、債権者の申立てに基づき、第三債務者に対する陳述催告も仮差押命令の告知の際に行われる(民事保全法50条5項、民事執行法147条)。