中小企業診断士
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中小企業診断士(ちゅうしょうきぎょうしんだんし)とは、中小企業支援法(昭和38年法律第147号)第11条第1項の規定に基づき、経済産業大臣により「中小企業の経営診断の業務に従事する者」として登録された者を指す。 経営・業務コンサルティングの専門家としては唯一の国家資格である。
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[編集] 中小企業診断士の業務
名称独占資格であるため、法律で規定された独占業務はないが、都道府県等の中小企業に対する公共診断や産業廃棄物処理業診断(産業廃棄物処理業者の許可申請に必要となる財務診断)などが公的に保証されている。しかし、これらの業務のみを行っている中小企業診断士はわずかである。 社団法人中小企業診断協会が平成17年9月に行った調査によると、中小企業診断士の業務内容は、「経営指導」が27.5%、「講演・教育訓練業務」が21.94%、「診断業務」が19.69%、「調査・研究業務」が12.84%、「執筆業務」が11.56%となっている。 因みにコンサルティング業務そのものは中小企業診断士の資格がなくとも行うことができる。ただし、国家資格の取得に伴い、国や都道府県等が設置する中小企業支援機関に専門家として登録できること、公共診断に加わることができること、経営コンサルタントとしての信用力が向上すること、中小企業診断士のネットワークを活用できることなど、有資格者ならではのメリットは多い。
[編集] 独立開業者の割合
中小企業診断士として独立している者の割合は27.6%(平成17年12月時点)、有資格者のうちの7割以上は独立開業を行わず、企業内にとどまる「企業内診断士」となっており、他の士業と比較して独立開業する者の割合が低いのが現状である。
これらの理由としては、中小企業診断士の試験内容が経営やマーケティング全般におよび、ビジネスマンとしての資質向上に直結するため、自己啓発を目的とした資格取得者が多いこと、また業務の性質上、独立に際しては、相応の実践的スキルが必要になることなどが考えられる。前述した社団法人中小企業診断協会の調査でも、中小企業診断士の資格を取得した動機のトップは「経営全般の勉強等自己啓発、スキルアップを図ることができるから」となっており、また、「企業内診断士」が独立開業を行わない(独立開業を予定していない)理由の上位には経済的不安とともに、現在の能力不足が上げられている。
[編集] 沿革
- 昭和27年(1952年) 通商産業省により中小企業診断員登録制度が創設される。
- 昭和38年(1963年) 中小企業指導法(現行の中小企業支援法)が制定され、国や都道府県が行う中小企業指導事業に協力する者として中小企業診断員の位置付けを法定化(第6条)。ただし、法律上はあくまでも通商産業大臣が登録を行うことのみを定めており、具体的な資格は「中小企業指導事業の実施に関する基準を定める省令(指導法基準省令)」(昭和38年通商産業省令第123号)第4条に、試験についてはさらに通商産業省告示で定める登録規則に根拠を置いていた。
- 昭和44年(1969年) 中小企業診断員を中小企業診断士に改称。
- 昭和61年(1986年) 従来、商業と工鉱業の二つであった登録部門に「情報」を追加。
- 平成12年(2000年) 中小企業指導法の大幅改正(このとき、表題を「中小企業支援法」に変更)により、以下のとおり大きな制度改革を実施。
- 中小企業診断士の位置付けを「国や都道府県が行う中小企業指導事業に協力する者」から「中小企業の経営診断の業務に従事する者」に変更
- 登録の根拠条文の独立化(第11条)
- 試験の根拠規定の創設(第12条)
- あわせて、指導法基準省令の大幅改正(現行表題は、「中小企業支援事業の実施に関する基準を定める省令(支援法基準省令)」)と、新たな試験について「中小企業診断士の登録等及び試験に関する規則(登録等規則)」(平成12年通商産業省令第192号)を制定。登録部門の区分はなくなり、一本化された。
- 第1次試験を選択式(マークシート)とし、第2次試験を筆記試験(事例問題)及び口述試験として、第3次試験(実習)を試験合格後の実務補習に移行
- 平成13年(2001年) 制度改正後初の中小企業診断士試験を実施。
- 平成17年(2005年) 新試験制度5年経過にあわせて見直しを実施するため支援法基準省令及び登録等規則の改正が行われた。
- 第1次試験に科目合格制(3年間有効)、一部科目の第2次試験への移行及び合格基準の弾力化措置を導入
- 従来中小企業大学校のみに設置されていた中小企業診断士養成課程を民間の登録養成機関にも開放するとともに、養成課程受講資格に第1次試験合格を必須化(いわゆる「第1次試験の共通一次化」)
- 更新要件のうち実務の従事要件の強化及び登録休止・再登録制度を導入
- 平成18年(2006年) 見直し後初の中小企業診断士試験を実施。
[編集] 登録要件
中小企業診断士として登録を受けるには、以下のいずれかの登録要件を満たす必要がある。
- 中小企業診断士第2次試験に合格した後3年以内に、実務従事要件を満たすか、登録実務補習機関における実務補習(15日間)を受講し修了すること。
- 中小企業診断士第1次試験に合格した年度及びその翌年度に、独立行政法人中小企業基盤整備機構中小企業大学校又は登録養成機関が開講する中小企業診断士養成課程の受講を開始し、修了すること。
[編集] 更新要件
登録の有効期間は5年間であり、以下の更新要件をいずれも満たした上で登録の更新が必要となる。
- 新しい知識の補充に関する要件(5年間で5回。理論政策更新研修、論文審査等による。)
- 実務の従事要件(5年間で30日以上。)
なお、更新要件を満たすことができない場合には、登録の休止を行い、15年以内に一定の要件を満たすことにより再登録が可能である。
[編集] 中小企業診断士試験
中小企業診断士試験は、中小企業支援法第12条の規定に基づき国(経済産業省)が実施する国家試験であり、試験事務は指定試験機関である社団法人中小企業診断協会が実施している。 試験は第1次試験と第2次試験に分かれる。
[編集] 第1次試験
中小企業診断士となるのに必要な学識を判定するもので、多肢選択式で実施されている。平成18年度からは以下の科目編成となり、科目合格制が導入されている。
なお、一部の科目については、他試験合格者に対する免除措置がある。例えば、情報処理技術者試験の一部区分の合格者は、申請により経営情報システムの免除が可能である。
[編集] 第1次試験に関する正解・配点の公表等
中小企業診断士第1次試験では、平成17年度から正解肢と配点が公表されるようになった。正解肢と配点の発表は、社団法人中小企業診断協会のサイト上で試験の翌日もしくは翌々日に行われる(試験実施が土日で、月曜日の午後にアップされる)。
正解肢の公表による試験制度の改善効果としては次のような例がある。平成17年度試験では、「企業経営理論」で問題が成り立っていない、「没問」の存在が明らかとなった。この訂正は、出題の前提となっている社会保険制度の仕組みの認識自体が根本的に誤っており、正解肢発表の時点で同時に没問発表が行われた。 平成18年度試験では「運営管理」で正解肢が2つ存在するという訂正を行った。これは、受験機関であるLEC東京リーガルマインドが抗議を行ったことによって、後日訂正されたものである。
[編集] 第2次試験
第1次試験合格者を対象に、中小企業診断士となるのに必要な応用能力を判定するものであり、筆記試験(事例に関する記述試験)及び口述試験(筆記試験合格者に対する面接試験)の方法で実施される。 筆記試験の内容は「紙上診断」であり、第1次試験で試された基礎知識を実務で生かせるか否かが問われる。
なお、第2次試験(筆記試験)は4つの事例問題で構成され、その表題は以下のとおりである。
- 中小企業の診断及び助言に関する実務の事例 I
- 中小企業の診断及び助言に関する実務の事例 II
- 中小企業の診断及び助言に関する実務の事例 III
- 中小企業の診断及び助言に関する実務の事例 IV
[編集] 中小企業診断士試験の難易度
[編集] 第1次試験の合格率
申込者数16,845人と過去最高を更新した平成19年度の試験結果は、受験者数12,776人、試験合格者数2,418人で、合格率は18.9%であった。ただし、試験合格者に科目合格者は含まれていない。
[編集] 第2次試験の合格率
平成19年度の試験結果(筆記試験)は申込者数4,060人、受験者数3,947人、合格者数800人で、合格率は20.3%であった。口述試験は12月16日に実施され799人が合格した。
エリア別合格率は東京地区が23.72%で二番目に受験者が多い大阪地区が13.63%である。これは、合格後の実務補習が出来る体制が東京が大阪に比べて整っているからでは、との声が聞かれる。
[編集] 最終合格率
平均すると、第1次試験が16%から20%、第2次試験が10%から20%の合格率となっており、第1次試験および第2次試験をストレートで突破する者の割合(最終合格率)は3%から4%と難易度の高い試験である。