レンズ付きフィルム
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レンズ付きフィルムは、フィルム交換をしない事を前提とした軽便なカメラである。
フィルムを簡素な筐体のカメラにあらかじめ装填された状態で販売され、撮影終了後は分解することなく現像所に現像を委託するシステムである。筐体は組立式で、使用後は現像所経由でメーカーに回収され、分解してリユース/リサイクルされている。ユーザーには現像後、ネガフィルム(およびプリントされた写真)だけが返却されるようになっている。
発売当初や一般的には「使い捨てカメラ」と呼ばれていたが、カメラとしてではなく、あくまでレンズのついたフィルムとして販売していること(「カメラ」とした場合、現像後に客から返却を求められる可能性があるため)、また使用済み筐体の再生利用が図られている事情から、メーカー側では「レンズ付きフィルム」と呼んでいる。
時折インスタントカメラと呼ばれることがあるが、これは「インスタント」を「即席」ではなく「簡易」と誤った解釈をしたことによる誤用である。本来はポラロイドカメラや富士フイルムの「フォトラマ」、「チェキ」等その場で紙焼写真が出来上がるカメラ方式のことを指す。
カメラとしてはごく単純な固定焦点式がほとんどで、シャッタースピードも固定されている。露出調整は高感度でラティチュードの広いネガフィルムに頼り、絞りもあらかじめ絞られて(F11~16程度)パンフォーカスによりピント調節を省略している。簡素な機構ではあるが、大衆ユーザーのスナップ写真程度の撮影であれば必要十分な画質を得られるように設計されている。
[編集] 歴史
1980年代初頭にブラジルで生産された「LOVE」という製品が、世界最初のレンズ付きフィルムである。日本では1986年に富士写真フイルム(現富士フイルムホールディングス)が「写ルンです」(うつるんです)を発売したのが最初である。初期モデルは「110判」と呼ばれるフィルム規格を採用、ISO100の24枚撮り一種類だったが、のちに画質の向上を狙って現在の主流である35ミリフィルムのISO400に仕様変更される。
ISO400以上の高感度フィルムは、従来ポピュラーだったISO100クラスのフィルムに比べ、シャッタースピードを速くできるが、画質の粗い傾向があった。しかし1980年代には技術・品質の向上により、画質のザラツキ感がさほど感じられないようになった。これによって、焦点固定・シャッター速度固定のカメラでも、手ぶれや露光不足などの問題を伴わずに満足しうる質の写真を撮影できるようになった。また、同じ頃プラスチックレンズの品質が向上し、低コストで量産できるようになった。
「写ルンです」は、これらの技術向上に着目して発案された一種のニッチ商品であったが、観光地など出先で買い求め即座に撮影できる手軽さが、消費者に好評を得てヒット作となり、急速に普及していった。
その成功に伴い、
- コニカ(現コニカミノルタフォトイメージング)
- 「よく撮れぞうくん」シリーズ
- 「撮りっきりコニカ NICE SHOT」シリーズ
- 「コニカミノルタ 撮りっきりMiNi」シリーズ
- コダック
- 「スナップキッズ」シリーズ
- アグフア
- 三菱製紙
- 「三菱カラー フィルム入りカメラ パシャリコ」(フィルム以外はコニカのOEM)
などの競合フィルムメーカーがこの分野に参入し、他にも
など家電メーカー等の参入が見られたが、2006年時点ではフィルムメーカーの製品がほとんどである。
その後、望遠、フラッシュ付き、パノラマ撮影仕様、セピア調撮影仕様、キャラクターもの、など、付加機能が付いたものが続々と発売された。特にフラッシュ装置は、固定焦点カメラが不得意な光量不足の状況において非常に有効な対策となったことから、レンズ付きフィルムにおける標準的な装備品となった。また、新型フィルムのAPSが登場し、レンズ付きフィルムに採用されたことで、小型化も進んだ。
その手軽さから、1990年代にかけては高校生を中心に自分撮りが流行り、超広角レンズと前面にミラーを配置して自分撮りのしやすいものも登場した。
近年では、より高感度(ISO800~1600)なフィルムを使用して夜景を綺麗に写せるもの、光センサーを搭載して自動で絞りを調節するものなどが登場している。
ただしここ最近は、デジタルカメラの急速な普及や、携帯電話に付属するカメラの撮影機能が格段に充実してきたこともあり、市場の需要も減少の一途をたどっている。
[編集] 使用時の注意点
レンズ付きフィルムは、特別に写真知識のない人間でも気軽に使える性能を備えているとはいえ、その性能はやはり値段相応のものであって、撮影時の失敗も多いので注意されたい。
たとえば旅行の例を挙げると、修学旅行などではカメラの持ち込みを禁止する学校も多く、写真を撮るとなると自然とレンズ付きフィルムで撮影される写真が多くなる。その際、ホテルからの夜景、バスや電車の中、あるいは水族館など屋内のような暗い場所での撮影などは、性能的に厳しい。また教室などの場所で集合写真を撮るような用途でも、その多くの場合は光量不足のせいで露出アンダーの仕上がりとなる。
その他にも、次のような失敗が多い。
- 被写体がカメラに近すぎてピントが合わない
- 小レンズがボディに埋没した特有の形状ゆえに、撮影時に撮影者の握り込んだ指が写真の片隅に写り込んでしまう
- フラッシュの焚き忘れ、またはフラッシュ光到達範囲外の撮影による露出アンダー
また、フラッシュ内蔵の商品には電子回路が内蔵されているため、不用意に分解すると感電の恐れがある。
[編集] リサイクル
ほとんどの部品は分解のうえ、点検して再利用、破砕して原料として用いるなどの手法でリサイクルされる。
一時期、メーカーとは無関係の企業によって、使用後の製品にフィルムを再装填した商品がディスカウント店などで市販されていたこともあるが、メーカー側が構造部品に再充填を防止する対策を施したため、最近はほとんど見られなくなった。
また、フラッシュの電源として内蔵されているアルカリ乾電池についても、フラッシュの使用回数に対して消耗度が少ないため(最大枚数でも39枚が限度)再利用が図られ、店舗によれば電池をもらうことができるほか、障害者支援の一環として梱包を委託したものを、リサイクル乾電池として販売しているケースもある。