モダフィニル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ご自身の健康問題に関しては、専門の医療機関に相談してください。免責事項もお読みください。 |
モダフィニル (Modafinil)、商品名 Provigil(アメリカ), Modiodal (日本、フランス、メキシコ)、Vigil (ドイツ)、Sparlon (アメリカ)、Modavigil (オーストラリア)、Alertec (カナダ)とは、フランスの製薬会社ラフォン (Lafon) によって作られた薬剤である。欧米では「覚醒促進剤」として販売されており、ナルコレプシーの治療に使用される薬剤の1つであるが、伝統的な意味としての中枢刺激剤ではない。欧米では、睡眠時無呼吸症候群や交代勤務睡眠障害に伴う過度の眠気治療にも使われてきている。
目次 |
[編集] 適応症
製造社の主張によると、モダフィニルは過度の眠気に悩む人々が、副作用や行為障害を伴わずに覚醒状態を維持することを可能にするが、全ての場合において期待通りの効果が得られるわけではなく、発疹や腸の不調などの副作用を引き起こすこともある。一般には起床直後に服用すると、夜間の通常の睡眠を妨げることなく薬効はほぼその日じゅう続く。しかし、ナルコレプシーの患者の場合には、1日当たり2度の服用が必要となることがある。
初めてモダフィニルを使用する患者の場合、より効果的となるように用量の調整が必要である。人間の体内における半減期はおよそ12時間。二重盲検法で分かった多くの副作用の中では、頭痛だけが統計上通常の5%増加したが、他の副作用の数は偽薬(プラシーボ)よりも約1%多いだけであった。
モダフィニルはエネルギーの欠如や疲労の訴えに対して処方されるものではないが、そういった患者に対しても時には大変有効であることが分かっている。さらには、1日に10時間以上も睡眠を必要とし、十分な睡眠を取ろうとするがために、日常生活において能力を十分に発揮できない過眠症の患者の治療にも使われてきている。
2005年1月に、ペンシルバニア大学の研究者たちは二重盲検プラセボ対照法による治験により、モダフィニルがコカイン中毒者が依存症から回復する助けになる可能性があることが分かったと発表した[1]。
[編集] 薬効薬理
この薬の働きの正確なメカニズムは明らかではないが、インビトロ研究ではこの薬がドーパミンの再取り込みを阻害し、その一方で、ドーパミン拮抗薬と同時に投与することは、アンフェタミンの刺激効果を抑制するということが知られているが、モダフィニルの覚醒促進作用を減弱させない。モダフィニルは、グルタミン酸系を賦活化しGABAを抑制する。モダフィニルは、陶酔や快感を引き起こさないので、他の刺激剤に比べて乱用の可能性は低いと考えられている。
モダフィニルの中枢刺激効果は用量及び時間依存的である。作用は、クロロ化で増強され、メチル化で減弱する。モダフィニルは、腹外側視索前核 (VLPO) から投射している睡眠促進ニューロンのノルアドレナリン神経終末においてノルアドレナリンの再取り込みを阻害する。この作用が、モダフィニルの覚醒促進作用の少なくとも一部に関与しているものと考えられる。
モダフィニルはドパミン再取り込みトランスポーターに対して約 4,000 nmol/L の結合親和性 (Ki) を有するが、ノルアドレナリン再取り込みトランスポーターへは結合しない。
最近の研究により、脳ペプチドの1つであるオレキシンが作用発現に関与する可能性が示唆されている。オレキシン神経は、視床下部を起始部として、覚醒の維持制御に関与する部位を含め、脳内の広い部位に神経を投射している。これらの神経の活性化により、投射部位でドパミンやノルアドレナリンが増加する。オレキシン系を欠損する動物では、ナルコレプシーに近い症状が見られる。モダフィニルはオレキシン神経を賦活化させ、この結果覚醒を促進させると考えられる。しかしながら、オレキシン受容体が欠損した遺伝子改変犬での研究においても、モダフィニルはこれらの動物で覚醒促進効果を示したため、モダフィニルの作用発現にはオレキシンの活性化は必須ではないものと推測される。
モダフィニルは、ドパミン取り込み阻害、VLPOでのノルアドレナリン取り込みの間接的な阻害、オレキシン系の賦活作用が合わさって作用を発現する可能性がある。
[編集] 歴史
モダフィニルは、フランスの製薬会社ラフォン (Lafon) の研究者により1970年代に実施された、一連のベンズヒドリル・スルフィニル系化合物の研究により見出された。アドラフィニルもまたベンズヒドリル・スルフィニル系化合物である。アドラフィニルは1986年にフランスでナルコレプシーの研究的治療に初めて用いられた。モダフィニルはアドラフィニルの主要な代謝物であり、類似の活性を有するが、より広く用いられている。モディオダール (Modiodal) の名称で1994年以降フランスで、プロビジル (Provigil) の名称で1998年以降アメリカ合衆国で処方されている。モダフィニルは、ラフォンからの権利を得て、セファロン社 (Cephalon Inc.) によってアメリカ合衆国で販売されている。セファロンは2001年にラフォンを買収した。FDAは1993年にモダフィニルを希少疾病医薬品(オーファン医薬品)に指定し、2005年の暮れまで有効である。セファロンは1994年にモダフィニルを含有する医薬品組成物の特許 (U.S. Patent 5,618,845) を出願した。本特許は、1997年に成立し、2002年にRE37,516として再発行した結果、2014年までアメリカ合衆国において特許でセファロンの権利が保護されることとなった。セファロンはヌビジル (Nuvigil) の名称でモダフィニルの光学異性体の一つ( (R)-モダフィニル)の販売を準備している。
[編集] 軍隊での使用
フランス政府は、海外駐留部隊がある種の隠密作戦の際にモダフィニルを用いたことを示唆した。モダフィニルは兵士への使用に関してアメリカ合衆国軍隊で繰り返し研究されている。ある研究では、モダフィニル 600 mg を3回に分けて服用したヘリコプターパイロットは、88時間のうち、たった8時間の睡眠を摂っただけで覚醒状態を維持し続けた。他の研究では、モダフィニル 300 mg を、100 mg ずつ3回摂取した戦闘機パイロットの場合、断眠したF-117パイロットは、基準レベルに比べ操縦の正確さは約27%以内の低下を示したのみであった。
[編集] 法的規制など
2004年8月3日(アテネオリンピック開幕10日前)に、モダフィニルは世界アンチ・ドーピング機構によって、禁止薬物のリストに加えられた。
モダフィニルは2005年現在、アメリカ合衆国連邦法の下で規制薬物に指定されている。
日本では、厚生労働省より「パブリックコメント」が出されており(2006年7月25日–8月24日の1か月間)、モダフィニルの向精神薬指定への意見募集を行った後、2006年9月8日、第一種向精神薬に指定された。
[編集] 参考文献
- ^ Dackis, C. A.; Kampman, K. M.; Lynch, K. G.; Pettinati, H. M.; O'Brien, C. P. (2005). "A double-blind, placebo-controlled trial of modafinil for cocaine dependence." Neuropsychopharmacology 30 (1): 205–211. PMID 15525998.
[編集] 関連項目
- アドラフィニル
- リタリン