ホンダ・ジャイロ
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ホンダ・ジャイロ (GYRO) は、本田技研工業が製造販売している3輪(前輪1輪、後輪1軸2輪)のスクーターの車名。排気量は49ccで原動機付自転車に該当する。 車名は G:Great, Y:Your, R:Recriational, O:Original の頭文字から生まれた造語で、羅針盤のジャイロにもかけている。
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[編集] 歴史
いずれも本田技研工業による発表・発売。参考のため同社の3輪スクーターについても併記。
- 1981年11月11日 3輪スクーター、ストリーム 販売開始。19万8000円。
- 1982年10月14日 ジャイロX 販売開始。17万9000円。
- 1983年4月 JOY 販売開始。9万9800円。
- 1983年5月25日 ジャスト 販売開始。12万9000円。
- 1984年7月20日 ロードフォックス 販売開始。13万9000円。
- 1985年10月1日 ジャイロUP 販売開始。24万9000円。
- 1990年12月1日 ジャイロ・キャノピー 販売開始。デッキタイプ38万4000円、ワゴンタイプ39万9000円(消費税別)。
[編集] 特徴
- 共通した特徴として車体中央付近に回転軸を持ち、前輪や運転席を含む車体の殆どを左右にスイングすることができる。この機構によって、オートバイで行なうバンクと同様に旋回の際に内側へ重心を移動することができる点が、一般的な三輪車と異なる。
- スイング機構や車輪を固定し、スタンド代わりとするパーキングロックを採用。傾斜地においても車体の水平を保ったまま駐車することが可能である。
- スイング状態からの復元力が一般的なオートバイのバンクとは若干異なり、独特な乗り味がある。エンジンなどの重量物を含む後輪側が重心移動に関与しないため、オートバイに比して旋回時に大げさに傾けているのは必然性あってのこと。
- 車体重量、積載重量と排気量(馬力)の比率から他のスクーターに比べ動力系の負担が大きい。また、エンジンが後輪軸付近に配置され路面の影響を受けやすく、低い位置で濡れ易い事もあり、構造的に故障が発生しやすい。積載力、利便性から主に業務用で使用されるが、修理費も含めコスト面により一般ユーザーは少ない。
- ジャイロXの初期型の後輪軸は、LSD(ノンスリップと呼称)を備えていたが、その機構は、方輪をクラッチにより常に半接続にしておくという簡易的なものだった。ジャイロUP・ジャイロ・キャノピーでは、後輪軸にデファレンシャルギアを搭載し、旋回性を向上させている。
- 現在、ホンダのオートバイは競技用を除く国内一般販売車種の全てが4ストロークエンジンであり、ジャイロシリーズは唯一の例外として2ストロークエンジンを搭載していた。将来は環境規制により2ストロークエンジンの使用が困難になることから、今後ホンダがジャイロでの使用に耐えうる4ストロークエンジンを開発できるかが注目されていたが、2008年3月のモデルチェンジで水冷4ストロークエンジンが搭載された。
[編集] 車種構成
[編集] ストリーム [NV50]
現在のジャイロシリーズの原型となる3輪スクーター。前後輪の接続にナイトハルト機構を採用。3輪ながらオートバイ・スクーターの操縦性を兼ね備えた「スリーター」と呼ばれるジャンルを開拓した。
見た目は(当時としては)都会的で斬新なデザイン。車名の由来は「新しい乗りものの流れ、方向性をつくり出すもの」。
生産終了。
[編集] ジャイロX [TD01]
現行の標準型。ストリームに比べ、不整地や積雪路での踏破性を重視、車体前後に広いデッキを採用し、積載量についてもより実用的な仕様となった。
発売当時はオフロードでの走行に特化して開発され、レジャーバイクのカテゴリーに分類された車種であったが、後に積載量の多さと頑丈さからビジネス向けの需要が高まったため開発方針が転換され、後発のジャイロUPを含めて酒屋や米屋などの配達用途を中心に用いられることになった。
1983年10月、1989年12月、2008年3月のモデルチェンジを経ての現行機種。
[編集] JOY [NM50]
強制空冷2サイクル単気筒排気量49ccのスリーター。「取りまわしやパーキングが楽な軽量・コンパクト」をコンセプトに女性向けとして開発された。
片輪駆動・キックモーターを廃してセルスターターのみとするなど機能を簡略化して軽量化をすすめる(その結果、乾燥重量はわずか46kgとなった)一方、フロントバスケットやリア・キャリアなど生活面での使いやすい機能を標準装備として、利用層の拡大を図った。
生産終了。
[編集] ジャスト [NN50]
ストリーム以来、スリーターの乗り味を支持する個人ユーザー向けに、スリーターの市場拡大を図るために「JOY」とともに開発された。基本的なシステムは「JOY」からの流用だが、2速オートマチックやボトムリンク式フロントサスなど「JOY」よりも上位の装備を採用し、主に男性ユーザーを対象に発売。
重量は「JOY」とコンポーネンツが同一のため、57kgと軽量であった。
スリーターとしては低価格であったが、外装などをその当時の主力車種である「タクトフルマーク」から露骨に流用したため、違いを見いだせずに販売面では苦戦した。
生産終了。
[編集] ロードフォックス [TG50]
詳細はホンダ・ロードフォックスを参照のこと。
[編集] ジャイロUP(アップ) [TB50]
ジャイロXがビジネス用途に需要が高まったことをうけ、もとより積載性・耐久性を重視し、荷台には積荷を傷つけないようゴムマットが標準装備されるなど、配達業務を中心としたビジネス用途を前提として設計された機種。
後部に大型の荷台を装備(45cm×57cm)。荷台部分はスイングする前部から分離しており、旋回時も水平を保つため荷崩れしにくいことから、酒屋の定番となっている。
1991年6月、1993年5月のモデルチェンジを経たが、他のジャイロシリーズが2008年3月のマイナーチェンジで4ストロークエンジンに改められたのに対し、ジャイロUPは4ストローク化の対象から外され生産終了。
[編集] ジャイロCanopy(キャノピー) [TC50]
国内で生産・販売されているオートバイでは唯一、屋根を標準装備(同社より2輪のキャビーナが販売されていたが2000年に生産終了)。フロントスクリーンにはワイパーおよびウインドーウォッシャーを標準装備。天候を選べない配達業務向けに開発された。ジャイロX・ジャイロUPにも社外品で屋根を取り付けることができるが、社外品の前照灯が1灯に対し、ジャイロ・キャノピーは2灯になっている。
後部積載装置の特徴としてデッキタイプ(平台)とワゴンタイプ(箱型の荷室)の2車種が発売されている。デッキタイプをベースに、用途に合わせたボックス(ワゴンタイプ標準のそれよりも大型・機能的)等を後付けされることが多い。(2008年3月以降はデッキタイプのみ)
2輪車だったキャビーナより安定性のある3輪車を採用し、宅配ピザやラーメンを中心とした飲食店の出前をはじめ、軽自動車よりも小回りが効くため警備会社や機器保守会社等の巡回サービスカーとして新たな需要を開拓、郵便局の配達用や警察の交番警ら用に導入した例もある。近年の生産台数が公表されていないため参考値になるが、ジャイロ・キャノピーは2002年5月の時点で6万台以上生産されている。
1993年4月のモデルチェンジを経ての現行機種。モデルチェンジの前後で内装の色が異なり、それぞれ前期型は水色、環境対応された後期型は黒となっている。2008年3月のマイナーチェンジではエンジンが4ストロークに変更されている。
オートバイらしからぬ独特の風体と、車体の一部を小改造することにより、ミニカーとして登録することも可能となっているため、外観的なカスタムを楽しむなど、一部愛好家の間に根強い人気がある。また、エンジンをボアアップすることで側車付軽二輪車のトライクとして登録し、高速道路を合法的に走行できるようにしている人もいる(元が原付であるゆえ燃費は極端に悪く、最低速度で吹かすとあっという間に燃料がなくなる)。 ミニカー・トライクとして走行する場合は普通自動車を運転できる免許、すなわち、普通免許・大型免許(・中型免許)が必要である。原付免許・二輪免許(小型限定・普通・大型)・大型特殊免許では運転できない。
アフラックのCMで登場したジャイロキャノピーはミニカー登録されているため、搭乗するアフラック社員の筒井信博はヘルメットを着用していない。このことは同社ウェブサイトにても説明されている。