ピトー管
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ピトー管(ピトーかん)は流体の流れの速さを測定する計測器である。発明者である Henri Pitot にちなんで命名され、Henry Darcy により改良された。航空機の速度計などに使用される。ほかに風洞でも使用される。
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[編集] 仕組み
基本的な構造は 2 重になった管からなり、内側の管は先端部分に、外側の管は側面にそれぞれ穴が開いている。二つの管は奥で圧力計を挟んで繋がっており、その圧力差を計ることができるようになっている。
ピトー管は、先端を流れに正対させて使用する。側面の穴(外側の管)は流れの影響を受けないため、ここには静圧がかかる。一方、先端にある穴(内側の管)には静圧と流れによる動圧とを合わせた全圧(総圧とも)がかかる。この全圧から静圧を引いた差圧(動圧)を測定し、ベルヌーイの式を適用することで流体の速度を計算することができる。
このように、側面に穴(静圧孔)を備え、単体で全圧と静圧の両方を測るタイプのピトー管はピトー静圧管とも呼ばれる。狭義のピトー管は、側面に静圧孔を持たず、全圧のみを測定するものである。この場合、静圧はピトー管とは別の位置に設けられた静圧孔から、センサあるいは計器へと導かれる。
[編集] 航空機のピトー管
ある程度以上高速の航空機において、ピトー管は最も一般的な速度計測手段である(飛行船程度の低速が計測下限)。他の航空機に比べ相対的に揚力の少ないジェット機では、特に着陸時の対気速度が判らないのは致命的となるので、離陸前にピトー管カバー取り外しの確認作業が重要である。実際に1996年には、アエロペルーのボーイング757が機体洗浄の際にピトー管に取り付けられたマスキングを外さないまま離陸してしまったために正しい高度・速度が検出できなくなって墜落してしまうという事故が起きている。
ピトー静圧管か、純粋なピトー管と胴体側面などに設けられた静圧孔とからなる。こうした、速度や高度(静圧は高度指示にも利用される)といった非常に重要なシステムでは、複数のピトー管と複数の計器を互いに独立して設け、冗長性が高められていることが多い。
また、当然のことながら正確な速度を計測できないので全圧をピトー管からセンサや計器へと導くチューブやホースにはリーク(漏れ)があってはならない。
[編集] 設置位置
正確な測定のために、ピトー管は境界層の外側で、かつ流れの乱れが小さな場所に設置される:
- 機首先端 - 現代の戦闘機や F1 に多い。また、試験飛行を行うプロトタイプの航空機では、さらに正確な計測が要求されるため[1]長いブーム(棒)の先端に設けられることがある(これを標準ピトーもしくは計測ピトーと呼ぶことがある)
- 機首側面 - 旅客機やヘリコプターに多い。横風の影響も考慮し、ふつう機首の両側面に設けられる
- 翼下 - 単発の小型プロペラ機などで機首に設置できない場合、胴体からやや離れた翼の下面に置かれることがある。片翼下のみのことが多い(おそらくコストの点から)
機首側面と翼下の場合、流速の遅い境界層から距離をとるために、ふつうL字型に曲げられている。ピトー静圧管ではなく、静圧孔を別に持つようなシステムの場合、横風による誤差を軽減するため、多くの場合、静圧孔は胴体両側面に設けられる。
F-22の試験機。機首両側面(機首先端にあるのは標準ピトー) |
V-22オスプレイの試験機。赤いブームの先端 |
ボーイング 307。機首下側面 |
フォッカー F50。機首側面 |
ユーロコプター タイガー。機首側面 |
セスナ 182。左翼下 |
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F-104J。機首先端 |
[編集] 防氷
気温が氷点下に達する上空では、水分が凍結し、ピトー管や静圧孔を閉塞してしまう可能性がある。速度や高度システムの指示が異常となり、事故に繋がる危険性がある。これを防ぐために、電熱線などによる防氷システムが備えられていることが多い。
[編集] 過去のピトー管が関連する事故・故障
1996年10月2日、アエロペルーボーイング757型機603便が、離陸直後、高度計・速度計が機能しないので、リマに引き返そうとした。しかし、夜間の海上での飛行だったので、まわりに目印がなく、高度計・速度計に依存したのか、後に海に墜落。乗員乗客全員が死亡した。原因は、ピトー管に洗浄のため、テープを貼ったが、空港の整備士は、それを剥がし忘れていたからだ。
2007年(平成19年)10月に中華航空ボーイング737型機が佐賀空港の滑走路をオーバーランして離陸した後、計器異常により引き返すトラブルが発生した。原因は、ピトー管に虫が入ったため。
[編集] 関連項目