パガニーニによる大練習曲
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パガニーニによる大練習曲は、ニコロ・パガニーニの奇想曲に基づいてフランツ・リストが作曲(編曲)した作品である。
目次 |
[編集] 作品の内容
- パガニーニの奇想曲の中からリストは6曲を抜粋し、ピアノに編曲したものである。また編曲作品でありながらもきわめて独創性が強いとされ、リストが数多く残した編曲作品の一部としてではなく、オリジナル作品とみなすことが多い。
- 一般によく演奏されるのは改訂版のほうであり、初版をパガニーニによる超絶技巧練習曲、改訂版をパガニーニによる大練習曲(単にパガニーニ練習曲ということもある)と区別している。この二つの作品名は混同されることが非常に多く、「紛らわしい」、「曲名を正しく理解してほしい」などCD会社を中心に批判されることがある。
- 最も有名なラ・カンパネッラは特に抜粋されて演奏されることが多く、リストの曲の中でももっとも有名な作品となった。
[編集] 楽曲
- S.140 パガニーニによる超絶技巧練習曲 (1838年版)
- S.140/1 1番 原曲:5・6番
- S.140/2 2番 原曲:17番
- S.140/3 3番 原曲:ヴァイオリン協奏曲第2番・ヴァイオリン協奏曲第1番
- S.140/4a 4番 原曲:1番
- S.140/4b 4番 (S.140/4aの第2稿)
- S.140/5 5番 原曲:9番
- S.140/6 6番 原曲:24番
- S.141 パガニーニによる大練習曲 (1851年版)原曲はラ・カンパネッラを除いて初版に同じである
[編集] 楽曲(詳細)
難易度は全体的に高めである。なお、初版は改訂版よりはるかに難しい。初版については別枠で更なる詳細を書き加えておく。
- 1番は原曲は5・6番で「トレモロ」という副題を付けることもある。原曲より1オクターブ低いところで主題が始まるが、これは左手の練習を目的とした為である。前後に5番の前奏と後奏が加えられ、充実した作品となった。
- 2番は17番を元に作られた「オクターブ」のための曲である。曲の進行は原曲に忠実で、和音による味付けや、中間部の対旋律の追加で見事なピアノ曲へ変身を遂げた。リストの半音階が印象的。
- 3番「ラ・カンパネッラ」はこちらを参照のこと。
- 4番は1番を基にした一風変わった練習曲である。どこが一風変わっているかというと、目に付くのは特徴的な記譜法である。
楽譜はヴァイオリン同様1段の楽譜で書かれており、「ミ(左)-♯ソ-シ-ミ(右)-ミ(左)-シ-♯ソ-ミ(右)」というように、上昇と下降の開始を左手、その他の音を右手で取る。テンポが速い上に上昇・下降とも1オクターブを越えるため、同音連打の部分で指替えができない。そのため必然的にこの運指となるが、頻繁に両手が交差、場合によっては同じ音域を両手を重ねるようにして演奏する必要があり、1段譜にしては非常に難しい。音域は狭いが、ピアノ的な魅力は充分にある。意外と瞬発力が要求される難曲である。 - 5番は9番を元に、「狩り」と独自のタイトルを付けて作られた曲である。もともと人気の高い曲だけあって6曲の中でも比較的良く知られている。主題はフルートやホルンの模倣である。
- 6番はおそらくこの曲中ではラ・カンパネッラに次いで有名な曲である。原曲はおそらく知らない人はいないであろう24番である。進行は原曲に忠実で、最終変奏に味付けされた程度である。この曲集の終幕にふさわしい華麗な変奏曲である。
ちなみに奇想曲24番を主題にした作品はリストのもののみならず、ブラームス、ラフマニノフなどもこの主題を基にした変奏曲を書いている。その中でもリストのものは特に有名であるといえる。
[編集] 演奏困難な初版
おそらくこの初版のパガニーニによる超絶技巧練習曲はリストの数ある難曲の中でも、もっとも難しい作品のひとつといえる。その難しさは20世紀最大のピアニスト、ウラディミール・ホロヴィッツでさえ「演奏不可能である」とまで言わしめた。 19世紀最大のピアニストといわれるほどの演奏者であったリストには、この作品が作られたころの作品は楽譜を見るのも嫌になるような難曲が多いが、この曲集はその代表例である。
しかし2000年に大井和郎による演奏が世に出ると、この曲集の演奏不可能という概念はかなり薄らいだ。大井和郎はCDのみならず、2度にわたる演奏会でこの曲集を取り上げたこともあり、より一層演奏不可能から可能へと人々の関心は移りつつある。
改訂版との違いは細かいところでいくつもあるが、とくに3番と4番については顕著である。
3番はまず主題の取り入れ方、曲の進行が全く違う。改訂版には見られないヴァイオリン協奏曲第1番の主題が取り入れられている点がもっとも差異を生んでいる。右手の大きな跳躍もこの時点ではまだほとんど見られない。左手は手が大きくないと弾けないような(最低10度届かないときついような)和音がいくつもいくつも登場する。 後半ヴァイオリン協奏曲第1番の主題が出てくると、曲の終盤まで連打のテクニックがさまざまな形で要求されるようになる。それは右手のみならず左手でも要求されている。改訂版に比べると難易度は高い。
4番は1稿と2稿と違うバージョンが存在するが、2稿のほうがただでさえ難しい1稿より、それをはるかに上回って難しい。 1稿は伴奏がついた奇想曲第1番という感じで、広いポジションをとる両手のアルペジオや跳躍、特徴的な指づかいが目に付く。難しいが演奏困難というほどではなく、それなりの努力で出来そうな感じはある。 前述した冒頭部分を例にとると、改訂版では両手の交差で取る単音アルペジオが、1稿では両手のユニゾンになっている。当然、同音連打の時の指替えの原則は無視されている。
しかし続く第2稿はそうはいかない。曲全体が1稿のアルペジオを応用し、両手でそれぞれ重音アルペジオを演奏することになる。2稿でのテンポは1稿や改訂版よりやや遅めに指定されているものの、ここまでくると楽譜の冒頭に書かれたleggieramenteという指示を忠実に守るのはほとんど不可能に近い。また後半部分主題をもう一度重厚な和音の両手交差による大跳躍を組み込みながら繰り返している為、曲自体が少し長くなっている。そのほか10度の連発や、3和音のアルペジオなど、楽譜のどのページを開いても技術的に困難な箇所が必ず一箇所はある。ホロヴィッツを「演奏不可能」とまで言わせた一番大きな原因を作った曲とも考えられる。真っ黒な楽譜の代表例である。
その他有名な難所として1番の弾きにくいアルペジオ、2番の3度のパッセージ、6番の第8,9変奏や10度の連発などがある。
[編集] 初版を弾くピアニスト
プロの演奏では、ニコライ・ペトロフの演奏がもっとも世評高く、大井和郎の演奏がもっとも有名である。ニコライ・ペトロフの演奏は技術的な精度が高いことで有名だが、編集の切り貼りはそれほど感じさせずミスタッチも若干残された。長い間廃盤であったが、大井和郎の音源で次第に初版の名が知られるようになり、この音源の需要が高まったことから近年再び発行されるようになった。使用ピアノはスタインウェイである。
大井和郎の演奏はこの難曲をほとんど編集無しに近い状態で録音したことから話題を呼び、曲自体を広めた重要な音源である。技術的に苦しいところを残しながらも、厚みのある和音はつぶれることなく、見事に6曲を弾ききった。録音に使用したピアノはベーゼンドルファーであるが、彼がベーゼンドルファーを選んだのは「スタインウェイだと演奏効果が高くなりすぎて和音がつぶれてしまうから」だという。
またリスト全曲(厳密には全曲ではないが)を57巻+αにわたって録音したレスリー・ハワードによる演奏もあるが、技術的な難はやはり解決できず、ペダリングもラフでいかにこの作品が難しいかを物語る結果となってしまった。なお彼は唯一初版第4番1稿を録音した人物である。
また改訂版においては突出して有名な版はないが、さまざまなピアニストが録音を行っている。ただしラ・カンパネッラを抜粋してる版の中では特にフジ子・ヘミングのものが有名である。
[編集] 関連作品
いずれもラ・カンパネッラの主題と同様のもので「パガニーニの「鐘」によるブラヴーラ風大幻想曲」、「ヴェニスの謝肉祭、ラ・カンパネッラによる華麗なる大幻想曲」という作品がある。 作曲年は両作品ともパガニーニによる大練習曲の「ラ・カンパネッラ」以前に作られたもので、前者はリストがカンパネラの主題を用いた最初の作品である。
またほぼ同時期に作られた(改訂された)曲で、超絶技巧練習曲第2版(24の大練習曲)という曲集があるのだが、やはりこの曲集と並んで演奏困難と称される。