ハインケル HeS 30

出典: フリー百科事典『ウィキペディア（Wikipedia）』

HeS 30はユンカース航空機エンジン会社のアドルフ・ミューラー (Adolf Müller) によって開発された初期の軸流式ターボジェットエンジンである。しかし、結局ハインケル社で製造、試験が行われた。BMW 003やユンカースユモ 004同様のクラッセ I (Class I) の最良のエンジンになる可能性があったが、空軍省からの命令でハインケル社は設計を中止させられ、他のエンジンの開発に専念するように命令された。公式には109-006という識別符号が与えられた。通常はHeS 006と称された。開発が空軍省の移意で中止させられてからはHeS 30として広まった。

ヘルベルト・A・ヴァークナーがユンカース社でエンジンの開発を始めたのは1936年だった。1938年、ユンカースは分離していたユンカース・モトーレン（ユモ）を買収した。1939年10月、空軍省から圧力がかかり、ユンカースはエンジン事業を自社のマグデブルク工場からユモのデッサウ工場に移した。HeS 30の開発に携わっていたチームの半分はハインケル HeS 3の開発に加わった。

HeS 30は簡素かつ量産向きではあったものの、全力発揮できないことや稼動には機材の支援が必要であったなどの問題で、ミューラーがユンカースを去った後はユモの設計案で進められた。5段式圧縮機と1段タービンをもち、このタービンが速度を調節することができるように翼板が備えるなど特徴的な設計であった。改良の結果、同世代のターボジェットエンジンと同様の860 kgの推力を発揮できるようになりながらも、重量は390 kgに抑えることに成功した。しかし、1939年の時点で試作が許可されたにも関わらず、稼動にこぎ着けるまでに相当の期間を要した。最初に稼動が確認されたのは1942年の5月で、全力発揮できるようになったのは同年10月であった。

空軍省のヘルムート・シェルプはBMW 003とユモ 004のようなクラッセ IのエンジンではないとしてHeS 30やハインケル HeS 8を採用せず、大型戦闘機や爆撃機の動力源として需要があると見てハインケルに対してクラッセ IIの研究を続行することを求めた。HeS 30の開発は終わり、チームはハインケル HeS 011の開発チームへと合流した。また、HeS 30の基本的レイアウトは、ハインケル HeS 40で利用された。