スクラムジェットエンジン
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スクラムジェットエンジンは、ラムジェットエンジンの一種であり、超音速輸送機やスペースプレーンのエンジンとして開発が行われているものである。名称はsupersonic combustion ramjetの略称からきている。
[編集] 概要
超音速燃焼(Supersonic combustion)を行うラムジェットエンジンである。ラムジェットエンジンとの違いは、エンジン全域で超音速が保たれる点にある。インテイクから吸入された超音速の大気は、超音速のまま燃焼機に導かれ、超音速燃焼がなされ、燃焼ガスが超音速でノズルから噴射される。このように吸入から排気までのエンジン全域にわたって、作動流体が音速以下に減速されることがないため、広いマッハ数域で高いエンジン性能が維持される。スクラムジェットエンジンは、マッハ5程度から、理論値の上限であるマッハ15までの広い速度域での利用が期待されている。機械的圧縮機によらず、動圧で圧縮が行われる点から、広義のラムジェットエンジンに含まれる。
しかし超音速の気流内で燃焼させなければならないため、エンジン内で燃焼が完了しなかったり、通常の燃焼とは違う意図していない化学反応が起こったりなど、実現が困難であった。 スクラムジェットエンジンの研究には高温衝撃風洞が一般に用いられるが、この装置で得られる試験時間は数十ミリ秒に過ぎない。真空槽を用いた極超音速風洞では数十秒オーダーの燃焼実験が可能だが、大規模な施設であり実験コストが非常に高い。
燃焼速度の速さが要求されるため、燃料には水素が用いられることが多い(ほとんどのジェットエンジンではケロシンを使う)。また、ケロシンなどの炭化水素系燃料は温度が高くなると粘性が増し、供給に難があること、液体水素ならばエンジンの冷却が可能であることも上げられる。
ラムジェットエンジンと同様、静止状態では作動しないため、作動し始める速度まではロケットエンジンや他のジェットエンジンなど、別の動力により加速する必要がある。
[編集] 実装
宇宙往還機の大気圏内航行用エンジンとしての利用が考えられている。2004年3月に、NASAのX-43A実験機がマッハ6.8での作動試験に成功した。この時の実験では、空中発射型ロケットである、ペガサスによってマッハ4.5まで加速され、ロケットとの分離後、X-43Aに搭載されたスクラムジェットエンジンを10秒間作動させることで、マッハ6.8まで到達した。さらに2005年同機でマッハ10に迫る、マッハ9.6というジェットエンジンによる飛行の速度記録を打ち立てた。