カルボラン酸
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カルボラン酸(—さん、carborane acid、HCB11Cl11)は、ホウ素原子11個と、炭素原子1個が正二十面体型のクラスターをなす化合物で、超酸の一種である。
2004年、カリフォルニア大学のリバーサイド校 (UCR)、クリストファー・リードの研究室で作り出された[1]。
[編集] 構造
カルボラン酸は、炭素原子1個、ホウ素原子11個をそれぞれ正二十面体の頂点として、さらに外側に、炭素原子には水素原子が、ホウ素原子には塩素原子が、それぞれひとつずつ結合した構造をしている。
本来炭素の価数は4、ホウ素の価数は3であるが、カルボラン酸中では隣の頂点と外側の水素原子ないし塩素原子とで、6個の原子と共有結合していることになる。これは、ホウ素が通常の共有結合とは違い、三中心二電子結合をしているためで(通常は二中心二電子結合)、炭素もこれにつられる形となって、それぞれ六本の腕を出しているのである。同じような特殊な結合をする物質として、ジボランが挙げられる。ジボランの分子式はB2H6であるが、これも一見して通常の共有結合をしていないことが分かる。
[編集] 特徴
カルボラン酸は、単独分子の酸としては、最も強い酸である。単独でない、すなわち複数の分子が相互に影響して働く酸では、マジック酸など、さらに強い酸が存在する。カルボラン酸の強さは、少なくとも硫酸の百万倍以上で、それまで単独分子として最強の酸であったフルオロスルホン酸と比べても数百倍の強さである(ここでいう酸の強さとは酸解離定数の大きさのことである)。
非常に電離しやすい原因として、外側についているたくさんの塩素原子による電子吸引性と、水素原子がプロトン (H+) として電離した後の、マイナス電荷の分散による安定化が非常に大きいことが挙げられる。また、分子の外側を塩素が覆っているため、ほかの物質と反応しにくく、化学的に安定である。
さらに大きな特徴は、これだけ酸として強力でありながら、強い腐食性や酸化作用を持たないことである。前述のマジック酸やフルオロスルホン酸は反応によってフッ化物イオン (F−) が生じ、その腐食性によって余計な副反応を起こしてしまう。たとえば、フラーレンと反応させればフッ素による攻撃でばらばらになってしまうし、フッ素はガラスさえ侵してしまうため、取り扱いが大変困難になる。一方、カルボラン酸は、酸化力がないためにフラーレンを壊すことなく、しかしその酸としての強さからフラーレンのような無極性の分子であってもH+を受け取らせ、フラーレンと1:1の塩を作ることができる。またガラスを侵すこともないため、強く、しかしやさしい酸として期待が集まっている。
[編集] 参考文献
- ^ Juhasz, M.; Hoffmann, S.; Stoyanov, E.; Kim, K.-C.; Reed, C. A. (2004). Angew. Chem., Int. Ed. 43: 5352-5355. DOI: 10.1002/anie.200460005.