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カマドウマ - Wikipedia

カマドウマ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

?カマドウマ
分類
バッタ目(直翅目) Orthoptera
亜目 キリギリス亜目(剣弁亜目)Ensifera
上科 カマドウマ上科 Rhaphidophoroidea
カマドウマ科 Rhaphidophoridae
亜科 カマドウマ亜科 Aemodogryllinae
カマドウマ属 Atachycines Furukawa, 1933
カマドウマ apicalis
学名
Atachycines apicalis
(Brunner von Wattenwyl, 1888)
和名
カマドウマ(竃馬)
英名
Rhaphidophoridae

カマドウマ(竈馬)Atachycines apicalisバッタ目・カマドウマ科に分類される昆虫の一種。俗称で便所コオロギなどとも呼ばれる。

目次

[編集] 概要

キリギリスやコオロギに似るが、成虫でも翅をもたず専ら長い後脚で跳躍する。その跳躍力は非常に強く、飼育器の壁などに自ら激突死してしまうほどである。背中の形や長い横顔などが跳ねる馬の姿を連想させ、古い日本家屋ではの周辺などによく見られたことからこの名前が付いた。俗称で便所コオロギなどとも呼ばれる。日本列島朝鮮半島の一部に分布するが、地域によっては体の色や交尾器の特徴などが微妙に変化しているため、いくつかの亜種に区別されている。

カマドウマという和名は、厳密には北海道から九州の地域と韓国に分布する原名亜種(複数ある亜種のうち最初に学名が付けられた亜種のこと)のみを指し、他の亜種には別の和名が付いている。しかしカマドウマ科の昆虫は互いに似たものもが多く、日本産のカマドウマ科だけでも3亜科70種以上が知られ、専門家以外には正確な同定は難しいものも多い。したがって、明確な種別の認識なしにこれらカマドウマ科の昆虫を一まとめにカマドウマと言うこともある。この場合は「カマドウマ類」の意か、別種を混同しているかのどちらかである。

[編集] 特徴

[編集] 形態

体長はオスで18.5-21.5mm、メスで12.0-23.0mmほど。メスは腹部後端に長い産卵管があることで簡単に識別でき、この産卵管を含めると21.5-33.0mmほどになる。他のカマドウマ科の種と同様に成虫でも翅をもたない。体はやや側扁し(左右に平たく)、横から見ると背中全体が高いアーチを描いた体型をしている。背面から側面にかけては栗色で、腹面や脚の付け根、脛節などは淡色となる。各部には多少の濃淡はあるが、目立つ斑紋はない。幼虫も小型である以外は成虫とほぼ同様の姿をしているが、胸部が光沢に乏しいことや、第1~第3ふ節の下面に多数の剛毛があることなどで成虫と区別できる。

顔は前から見ると下方に細まった卵型で、口付近には1対の長い小腮鬚(こあごひげ)が目立つ。触角は非常に長く体長の3倍以上あり、暗所で体の周囲全体を探るのに役立っている。3対ある脚のうち後脚は特別に発達して跳躍に適した形になっており、腿節は体長とほぼ同じ長さがあり、脛節は体長よりも長い。

[編集] 生態

身を隠せる閉所や暗所を好むため、木のウロ、根の間、洞穴などに生息し、しばしば人家その他の建物内にも入る。また時には海岸の岩の割れ目に生息することもある。夜行性のため日中はこれらの隠蔽的な空所にいるが、夜間は広い場所を歩き回って餌を探す。夜に森林内を歩けば、この仲間がよく活動しているのを見ることができる。雑食性で、野菜など植物質のものを食べるほか他の昆虫なども捕食するが、やや動物食の傾向が強いとされる。繁殖は不規則で、常に卵から成虫までのいろいろな成長段階のものが見られるという[1]

[編集] 近似種との区別

カマドウマ科にはよく似たものが多いため正確な同定はかなり難しく、ある程度昆虫に詳しい者が行った過去の記録にもクラズミウマ Diestrammena asynamora などとの混同も少なくないという。従って単なる絵合わせによって正しく同定をすることは不可能で、脚の棘や交尾器の形態などの詳細で正確な観察に基づいて同定しなければならず、それほど簡単ではない。特に幼虫の場合は専門家でない限り正確な同定はほぼ不可能と考えてよい。ただし家屋や納屋などに見られるカマドウマ科のうち、胴体や脚に濃淡の斑紋が明らかなものは少なくともカマドウマではなく、多くはクラズミウママダラカマドウマである。また一つの地域に生息する種は限られるので、産地や環境からある程度の種に絞り込むことも可能である。

[編集] 日本人とのかかわり

竈馬という風流な名[2]をもち、特に大きな害をなさないこの虫も、今日では便所コオロギという良くない名とともに不快害虫として忌み嫌われることも少なくない。かつての日本家屋は密閉度が低かったため、カマドウマが周辺の森林などから侵入し、多くの日陰や空隙と共に食料も提供してくれる土間の隅などに住み着くことも多かった。そのため家人にとっては馴染みの日常的な存在であったが、自然が住宅から遠ざかり家屋の構造や住環境も変化した結果、カマドウマ類が生息する家も少なくなった。更に殺虫剤の発達と相俟って、人間に発見されれば即座に殺傷駆逐の対象とされることも多くなり、駆除対象以外での日本人とのかかわりが少なくなっている。

[編集] 分類

カマドウマ属は東南アジアから東アジアにかけて約20種ほどが知られる。しかし形態の似たものが多いため分類が難しく、未知の部分も少なくない。日本産のカマドウマも従来より地域ごとに色々な特徴をもったものが知られており、その一部は学名未定のまま和名のみが付けられていた。しかし2003年の杉本雅志・市川彰彦の論文[3]で分類学的な整理と未記載亜種の正式な記載などが行われた結果、日本のものは2007年現在で6亜種と未記載の1種に区別されている。しかし未だ完全な解明には至っておらず、西日本から南西諸島にかけての地域を中心に、更に新たな亜種(あるいは種)が追加される可能性もあるという[4]

2006年現在、日本から知られているカマドウマ種群は以下のとおりである。「A.」は属名Atachycinesの略。

  • カマドウマ Atachycines apicalis apicalis (Brunner von Wattenwyl, 1888) 北海道~九州、韓国に分布する原名亜種。ヤマズミウマ Paradiestrammena kotljarovskyi Gorochov, 1998 はシノニムとされる。
  • エラブカマドウマ A. apicalis panauruensis Sugimoto et Ichikawa, 2003 沖永良部島与論島の亜種。
  • ヤクカマドウマ A. apicalis yakushimensis Sugimoto et Ichikawa, 2003 屋久島の亜種。
  • アグニカマドウマ A. apicalis nabbieae Sugimoto et Ichikawa, 2003 粟国島の亜種。
  • クメカマドウマ A. apicalis gusouma Sugimoto et Ichikawa, 2003 奄美大島徳之島沖縄本島・浜比嘉島・久米島に分布する亜種。別名ヒメクメカマドウマ。
  • メシマカマドウマ A. apicalis ssp. 長崎県男女群島の女島(めしま)に分布するカマドウマの未記載亜種とされるもの。「ssp.」はsubspecies(亜種)の略で「~の一亜種」という意味。
  • アマギカマドウマ A. sp. 伊豆半島(和名は天城山に因む)に分布する未記載種。茨城県にも似たものがいるという。「sp.」はspecies(種)の略で「~の一種」という意味。

[編集] 脚注

  1. ^ 野沢登 (1983) in 石原保・監修『学研生物図鑑 昆虫III バッタ・ハチ・セミ・トンボほか』学研。ISBN 4-05-100392-2
  2. ^ 古名の「いとど」は季語である。
  3. ^ Sugimoto, M and Ichikawa, A., (2003). Review of Rhaphidophoridae (excluding Protrogrophilinae) (Orthoptera) of Japan. Tettigonia (5): 1-48.
  4. ^ 日本直翅類学会・編 (2006) 『バッタ・コオロギ・キリギリス大図鑑』 北海道大学出版会。ISBN 4-8329-8161-7

[編集] 関連項目

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