カイロプラクティック
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カイロプラクティック(Chiropractic)とは、1895年 にアメリカ、アイオワ州ダベンポートのD.D.(ダニエル・デビッド)・パーマーにより創始された療法。日本には1916年、パーマーの設立したパーマー・スクール・オブ・カイロプラクティック卒業の川口三郎が伝えたとされている。ギリシャ語のChiro「手」とPrakticos「技術」を組み合わせた造語であり、「脊椎指圧療法」または「整体」ではない。
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[編集] 概要
カイロプラクティックとは、自然の法則に基づく、哲学・科学・芸術であり、不調(疾病)の原因となる脊柱上の分節を、素手によってのみアジャストをするシステムとされる。
世界保健機関の定義によると、筋骨格系の障害とそれが及ぼす健康全般への影響を診断、治療、予防する専門職であり、関節アジャストメントもしくは脊椎マニピュレーションを含む徒手治療を特徴とし特にサブラクセーションに注目する。
創始者DDパーマーは、カイロプラクティックの定義をこのように定めている。
それを説明を加えて別の表現で解説すると、脊椎などの椎骨がずれて神経が圧迫され、神経機能を阻害されることが様々な病気や症状の原因となるという理論に基づき、ナーボスコープに代表されるインストゥルメンテーション(計器測定)と呼ばれる体表温度測定器によってサブラクセーション(一つの椎骨が上下の関係において正常な位置より変位して、神経圧迫を起こし、脳からのメンタルインパルス(ライフ・フォース、神経エネルギー)の伝達を妨害している状態)の位置や時期を確認し、レントゲン写真にて方向や程度及びサブラクセーション退化の段階を精査し、その結果に基づき、必要な椎骨に、必要な時期に、必要な方向に、必要な深さと力で、素手による矯正(アジャストメント)によってのみ脊椎骨の配列を整え、かつ神経機能の妨害を取り除き、それにより、人間が本来持つ自然治癒力(カイロプラクティックではイネイト・インテリジェンスと呼ぶ)を100%働ける状態にすることで身体の機能を回復させようとする医療体系である、とも言える。
筋肉や骨といった筋骨格系の機能と構造的な障害、そしてそれらが及ぼす神経系の機能異常、ひいては健康全般への影響を診断、治療、予防し、なるべく薬物や外科を用いず自然治癒力を取り戻させようとするヘルスケアである。尚、オステオパス(DO)や医師(MD)や共に医学(西洋医学)に分類されているが、カイロプラクター(DC)は補完代替医療に分類され医学(西洋医学)ではない。むしろ思想は東洋医学に近い。
WHOに世界80ヶ国ほどの団体からなるWFC(世界カイロプラクティック連合)がNGOとして加盟し、世界約30ヶ国(アメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリス、ニュージーランド、香港、南アフリカ等)で法制化されている。WFCの日本代表団体は日本カイロプラクターズ協会(JAC)。
発祥の地アメリカでは全州で法制化されており、ドクター・オブ・カイロプラクティック「Doctor of Chiropractic」(D.C)や Chiropractic Physicianの名称の医療資格として認可されている。レントゲン写真を撮る事も認められている。医師同様に専門の大学院を卒業しなくてはならない。欧米諸国(イギリス、スイス、デンマーク、ノルウェーなど)の一部では、カイロプラクティック専門家という資格を法制化している国もある。日本では医業類似行為としても法制化されておらず、誰もがカイロプラクターを名乗る事が出来る。よって施術を受ける側は症状の悪化はもとより、高額な回数券や健康食品、健康器具の押し売りなどの危険が伴う可能性に注意が必要である。
[編集] 法律上の問題
詳細は医業類似行為を参照
上記にもあるが日本では法制化されていない為、法に定められる以外の民間療法行為となる。
[編集] 医業類似行為
あはき法では、「あん摩マッサージ指圧・はり・きゅう・柔道整復」といった医業類似行為を行うためにはそれぞれ3年以上の専門教育機関を卒業し国家資格の免許を受けることが義務付けられており、「あん摩マッサージ指圧・はり・きゅう・柔道整復」以外の医業類似行為については、「当該医業類似行為の施術が医学的観点から少しでも人体に危害を及ぼすおそれがあれば、人の健康に害を及ぼす恐れがあるものとして禁止処罰の対象となる」とされている(厚生省医務局長通知)。
カイロプラクティックがあん摩・マッサージ・指圧に含まれるか否かについて、厚生省医務局は宮城県の問い合わせに対し、「カイロプラクチック療法は、脊椎の調整を目的とする点において、あん摩、マッサージ又は指圧と区別され、したがって、あん摩、マッサージ又は指圧に含まれないものと解する」と回答した[1]。
[編集] 厚生省の通知
各都道府県衛生担当部(局)長あて厚生省健康政策局医事課長通知(平成3年6月28日 医事第58号)において以下のように指導され、また危険性も指摘されている。
- 禁忌対象疾患の認識
- カイロプラクティック療法の対象とすることが適当でない疾患としては、一般には腫瘍性、出血性、感染性疾患、リュウマチ、筋萎縮性疾患、心疾患等とされているが、このほか徒手調整の手技によって症状を悪化しうる頻度の高い疾患、例えば、椎間板ヘルニア、後縦靭帯骨化症、変形性脊椎症、脊柱管狭窄症、骨粗しょう症、環軸椎亜脱臼、不安定脊椎、側彎症、二分脊椎症、脊椎すべり症などと明確な診断がなされているものについては、カイロプラクティック療法の対象とすることは適当ではないこと。
- 一部の危険な手技の禁止
- カイロプラクティック療法の手技には様々なものがあり、中には危険な手技が含まれているが、とりわけ頚椎に対する急激な回転伸展操作を加えるスラスト法は、患者の身体に損傷を加える危険が大きいため、こうした危険の高い行為は禁止する必要があること。
- 適切な医療受療の遅延防止
- 長期間あるいは頻回のカイロプラクティック療法による施術によっても症状が増悪する場合はもとより、腰痛等の症状が軽減、消失しない場合には、滞在的に器質的疾患を有している可能性があるので、施術を中止して速やかに医療機関において精査を受けること。
- 誇大広告の規制
- カイロプラクティック療法に関して行われている誇大広告、とりわけがんの治癒等医学的有効性をうたった広告については、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律第十二条の二第二項において準用する第七条第一項又は医療法(昭和二十三年法律第二百五号)第六十九条第一項に基づく規制の対象となるものであること。
[編集] その他の問題点
法制化されておらず誰もがカイロプラクターを名乗る事が出来る。3ヶ月程度の短期養成校や国際基準を謳う高額の養成校まで、様々な民間資格を得た未熟な施術者も増えている。過度の頚椎アジャストメントによる事故も報告されている。それにより、前述の通り厚生省はカイロプラクテック各団体に「医業類似行為に対する取り扱いについて」を通知し、その中に禁忌対象疾患の認識や一部の危険な手技の禁止を指摘した。これにより各団体(ただし全団体ではない)により自主規制が設けられる事になった。
カイロプラクティック業界には、施術者、被施術者を含め統一した資格制度と法制化が望まれている。WFCおよびWHOによればCCE(Council on Chiropractic Education カイロプラクティック教育評議会)等の第三者教育認定機関が定めた最低全日4年制4200時間以上の教育を正式なカイロプラクティック教育としている。
業団体の意思の統一が図られることが急務ではあるが、現状ではかなり難しいと思われる。現在でも、厚生労働省はカイロプラクティックの法制化には消極的で、資格化の可能性は低い。平成16年度 保健所行政の施策及び予算に関する要望書(全国保健所長会)においては、「整体術(カイロプラクテック)やエステティック等の施術類似行為に対し早急に法的規制、管理指導を引き続き強化されたい」との要望が出されている。
今現在、多くの学校は短期で卒業生を輩出している。数ヶ月のものから2年制パートタイム、さらには大学教育機関も存在し、カイロプラクターと言っても知識、実力とも差が出てくるのは否めない。法整備が未熟な為、教育期間が長いからといって技術、知識、倫理に優れた施術者とも限らない。現状の法解釈を再度述べるなら、あくまでも人体に害をなさないことが前提である。
[編集] 国際基準教育校
日本国内でもいわゆる国際基準の教育機関が次々と開校している。1995年にオーストラリア公立大学RMIT大学日本校カイロプラクティック学科が国際基準校として開校し、アジア初の学校としてCCE認定を受けた。2007年には東京にマードック大学インターナショナルスタディセンタージャパンが開校し、現在では国際基準の教育機関は2校存在する。
- 2006年、WHOはカイロプラクティックに関するガイドライン「WHO guidelines on basic training and safety in chiropractic」(日本語訳 WHOカイロプラクティックの基礎教育と安全性に関するガイドライン)を発行した。これによりWHOが定めるカイロプラクティックの国際基準というものはより明確になった。
[編集] 調査研究と報告
- カイロプラクティックの有効性を認めた研究
- ニュージーランドレポート、カイロプラクティック調査委員会 1979年、ニュージーランド、イングリス委員長 (弁護士・法学部教授)フレイザー、ペンフォールド他
- オーストラリア厚生省報告書、メディケア受益検討委員会 1984年 豪州、二ュージーランドレポートを参照
- スウェーデン代替医療委員会報告書、1987年、スウェーデン政府、教育者の代表と医師、カイロプラクター各1名
- 米国厚生省 ランド(RAND)研究腰椎に対する脊椎マニピュレーションの適応性、1991年、米国 シェキリー主任研究者(大学教員)その他医師6名、カイロプラクター3名
- カナダオンタリオ州政府マンガレポート、1993年、カナダ マンガ主任研究者(大学教授)健康経済学者他3名
- 英国王室基金ビングハムレポート、1993年、 英国 カイロプラクティック特別調査委員会
- 米連邦政府ヘルスケア対策研究局 成人における急性腰痛の諸問題腰痛ガイドライン、1994年 米国 ビゴス整形外科医他23名のパネル委員とカイロプラクター2名
- 英国政府腰痛の臨床業務ガイドライン腰痛ガイドライン、1995年 英国 臨床スタンダード委員会10名中カイロプラクター1名参加
- カナダケベック州むち打ち関連疾患に関する調査、1995年、カナダ ケベック州調査委員会、スパイザー委員長他34名の専門家(カイロプラクター含む)
- 英国腰痛運動とマニピュレーションの無作為試験、2004年、 英国 英国BEAM(back pain exercise and manipulation)試験チーム
- 慢性非特異的腰痛管理ヨーロピアンガイドライン、2006年、 欧州 慢性腰痛ガイドラインワーキンググループ、9ヶ国11名の専門家(整形外科医、理学療法士、心理学者、麻酔科医他)
- 米国内科学会および米国疼痛学会による統合臨床診療ガイドライン、2007年 米国 米国内科学会臨床有効性評価委員会および米国疼痛学会腰痛ガイドラインパネル計医師7名
- カイロプラクティックの有効性を認めなかった研究
- 日本厚生省 脊椎原性疾患の施術に関する医学的研究(三浦レポート)、1991年、日本 主任研究者:三浦幸雄(整形外科教授) 研究協力者:石田肇他7名の整形外科医
[編集] 関連項目
[編集] 脚注
- ^ 法令適用上の疑義について - 厚生省医務局長あて宮城県衛生部長照会
[編集] 外部リンク
- 日本を代表する機関は?
- カイロプラクティック取扱いに関する質問主意書
- 参議院議員堀利和君提出カイロプラクティック取扱いに関する質問に対する答弁書
- 無資格マッサージ等取り締まり関係資料 - あはき等法推進協議会
- あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律ならびに関係法令の遵守と違法者取締りの徹底強化に関する請願書 - 愛媛県あはき推進協議会
- WHO guidelines on basic training and safety in chiropractic(WHOのカイロプラクティックに関するガイドライン 英文)
- WHO加盟WFC日本代表団体 有限責任中間法人 日本カイロプラクターズ協会
- WHOのカイロプラクティックに関するガイドライン 日本語翻訳版