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オランウータン - Wikipedia

オランウータン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

?オランウータン属
分類
動物界 Animalia
脊索動物門 Chordata
亜門 脊椎動物亜門 Vertebrata
哺乳綱 Mammalia
サル目 Primate
亜目 真猿亜目 Haplorhini
下目 狭鼻下目 Catarrhini
上科 ヒト上科 Hominoidea
オランウータン科(ショウジョウ科) Pongidae
ヒト科 Hominidae
オランウータン属 Pongo

オランウータン(英:orangutan)は、哺乳綱霊長目ヒト科オランウータン属の構成種の総称。マレー語で「森(hutan)の人(orang)」を意味する。なお、和名にショウジョウ(猩猩)があるが、これは中国の伝説の動物猩猩から来たものである。

目次

[編集] 分布

他の類人猿がアフリカ大陸を生息地とするのに対し、本種は東南アジアスマトラ島ボルネオ島熱帯雨林にのみ生息する。

[編集] 形態

雄と雌では形態に大きな差があり、メスの体長は約127cm、体重は約45kgであるのに対し、フランジ(後述)の雄の体長は約175cm、体重は約118kgに達する。

オランウータンの腕は脚の2倍の長さがある。 これは上腕骨ではなく橈骨尺骨が長いことによるものである。

指とつま先が曲がっていて、そのため枝を上手につかむことができる。

大腿骨を骨盤に保持する股関節の靭帯がないため、ヒトや他の霊長類と異なり、オランウータンは足の動きに制約が少ない。

ゴリラチンパンジーとは異なり、オランウータンは拳で地面を突くナックルウォークをしない。 地面を歩くときは 指を曲げ手のひらで歩く。

[編集] 生態

オランウータンの子供
オランウータンの子供

ほぼ完全な樹上生活者であり、大きな大人のオス以外は基本的に地面におりることはない(大人のオスはときどき地面に下りて、短い距離を歩くことがある)。 天敵は中大型のネコ科ウンピョウ、スマトラトラ)、ヘビなどが考えられているが、オランウータンが実際にこうした動物に襲われた例はほとんど知られていない。

類人猿の中では最も単独性が強く、グルーミングや遊びなどの社会交渉を行う頻度は、活動時間の1%以下である。しかし完全な単独性ではなく、3-7頭が同時に同じ木で採食したり、連れだって移動することもあり、緩やかなつながりをもつ社会を形成していると考えられている。

[編集] 道具使用の発見

スマトラ島では、小枝を使って堅いドリアンの実を開けて、栄養豊富な種を食べる。また枝を木の洞に差し込んで、アリやシロアリなどを釣って食べる。オランウータンは飼育下やリハビリテーションセンターではよく道具を使用するが、野生での道具使用の例は、最近まで発見されていなかった。なおボルネオ島では道具使用の報告はほとんどない。

[編集] 食性

果実を主食としているが、ボルネオ島では果実が少ない時期には樹皮や新葉もよく食べる。他にもキノコや花、シロアリアリを食べるが、チンパンジーとは異なり、肉食(脊椎動物を食べること)の観察例はほとんどない。

東南アジアの熱帯雨林では一斉開花と呼ばれる現象があり、数年に1度だけ森の木々が一斉に開花・結実する。一斉開花の年以外は果実生産は低調で、イチジクをのぞくと、ほとんど果実がない時期もある。

特にボルネオ島ではこの果実がない期間が長く、オランウータンは一斉開花の年に「食いだめ」をして体内の脂肪を蓄え、果実が少ない時期はこの脂肪を消費しながら耐えている。一斉開花の年の1日の摂取カロリーはオトナのオスで8000kcal以上になるが、非果実季には4000kcal未満と半分以下に激減する。非果実季には、樹皮や新葉などを食べながらため込んだ脂肪を消費してしのいでいる。

スマトラ島では非果実季でもイチジクの実が豊富にあるので、樹皮や葉を採食することは少ない。

[編集] 繁殖

妊娠期間は270日で、1回に生まれる幼獣の数は1頭、双子の報告はほとんどない。2歳半から3歳頃に離乳するが、6-9歳頃まで母親と一緒に行動する。メスは10歳頃、オスは15歳頃大人になる(性成熟に達する)が、野生下でメスが最初の子を出産するのは13-18歳頃と言われている。出産間隔は6-9年で、霊長類の中では最長である。子の死亡率は非常に低く、数%という報告がある。寿命はまだよくわかっていないが、スマトラでは少なく見積もっても53歳に達しているメスが乳児を抱えて元気に生きている例が報告されており、オスに関しても少なくとも58歳まで生きたという報告がある。

メスが生まれた場所(群れ)を離れて移動(分散)するアフリカ大型類人猿とは異なり、(DNA解析の結果)雄も雌も同程度に分散している可能性が指摘されている。しかし長期研究が行われている調査地では、メスが母親の近くに留まる例も観察されている。

大人のメスは通常、一頭の子(赤ん坊)を連れて移動・採食し、オスも基本的には1頭で生活している。若いオスやメスは連れだって行動したり、大人のメスについて歩いたりすることもある。

夜には毎晩、1頭1頭が新しい巣を作って寝るが、まれに古い巣を再利用することがある。幼獣は母親から独立するまでは母親と一緒の巣で眠ることが多い。

オランウータンは大人のオスが社会的地位に応じて、形態を大きく変えるという生態を持つ。

オランウータンのオスの顔の両脇にある張り出し(でっぱり)は「フランジ(Flange)」と呼ばれている(別名Cheek-Pad、頬だこ)。フランジは強いオスの「しるし」で、弱いオスは何歳になってもフランジが大きくならない。しかしひとたび強いオス(フランジがあるオス)がいなくなると、フランジのないオス(アンフランジ)が急激にフランジを発達させて、1年以内にフランジのあるオスに変わってしまう。

スマトラでは、20年以上アンフランジだったオスがフランジとケンカをして勝ったところ、急にフランジに変わってしまった、という報告もある。フランジは一度大きくなると小さくなることはない。

またオス間の関係では、フランジをもつオス同士は非常に敵対的で、時には殺し合いに発展するような激しい闘争を行う。一方、フランジのオスはアンフランジに対しては非常に寛容で、同じ木で一緒に採食することもある。アンフランジ同士の間にも敵対的な関係はほとんどみられない。

フランジとアンフランジは繁殖戦略(メスとの関係)が大きく異なっている。

フランジのオスは大きな「のど袋」を持っていて、「ロング・コール(long call)」と呼ばれる独特の音声を発し、発情したメスがやってくるのを待つ。アンフランジのオスはメスと変わらない小さな体でこっそりメスに近づき、交尾を試みる。アンフランジの交尾に対してメスが抵抗することが多いため、研究者によってはこうした交尾を「レイプ」と呼んだりもする。

しかしボルネオではフランジのオスが「レイプ」をすることもある(スマトラではほとんどない)一方、どちらの島でもメスがアンフランジのオスと積極的に交尾する例も観察されている。

最近のDNA資料を用いた父子判定の結果からは、フランジもアンフランジも同程度子を残している例が報告されている。

[編集] 分類

かつてはボルネオ島に生息する個体群とスマトラ島に生息する個体群は「亜種」とされていたが、現在は「別種」とされることが多い。

  • Pongo abelii スマトラオランウータン
  • Pongo pygmaeus ボルネオオランウータン
    • P. p. pygmaeusサラワクからボルネオ島西部に分布。野生での生態はほとんど研究されていない)
    • P. p. wurmbii (ボルネオ島西部からボルネオ島中部に分布。ボルネオでは最も研究されている)
    • P. p. morio (ボルネオ島東部からサバに分布。wurmbii に次いで研究されている)

(注)ボルネオ島南部には野生のオランウータンは分布していない。

両者は遺伝的、形態的、生態的に異なる点が多いが、飼育下では交雑が可能である。しかし、雑種個体は純血個体に比べて寿命が短く、幼児死亡率が高いことが報告されており[1]、別種とするのが適当と考えられる。

亜種の間にも遺伝的、形態的に違いがある。特に頭骨や歯の形態については、スマトラとボルネオ間の差異よりも、ボルネオ島内の亜種間での差異の方が大きいとの報告が多い。

[編集] 人間との関係

オランウータンの研究は他の類人猿研究に比べ、進んでいない。その理由として、

  • 単独性が強いために、データ収集の効率が悪い(研究に必要なデータを集めるまでに時間がかかる)
  • オランウータンは高さ10-60mの樹上を中心に生活しており、接近して生活の詳細を観察することができない。

といったことが挙げられる。

また、日本人の研究者がほとんどいないために、日本語の情報が非常に少なく、日本では実際以上に「研究されていない」とのイメージが強い。しかし、海外の研究者による長期研究が数ヶ所で進められており、多くの知見が蓄積されつつある。

[編集] 関連項目

ウィキメディア・コモンズ

[編集] 脚注

  1. ^ Cocks, L., 2007. Factors affecting mortality, fertility, and well-being in relation to species differences in captive orangutans. vol.28, p421-428.

[編集] 参考文献

  • 鈴木晃 『オランウータンの不思議社会』 岩波ジュニア新書
  • ビルーテ・ガルディカス著、杉浦秀樹・斉藤千映美・長谷川寿一訳 『オランウータンとともに 上・下』 新曜社
  • C・ガファン・シャイック 『オランウータンの道具の文化が示す知能の進化』 日経サイエンス2006年7月号

[編集] 外部リンク


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