エピフォン・カジノ
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エピフォン・カジノ Epiphone Casino |
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エピフォン・カジノ(韓国製) |
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メーカー/ブランド | エピフォン |
構造 | |
ボディタイプ | 中空ボディ(センターブロック無し) |
ネックジョイント | 1961~1967年:16フレット 1968~1969年:19フレット 日本製・韓国製:17フレット (近年の一部の限定モデルは16フレット) |
材質 | |
ボディ | メイプル |
ネック | マホガニー (1985~1990年頃の日本製はメイプル) |
フィンガーボード | ローズウッド |
ナット | 牛骨 |
ハードウェア | |
ペグ | クルーソン(エリーティスト、JLモデルはグローバー) |
ブリッジ | チューン・O・マティック |
テールピース | トラピーズテールピース/ ビグスビー・トレモロユニット |
電気系統 | |
ピックアップ | シングルコイル(P-90)×2(過去には1基のみのモデルも存在した) |
コントロール | ボリューム×2、トーン×2、ピックアップセレクタースイッチ(フロント/オール/リア) |
カラーバリエーション | |
チェリーサンバースト、ナチュラルなど | |
その他 | |
古いモデルではヘッド幅が広い。現行機種の殆どは韓国製。 | |
テンプレート | カテゴリ |
エピフォン・カジノ (Epiphone Casino) とは、1961年にエピフォン社がギブソン社に買収された後に、ギブソン社がエピフォン・ブランドとして発売した、アーチトップタイプのエレクトリックギターである。ピックアップを2発搭載した最も一般的なモデルの型番はES-230TD。
目次 |
[編集] 特徴
[編集] 構造的特徴
ボディデザインはギブソン・ES-330をベースに作られている。ES-335等と似た外見のためにセミアコースティックギター(セミアコ)に分類されることが多いが、セミアコースティックギター同様のハーフデプスボディ(薄い胴)でありながら内部構造はセンターブロックの無いフルアコースティック構造となっている。
ピックアップはボディトップに長方形の穴を開け、通常2基のP-90(ドッグイヤー型)というシングルコイルピックアップを装備する(ES-230TDの2つのピックアップの中間にあたる位置にP-90を1基しか装着していない、ES-230Tというモデルも存在した)。ただし一般的なP-90ピックアップの外殻がプラスチック製であるのに対し、カジノに標準装備されているP-90ピックアップの外殻は金属製である。ボリュームとトーンコントロールノブは、フロントとリア用にそれぞれ1つずつ計4つ付いている。ピックアップセレクタースイッチはギブソンの他のギター同様、センターポジションにした際、どちらかのピックアップのボリュームを0にすると音がミュートされる構造になっている。
[編集] サウンドの特徴
フルアコースティック構造を持っているため太い音が出せ、リズムギター、リードギターの両方に用いることができる。またロックのみならず、ジャズにも向いている。また生音でも比較的よく鳴るエレクトリックギターであるが、それが元でアンプの近くで演奏するとフィードバックが起きやすい。この欠点を逆手にとった演奏方法も採ることができるなど、様々な使い方ができるギターである。
[編集] ビートルズとカジノ
キンクスのデイヴ・デイヴィス、ローリング・ストーンズのキース・リチャーズらによって既に使われていたカジノであったが、1964年にはビートルズのメンバーであったポール・マッカートニーもカジノを入手する。このカジノのシリアルナンバーは84075で、このことから1962年11月11日に出荷されたものと分かる。初期型モデルのためヘッドはNY(ニューヨーク・ヘッド)と呼ばれる、ギブソンタイプよりも幅が広いものであった。ポールのものはバックがトップ同様、サンバーストに仕上げられており、これは同社の仕様の中では非常に珍しいタイプである。この頃のカジノのヘッド側のストラップピンは出荷状態では取り付けられておらず、各自で好みの位置に取り付ける必要があったが、ポールはホーンの先端に取り付けていた。また左利きでプレイするために、弦を反対に張り替えて使っていた。尚、ポールのビグスビートレモロはイギリスのセルマー社でライセンス生産されたタイプで、若干アメリカ製と形が異なる。ポールはこのカジノを「涙の乗車券」(1965年) と「タックスマン」(1966年) のレコーディングにて、ギターソロなどの演奏に使用する。
ポールのカジノに感化されて、2年後の1966年に、ビートルズが7枚目のアルバム『リボルバー』を製作する間、ジョン・レノンは1965年製を、ジョージ・ハリスンは1964年製カジノを購入する(または贈呈された)。ジョンはトレモロアームを使用しない演奏スタイルを選択したため、ブランコ型のトラピーズ・テールピースが付いている。ジョージもそれほどトレモロアームは使用する方ではないが、サウンドにおける影響も考慮してか、ビグスビー・トレモロアームの付いたモデルを選択した。
これら2本のカジノは1966年のラストワールドツアーでのメインギターとなり、日本公演でも使用された。ビートルズがコンサート活動をやめた後は、ジョージはカジノをあまり使用しなくなったが、ジョンはビートルズ解散後までカジノをメインギターとして使用し続けた[1]。また、ポールはビートルズ時代に入手したカジノを現在も所有しており、レコーディングにてメイン・ギターとして使用している。もしエレクトリックギターを一本だけ選べと言われたらこのカジノにすると述べるほど、カジノを気に入っているようである。
[編集] 代表的なスペック
- ボディ・トップ材:メイプル -ハウリングを抑えるために5プライ構造をとる。
- ボディ・サイド材:メイプル
- ボディ・バック材:メイプル
- ネック材:マホガニー
- フィンガーボード材:ローズウッド
- ネック・ジョイント仕様:セット
- スケール:24.75"
- ブリッジ:Gibson ABR-1
- テールピース:トラピーズタイプ
- ピックアップ:P90×2
- コントロール:2Vol, 2Tone, 3Wayスイッチ
- カラー:サンバースト 他にチェリー(レッド)、ナチュラル、エボニー(ブラック)など。
[編集] 近年の主なモデル
- レギュラー・カジノ (韓国製・中国製)
- 2007年現在、一般的に販売されているモデル。ポリエステル塗装。オリジナルモデルとはジョイントされているフレットが異なる。安価な設定になっている。韓国製のシェイプは概して50年代のES-335に近く、ホーンに丸みがある。サンバースト・カラーの色合いもオリジナルとは異なり、フェンダー社のような赤が入っているのも特徴。2006年頃から出回った中国製のシェイプは当初著しく崩れていたが、2007年の入荷分から日本製に準じたシェイプに改善されている。サンバースト・カラーの色合いはホーンも黒く塗り潰された、ギブソン社の仕様に準じたものとなっている。いずれもP-90ピックアップは低コストのエピフォン製が付けられている。価格はジョン・レノンの人気・世間の注目度とともに変動する傾向がある。
- 世界1965本限定 ジョン・レノン・カジノ
- '62カジノ、'64カジノ (日本製)
- ジョン・レノンを彷彿とさせる'65モデルに対して、それぞれポール・マッカートニーとジョージ・ハリソンの所有モデルをイメージしている。ヘッドにシリアルが入っていない。ラッカー塗装。上記モデルと同じ木部でピックアップも米ギブソン製。1960年代のエピフォン製を模したケースが付属する。東京のビートルズ専門楽器店Withオリジナルとしてギブソン・エピフォンの許諾のもと発売された。米国製の約半額と比較的安価であり、同価格帯の下記日本限定モデルより音が良いとされた。'64は'62より早く発売され、流通量も多い。
- '65カジノ、レボリューション・カジノ (Revolution Casino) (日本製、モデル名は通称)
- この2モデルはジョン・レノンカジノの廉価版として少数生産された限定モデル。「Japan Limited」のブランドを略したJLの2文字が型番に含まれ、これがJohn Lennonの頭文字とかけられている。ラッカー塗装。上記モデルと同じ木部であるがピックアップは米ギブソン製ではない(レギュラーとも異なる)。ヘッドにレノン所有モデルのシリアルが入っている。
- エリーティスト・'65カジノ (Elitist '65 Casino)
- 主に1965年仕様を取り入れた復刻版。当初日本以外の国々で発売されていたが、後にエリートを統合する形で日本でも発売される。シェイプはジョージ・ハリスン所有のモデルに近い。ポリエステル塗装と、グローヴァー社製のシルヴァー・ロトマチック・ペグを装着している点が、オリジナルと異なる。
- エリート・'65カジノ (Elitist '65 Casino)
- 主に1965年仕様を取り入れた復刻版。日本国内限定発売で、エリーティスト以前に流通していた。ラッカー塗装。ヘッドの角度などが忠実ではない。また、先述のエリーティストと同じくグローヴァー社製のシルヴァー・ロトマチック・ペグを装着している。
- リミテッド・カジノ・ウィズ・ビグスビー (Limited CASINO w/Bigsby) (韓国製)
- ピックアップ:Epiphone Alnico V P-90 x2
- ジョージ・ハリスン所有のカジノと同じタイプのビグスビー・トレモロアーム仕様 (近年のデザインが異なるアルミ製のビグスビーが付いたモデルも存在する)。
- ビグスビー・トレモロアーム以外は現行の韓国製レギュラー・カジノと同一仕様
- 2006年の世界限定発売
- また、これ以外にも山野楽器が前述のJapan Limitedモデルをベースにしたジョージ・ハリスン追悼モデルを販売したことがある。
[編集] 使用していたミュージシャン
- ジョン・レノン
- ポール・マッカートニー
- ジョージ・ハリスン
- デイヴ・デイヴィス
- キース・リチャーズ
- ポール・ウェラー - 1基のみのP-90ピックアップタイプ
- 寺尾聰
- 泉谷しげる
- 渡辺香津美
- 破矢ジンタ - 後に日本人ミュージシャンとしては初のシグネイチャーモデル、ES-930Jが発売される
- TAKURO
- 桜井和寿
- 田原健一
- 桑田佳祐
- トータス松本
- 奥田民生
[編集] 脚注
- ^ 現物はさいたま市にあるジョン・レノン・ミュージアムにて塗装を剥がした状態で展示されている。
- ^ 「レボリューション」モデルでは、レノンがクルーソン社製のペグをグローヴァー社製に換装する改造を行ったことを表現するべく、ヘッド裏にクルーソン取付時のネジ穴もあけられている。但し、ビートルズが「レボリューション」を録音するのはこの改造より前のことである。
[編集] 参考文献
- 『Beatles gear 日本語翻訳版』(ISBN 4845607980)