イーオー
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イーオー(イオ、Ῑώ, ラテン文字転写:Īō、ラテン語形:Io)は、ギリシア神話において、河の神イーナコス[1](イーアソス[2]、ペイレーン[3]ともされる)。とメリアー[4]の娘で、アルゴスがゼウスの妃ヘーラー信仰の中心地であったため、ヘーラーに仕える女神官を務めた。
ゼウスに見初められ、雲に変身した[要出典]ゼウスに愛される。そこに急に現れた[要出典]ヘーラーの目を誤魔化すため、ゼウスにより牝牛(一説では牡牛)[要出典][5]に姿を変えられた。しかし、ヘーラーは全てお見通しであったため、イーオーをゼウスから強引にもらい受ける。以後、ヘーラーは百の目を持つ怪物[6]「普見者」[7]アルゴスに命じてイーオーを見張らせるが、アルゴスはヘルメースによって殺され、イーオーは解放された。だがそれでも怒りが収まらないヘーラーは虻(アブ)を放ち[8]、イーオーは追われて海に出た。それがイオニア海[9]である。その後、イーオーは世界を彷徨(さまよ)たあげく、エジプトへ逃げたとされている。ヨーロッパからアジアへはトラーキア海峡を渡ったが、牝牛に変じたイーオーが渡ってからはボスポラス海峡[10]と呼ばれることになった。また、彼女が世界中を逃げ回る途中プロメーテウスに出会い、エジプトへ逃げるように示唆される。この時、プロメーテウスは彼女の子孫から、後に自分を救う人間、すなわちヘーラクレースが生まれることを予知した[11]。
イーオーがエジプトへ逃げたところで遂にゼウスは自らの浮気を白状し、ヘーラーに許しを請うた。そこでようやくヘーラーはイーオーを許し、人間に戻してやった。[12]一説ではヘルメースがイーオーに追いつき、虻を殺して人間に戻したとされる。[要出典][13]エジプトで生まれたゼウスとの子エパポスは、ヘーラーの命によってクーレースたち(クロノスからゼウスを隠し、養育した精霊)によって隠された。イーオーはエパポスがビュブロス王のもとで養育されていることを知り、子どもを求めてシリア中をなお彷徨い、遂に巡り会った。後に彼女はエジプトでテーレゴノス王の妻となった[14]。
エジプト神話のイーシスや、同じギリシア神話のエウローペー[要出典]と同一視されている。
[編集] 注
- ^ ヒュギーヌス、カストール、複数の悲劇詩人による。アルゴリス(アルゴス地方)を流れるイーナコス河を神格化したもの。
- ^ アポロドーロスによる。
- ^ ヘーシオドス、アクーシラオースによる。
- ^ ヒュギーヌスによればアルゲイアー。
- ^ 高津によれば、イーオーは死後星になったと伝えられるとあり、それを牡牛座と解釈したためか?
- ^ 高津による。
- ^ アポロドーロスによる。
- ^ アポロドーロスによる。ヒュギーヌスは虻ではなく「恐ろしい化け物」としている。
- ^ アポロドーロスは「イーオニア湾」、ヒュギーヌスは「イオーニア海」(イーオーの海)と表現し、さらにアイスキュロスもイーオーをその名祖としているが、高津はイーオーでは母音の長さが異なることから、イオニオスを名祖としている。
- ^ ギリシア語 Βόσπορος は通俗語源説で 「牝牛の渡し」 の意。牝牛に変身したイーオーが渡ったことから。
- ^ アイスキュロス『縛られたプロメテウス』。
- ^ ヒュギーヌス、高津によれば、人間の姿に戻したのはゼウスとある。
- ^ アポロドーロス、ヒュギーヌスともにヘルメースが殺したのはイーオーを見張っていたアルゴスである。
- ^ アポロドーロスによる。
[編集] 参考文献
- アポロドーロス 『アポロドーロス ギリシア神話』(改版) 高津春繁 訳註、岩波書店〈岩波文庫〉、1978年(初版:1953年)。
- 高津春繁 『ギリシア・ローマ神話辞典』、岩波書店、1960年。
- ヒュギーヌス 『ギリシア神話集』 松田 治・青山照男 訳註、講談社〈講談社学術文庫〉、2005年。