イット・ケイム・フロム・ザ・レイト・レイト・レイトショウ
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イット・ケイム・フロム・ザ・レイト・レイト・レイトショウ(It Came From The Late, Late, Late Show)は、アメリカ合衆国のゲーム出版会社、ステラゲームズ(Stellar Games)が発表したテーブルトークRPG。「低予算映画」をモチーフにした非常にマニアックなテーブルトークRPGである。日本語版はスザク・ゲームズにより販売されている。日本での略称は「レレレ」。
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[編集] 概要
『レレレ』のPCは低予算映画の撮影に参加してる「俳優」となる。シナリオごとに参加する映画が変わり、俳優であるPCはシナリオごとに「映画のキャラクター」を更に演ずることになる。(このPCの二重構造が『レレレ』の大きな特徴となっている) 一方、GMは映画を撮影する「監督」を演ずることになる。
このゲームで扱われている低予算映画とは、俗に「B級映画」とも呼ばれるもので、映画マニアの間ではひとつのジャンルとして確立されてるカルトな分野である。詳細はウィキペディア項目『B級映画』を参考。
低予算の中で芸術性の高いものをつくったアマチュアやセミプロの作品なども「低予算映画」などと呼ばれることもあるが、このゲームで扱う低予算映画は決してそのような「お綺麗な」映画ではない。
チープなセット、破綻した脚本、大根な演技、そして悪趣味極まりないゾンビと美女とチェーンソーのコラボレーション。「アメリカ映画=ハリウッドの壮大な映画」という認識が強い日本ではとても全国劇場公開などされようもなく、深夜の映画枠と木曜洋画劇場のTV放映で初めて知られるようなマイナー映画。 映画大国アメリカだからこそ巷にあふれている「思いつきだけで作ったようなゴミのような映画」こそがこのゲームで扱う「低予算映画」である。
[編集] システム
基本的な行為判定システムは、1D100で設定された難易度以下を出す、というパーセンテージ制下方ロールである。PCには能力値と技能があり、この二つの組み合わせにより行為判定の難易度が決定する。
また、『レレレ』のシステムはアメリカの低予算映画の特徴を表現するため、いくらかの特徴をもつ。
- 俳優は体当たりの演技が基本
- 映画のキャラクターに超人的な肉体能力が設定されていても低予算映画ではSFXなど使うことは一切ない。また、映画のキャラクターに天才的な知識を持つと設定されていても俳優に対して勉強するための資料や時間が与えられることもない。低予算映画ではキャラクターの能力は俳優の能力に依存するのである。超人的なキャラクターを演ずるには俳優自身が超人的でなくてはならないのだ。[1]
- このような低予算映画の悲惨な側面を表現するため、『レレレ』ではPCが俳優と映画のキャラクターの二役を演ずるようになっているにもかかわらず、映画のキャラクターの能力と俳優の能力が基本的には一緒であるという構造を持つ。シナリオによっては俳優たちは自分の能力ではとても演じられない「役柄」を監督(GM)から指定され、映画撮影(シナリオの進行)が崩壊していくこともままある。
- 俳優の撮影への干渉
- 上記でも記したとおり、低予算映画は俳優の能力に大いに依存する映画だ。それゆえ、俳優は映画に対して大きな影響力を持つ。人気のある俳優は監督(GM)にワガママを言うことで、映画の物語を自身の都合の良い展開にすることができるのだ。
- それを表現するために『レレレ』では俳優に「人気」という能力値が設定され、そしてその能力を使って映画の撮影そのものに、映画のキャラクターとしてではなく「俳優」として干渉することができるようにシステムが作られている。
- この「俳優による撮影への干渉」をあらわしたルールとして「スタント」(自身の能力では対応できないような危険なシーンをスタントマンに肩代わりさせる)、「セットを降りる」(気に入らないシーンがあったときをそこへの出演をボイコットすることでGMを脅迫する)、「フィルム破損」(逆上して撮影フィルムを燃やしてシーンそのものをなかったことにする)などが実装されている。
[編集] 関連製品
[編集] イット・ケイム・フロム・ザ・レイト・レイト・レイトショウ 深夜三流俗悪映画の来襲!!
『It Came From The Late, Late, Late Show, 3rd Ed.』(1993)の日本語翻訳版。1997年にスザク・ゲームズから発売。翻訳者は桂令夫、河村克彦、朱鷺田祐介。ISBN 4-915125-84-X。
基本的な判定ルールと、「スタント」、「セットを降りる」、「フィルム破損」などの撮影干渉のルールを掲載。ルールとしてはかなり軽めで割かれているページ数もそう多くはない。ルールやデータ以外には、イメージキャラクター「デモンナ」のどうでもいい雑談(英語のスラングだらけで翻訳者泣かせだったらしい)とシナリオで占められている。
実は『レレレ』は撮影する映画のジャンルごとにオプションルールを導入するのが推奨されているのである(しかも低予算映画っぽく、GMがオプションルールを自作することが推奨されている)。そのため、『レレレ』に掲載されているシナリオは、ただシナリオを載せているというよりも映画ジャンルにあわせた追加データ集という趣が強い。
基本ルールブックではゾンビものの「アンデッド・スキューバダイビング・ゾンビ 恐怖のビキニ・ビーチ侵略」とカンフーものの「少林の鉄拳 対決!ドラゴン・ニンジャ」を二本のシナリオを掲載しており、カンフー映画専用のオプションルール「フォーチュンクッキー劇場」を併せて掲載している。
サポート誌である『別冊FSGI』と『TRPG:サプリ』では、このほかにもさまざまなジャンルの映画に似合ったシナリオとオプションルールが掲載された。
[編集] イット・ケイム・フロム・ザ・レイト・レイト・レイトショウJ 深夜三流俗悪アニメの逆襲!!
『レレレ』の日本オリジナルサプリメント。[2] 1998年にスザク・ゲームズから発売。略称は『レレレJ』。ISBN 4-915125-98-X。
このサプリメントは「日本のアニメを参考にアメリカ人が作った変な実写映画(ただし、日本アニメを大いに勘違いしている)」という前作以上にコアなシチュエーションをテーマにしている。(方向性としては『チアリーダー忍者』や『女子高生ロボット戦争』などのアルバトルス・フィルム配給映画がもっとも近い雰囲気)[3]
『レレレJ』の内容は4本のシナリオとそれぞれのシナリオ専用オプションルールとなっている。 掲載されているシナリオは以下の4つ。
- 花の怪盗 マジカル・アーヤ - 魔法少女ものをテーマとする
- 獣甲騎士(ビースト・ナイト) ケン - いわゆるヨロイもの、装甲戦士ものをテーマとする
- 機動機械(モビルギア) メガマック - 巨大ロボットものをテーマとする
- 戦国幻想記 サクラ白書 - 上記3つのテーマをキメラ的に混ぜ合わせたもの
なお、サブタイトルが『深夜三流俗悪アニメの逆襲!!』となっているがこれは近年に顕著な低予算の深夜アニメを揶揄したものではない。前作のサブタイトル『深夜三流俗悪映画の来襲!!』のパロディなだけである。[4]
[編集] 日本での評価
『It's came form the Late Late Late Show』というゲーム自体がアメリカ本国でもマニアックなマイナーゲームという評価が強く、このゲームの翻訳出版はファンからの需要というより、朱鷺田祐介の個人的な趣味によるものという側面が大きい。(ステラゲームズに日本語化の交渉をしにいったところ、ステラゲームズ側から「本気か?」と逆に心配されたという逸話がある)
「B級映画ファンがバカ笑いしながら、チープさを楽しむゲーム」という『レレレ』のテーマが当時の日本のテーブルトークRPGファンに正しく理解されることは少なかったようだ。「ハマる人はとことんはまり込むが、ほとんどのゲーマーにとってはそもそも何をやるゲームか理解もされない」という二極の評価をされることになった。
日本語版のスタッフはこの現状に対し、雑誌上などで積極的に『レレレ』を理解させる記事を展開した。金澤尚子や田中としひさは漫画で『レレレ』紹介し、映画ファン以外に『レレレ』の遊び方を伝えるのに貢献した。
朱鷺田祐介や桂令夫などのライターは、文章面から『レレレ』の遊び方を説明していった。これらの記事は「バカゲー」の印象がある『レレレ』には似使わないほど実用性に富んだ良質なものであり、『レレレ』の高度なシステムデザインを見直させるものであったといえる。
結果としては『レレレ』は日本のテーブルトークRPGファンの間にそれなりの認知度は持てたものの、コアユーザー向きのマイナーなゲームという枠からは脱せなかった(しかし、原書からしてマイナーメジャーなゲームなので、「人は選ぶが、ハマると面白いゲーム」という評価を受けている現状は十分成功したといえる)
一方、「セットを降りる」や「フィルム破棄」に代表される『レレレ』のシステムデザインの特徴『プレイヤーは”物語の外側”からストーリーに干渉できる』という部分は、日本のテーブルトークRPGの世界に大きな影響を与えた。
『レレレ』のこのようなルールが、俗に「メタプレイ」と呼ばれるプレイスタイル(PCではなくプレイヤーの発言がシナリオを動かしていくプレイスタイル)への理解のためにサンプルとして使われていったのである。
「メタプレイ」とは何かをもっともわかりやすく教えることができるゲーム、ということで『レレレ』の評価は現在でもゲームデザインに関わる者たちの間では高い。[5]
メタプレイは翻訳を担当したスザク・ゲームズ以上に、F.E.A.R.製のゲームにおいて顕著で、特に菊池たけしのリプレイなどでは「PCではなくプレイヤーの発言がシナリオを動かしていく」ということが顕著にあらわれるようになった。[6]
[編集] 外部リンク
- れれれのホームページ
- 星野富美男氏によるレビュー記事
- スザク・ゲームズ (日本語版発売元)
[編集] 註
- ^ しかし、実際は超人な俳優などいないために、SFものや超人ものなどの低予算映画では目も当てられない作品ができることになるのである・・・・
- ^ 本国ステラゲームズでもサプリメントが出ている。2ndエディション用に発売された『It Came From The Late, Late, Late Show II: The Exploitation Sequel』(1989)がそれで、恐竜vs西部のガンマンというあまりにも日本人には理解しづらいニッチなシチュエーションをテーマにしている。(だがこういうゲームもあるので今ならそれなりに受け入れられるのかもしれない)。日本語版『レレレ』に収められているカンフールールはここからの抜粋である。
- ^ 映画マニア以外にも通じやすい身近な例で言えば、2004年の邦画界を席巻したアレとかコレとかソレとかドレとかヤレとかを思い出してもらえると「アニメ作品を無理して実写化したらおかしなことになった」という『レレレJ』のテーマが良くわかるだろう。(もっともこれらは低予算でないあたりが更なる悲喜劇をかもしだしているのだが)
- ^ そもそも『レレレJ』が発売された1998年は深夜アニメ黎明期であり、低予算アニメが深夜帯で粗製濫造されるという現在の状況はまだ発生していなかった。
- ^ ここで言うメタプレイは日本の市場で顕著に進化したものであり、アメリカ本国では『レレレ』にこのようなアカデミズムな評価がされることはあまりない
- ^ このプレイスタイルの筆頭である田中天は『レレレ』のファンであり、リプレイなどでは『レレレ』から学んだメタプレイを意識していることが散見できる。また『異界戦記カオスフレア』のデザイナーの小太刀右京も『レレレ』のメタプレイをシステム化している部分にデザイナーとして強い影響を受けていることを明言している。