アメリカ合衆国の教育
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[編集] 概要
アメリカでは学区と呼ばれる地域ごとに教育制度や学校制度が異なっている。とはいえ、10年間以上の初等教育・中等教育、また高等教育における準学位・学士・修士・博士という4段階の学位制度などは、どの地域にも共通である。特別支援教育をはじめとするオルタナティブ教育が盛んであり、公立校・私立校に加えてホームスクーリングも合法である。
アメリカの教育は、独自のプラグマティズム(実学)の伝統を有するとともに、ヨーロッパに由来する教養主義的なエリート教育の伝統も保持し続けてきた。また、個人主義の社会文化を反映して、基本的に個人の自主性を尊重する傾向があると言われる。研究において世界的に有名な総合大学も数多く、日本を含め世界中から多くの留学生を惹きつけている。
[編集] アメリカにおける教育の歴史
アメリカ最古の高等教育機関とされるハーバード・カレッジ(現在のハーバード大学)は、1636年に設立された。以後、東海岸には幾つかのリベラルアーツ・カレッジが誕生した。その後は、開拓とともに西部にも数多くの学校が作られるようになっていく。初期の学校はほぼ全て私立大学であったが、イギリスからの独立後は州立大学が作られるようになっていった。
[編集] アメリカの初等・中等教育
戦後の日本がアメリカの教育制度を模倣したため、アメリカの学校制度と日本の学校制度には比較的似た部分が多く、日本人にも分かりやすい。ただし日本との大きな違いは、就学年齢・高校卒業資格などが州によって異なり、また各学区の権限が非常に大きく、学区によって始業日・終業日・休校日・年間授業時間、中学校や高等学校の進級学年の区切り、カリキュラムの内容、飛び級などの方針が異なる点である。
アメリカでの学年の数え方は、小学校1年から12年まで、中学・高校になっても1年から数えなおさず順に数える。教育課程に日本の幼稚園(英 kindergarten)の年長組に当たる1年間を含めるのが一般的であるため、通常は初等・中等教育を称してK-12(幼稚園から12年生まで)と呼ぶ。
義務教育が始まる年齢は、州によって5歳から7歳と開きがある上に、学年の区切り日 (cut off date)が日本のような全国一律(4月1日)ではなく、ミズーリ州の8月1日からコネチカット州の1月1日[1]まで5ヶ月もの開きがある。
義務教育の年限は地域によって異なるが50州のうち、16歳までが30州、17歳までが9州、18歳までが11州となっている[2]。
[編集] 就学前教育
初等教育が始まる以前の就学前教育には、プリスクール・ナーサリースクール(preschool, nursery school)などと呼ばれる教育機関がある。-日本で言う幼稚園、保育所に相当する。日本の年中組にあたる学年は、幼稚園(キンダー)に入る手前の学年ということでプリ・キンダー (Pre-Kinder)とも呼ばれる。これらの就学前教育は3~5歳で始まり、1~2年間であることが多い。現在、プリ・キンダーには毎年約100万人が、幼稚園には約340万人の幼児が入園している[2]。
一方チャイルド・デイケアは、新生児・乳児から子どもだけでの留守番が許されない小学校6年生までの年齢を対象した用語である。就学前年齢に限っていえば、デイケアは託児所であり、学校環境に準じる形で教育を施すプリスクールやナーサリースクールとは異なる。
[編集] 初等教育
アメリカの初等教育は、原則として6歳から小学校(elementary school)において始まる。しかし、大部分の地域に小学校付属の幼稚園(半日または全日)があり、私立幼稚園も多い。とくに小学校併設の幼稚園の教育内容は「小学0年生」というべきものである。
毎年約370万人の児童が小学1年に入学している[2]。アメリカの小学校教育の初めの1~2年ぐらいまでを児童期教育(early childhood education)と呼ぶことがある。
初等教育は、幼稚園が義務教育で小学校が6年まで設置されている学区は7年間、幼稚園が義務でなく6年生から中学に進む学区では5年間、飛び級が許される場合は更に短くなる。9年生から高等学校に進む学区では、中学2年(8年生)までを初等教育とする場合もある。
[編集] 中等教育
前期中等教育機関は下級高等学校(junior high school)、あるいは中学校(middle school)と呼ばれる。
後期中等教育機関は、高等学校(high school)と呼ばれ、原則として単位制である点は日本と同様だが、日本の高校よりもさらに選択できる科目の幅が広いことが多い。
高等学校は大まかに次の4種類に分かれる[3]。
- 一般校(公立・私立)
- 職業訓練・専門学校(Vocational-technical school 略称 Vo-Tech)
- オルタナティブ校(Alternative high school。オルタナティブ校とは"at-risk" と呼ばれる、学力面・社会面で中退の危機にある生徒を対象にした高等学校。広義ではマグネット・スクール、ギフテッド教育校、特別支援学校など一般校の中で特別プログラムを持つものを指したり、Vo-Techと重複する場合もある。)
- プレップ校(Prep school。アイビー・リーグなどの名門大学入学を目的とした進学校。大多数が私立。)
高校を卒業すると高校卒業資格(the High School Diploma)が授与される。州が指定する義務教育完了年齢を過ぎれば中退してもかまわない。16歳以上の学生の中退率は11%に達している。中等教育に在籍中の全生徒の7%程度は中等教育課程を終了できないため、高校を卒業しないまま退学した者が後になってから勉強をし直すことで得られるGED資格(General Educational Development Certificate)も用意されている。これは、日本における高等学校卒業程度認定試験(高認、かつての大検)にあたるものに近い。毎年280万人が卒業資格を、50万人がGEDを得ている[2]。
[編集] 特別支援教育
アメリカでは約600万人の子どもが生活・学習上の障害を持つことから特別支援教育 (special education)を受けている[2]。特別支援教育においては、通常より長い20~21歳までが義務教育年限となっている。これに加えて、何らかの分野で秀でた才能を持つギフテッドと呼ばれる児童・生徒のうち約240万人がギフテッド教育の特殊プログラムに参加している。特別支援教育を受ける子どもすべてに、個別教育計画(Individualized Education Program 通称IEP)という個々人の障害に対応した自立のための長期教育計画書が作成される[2]。この計画書をもとに教職員、専門家、医師達がチームとなって取り組み、計画書どおりの教育を完了した児童・生徒・学生にも卒業資格が与えられる。
[編集] アメリカの高等教育
[編集] 大学
毎年、高校を卒業した者の約60%にあたる約180万人あまりの生徒が何らかの形で高等教育に進む。そのうち43%は準学士など短期の教育課程に入る[2]。
大学進学には、一般的な場合、日本のような入学試験ではなく、それまでの学校における各科目の成績の評定平均(Grade Point Average 略称 GPA)と学部入試の場合にはSAT(Scholastic Assessment Test 略称 SAT)の成績が参照されることが多い。
- 詳しくはアメリカにおける入学試験を参照。
アメリカの大学は次の四つに分類することが出来る
- 州立大学
- コミュニティカレッジ
- 私立のリベラルアーツカレッジ
- 私立の総合大学
アメリカには特殊な目的の国立の高等教育機関がある
[編集] 大学院
四年制大学を卒業した学生はすぐに大学院に進むというわけではない。就職してキャリアを積みながら、パート・タイムで大学院に通う者と、退職してフルタイムの学生として大学院に通う者が多い。
毎年、7万8500人が専門職学位を、43万人が修士、4万5900人が博士の学位を授与されている。専門分野による差はあるが、平均すると四年制大学で学士を得てから研究系の博士号学位取得までにかかる時間は7.3年とされている[2]。
[編集] アメリカにおける生涯教育
[編集] 脚注
- ^ Education Commission of the Sates. "Access to Kindergarten: Age Issues in State Statutes"(英文)
- ^ a b c d e f g h U.S. Department of Education, U.S. Network for Education Information (USNEI):Education in the USA > Structure of U.S. Education > Structure: General Information accessed on June 17, 2007 (英文)
- ^ w:en:High school 英語版ウィキペディア 2007年6月12日21:25UTC版