ひき逃げ
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ひき逃げ 、轢き逃げ(ひきにげ)とは、車両等の運行中に人身事故(人の死傷を伴う交通事故)があった際に、道路交通法第72条に定められた必要な措置を講ずることなく、事故現場から逃走する犯罪行為を指す。
ここでは、「ひき逃げ」の表記で記述する(轢という字は常用漢字外)。なお、人の死傷を伴わない事故(物損事故、他人のペットを死傷させた場合も含む)の場合は「当て逃げ」とされる。
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[編集] 道路交通法の規定
第72条1項では、「車両等の交通による人の死傷またはものの損壊(中略)があつたときは、当該車両等の運転者その他の乗務員(中略)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。」と規定されている。すなわち、これらの義務を怠ることから道路交通法(事故における負傷者救護義務)違反に問われる。
違反した場合現在では付加点数23点となるが,2002年5月末までは付加点数10点であった。
- 事故を起こした者は警察に連絡しなければならない、と一般的に受け止められているが、通報せず逃走した者を直ちに「ひき逃げ」として処罰することはできない。
- 自動車運転致死傷罪の犯人でもあるから、自首しなかった事を処罰する法律は憲法38条(不利な供述を強要されない)に違反してしまうからである。
- 殺意をもって人を殺した者がその場から自首せず逃走しても「逃げた」事そのものは処罰されない(できない)のと同じである。
- そこで道路交通法72条は、事故を起こした者について次のような義務を課している。
- 1.負傷者の救護義務・道路上の危険防止の措置義務(負傷者を安全な場所に移動する等)
- 2.道路交通法を所掌する行政官庁である「警察」に、事故・負傷者の状況や事故後の措置・周辺交通の状況を報告する義務
- 3.報告を受けた警察官が必要と認めて発した警察官が到着するまで現場に留まる命令に従う義務
- これらのうち最も罰則が重いのが、自分が関係した事故で目の前の負傷者を放置して立ち去った「1」の義務違反であって、運転者の責任の程度によって5年または10年以下の懲役となる(同法117条の2) 。 これが「ひき逃げ」と言われる犯罪である。
- 救護もしなければ当然犯す事になる「2」の報告義務違反の最高刑は懲役3月(同法119条10号)、「3」の現場に留まる義務に従わなかった者は最高5万円以下の罰金(同法120条11号の2)であって、これらは刑の上限としては速度違反(同法22条・罰則同法118条1号)より軽い。
- 被害者が即死した事が明らかな場合に「ひき逃げ」として処罰できないのは、自動車運転致死事件として発生した時点で救護義務が事実上なくなっているからである。
[編集] 罰則
罰則も道路交通法に規定されている。同法117条1項には「第72条第1項前段(事故時の救護義務を定めた規定)の規定に違反した時は、5年以下の懲役または50万円以下の罰金に処する」とされ、さらに同条2項には「前項の場合において、同項の人の死傷が当該運転者の運転に起因するものであるときは、10年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する」 と定められている。
実際にひき逃げが成立する場合、自動車運転過失致死傷罪(刑法第211条2項)も同時に成立するのが普通である。この罪と救護義務違反は併合罪となる。 また、運転者の飲酒が立証された場合、危険運転致死傷罪(刑法第208条の2)が成立することもありうる。
また、ひき逃げした人間に関し逡巡した上で放置した場合、不真正不作為犯として殺人罪(刑法第199条)もしくは殺人未遂罪(刑法第203条)に問われることもありうる(例:佐賀男児ひき逃げ放置事件)。
2001年の危険運転致死傷罪の導入など飲酒運転による事故への罰則が強化されているに対し、ひき逃げの罰則が比較的軽いままであるため、事故後に一度逃走して、酔いを覚ました後に出頭する、あるいは再度飲酒して事故前の飲酒の立証を防ぐといった「逃げ得」と呼ばれるケースが増えているとマスメディアなどでは報道されている[1]が、ひき逃げの急増は2000年から始まっているのに対して危険運転致死罪の実質的導入が2002年である事を考えると関連性には疑問が残る。
とはいえ、こうした動きに対応する形で、救護義務違反についてもひき逃げに対応して道交法117条2項が新設され、法定刑が加重されるに至っており、かなりの厳罰化が図られている。
もっとも、飲酒など危険運転をしておきながら逃亡して証拠を隠滅すれば罪が軽くなる場合がある[2]のは不合理であるとして、ひき逃げの更なる厳罰化を求める声もある。