M240 (機関銃)
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M240B |
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M240 | |
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種類 | 汎用機関銃 |
製造国 | アメリカ合衆国 |
設計・製造 | FN社 |
口径 | 7.62mm |
銃身長 | 627mm |
ライフリング | |
使用弾薬 | 7.62mm NATO弾 |
装弾数 | ベルト式 |
作動方式 | ガス利用 |
全長 | 1,245mm |
重量 | 12.5kg |
発射速度 | 650-950発/分 |
銃口初速 | 905m/s |
有効射程 | 3,725m |
M240は1970年代から使用され始め、アメリカ軍で広範にわたって使われている、7.62mm NATO弾を発射する、中量級の汎用機関銃である。基本的にはNATO加盟国軍が採用しているFN MAGをアメリカ軍向けに改修設計したもので、他の機関銃と違い、まず同軸機銃として採用され、後に歩兵用に採用されたという経緯を持っている。
アメリカ軍において、歩兵部隊、戦車の同軸機銃、車輌・ヘリ・舟艇への搭載用まで幅広く運用されている。中量級の機関銃としてはもっとも軽く、高い信頼性を持っている。また、結果的にNATO諸国との火器の標準化を果たしたこととなり、これらの点が高く評価されている。
目次 |
[編集] 概要
M240の制式名はシリーズ全体を識別するために割り振られている。しかし、この他にも特殊モデルや同軸機銃モデルが存在する。多数の派生形が運用に就いているが、大まかには次のように分類される。
- M240 - 1977年に陸軍が戦車の同軸機銃として採用した。このバージョンはFN MAGの改修型であり、それまでのM60E2やM219などの従来の同軸機銃(MG3やAA-52の同軸機銃バージョンも含む)を置き換えた。1980年代にはM1エイブラムス戦車の同軸機銃として採用された。
- M240E1 - 1980年代に海兵隊が装甲車搭載機銃として採用した。
- M240G - 1994年に海兵隊が採用し始めたバージョンで、歩兵が携行する他、車輌搭載用としても採用された。
- M240B - 1991年から陸軍が地上戦用として配備し始めたバージョン。反動吸収バッファと前部過熱ガード(熱シールド)を装備している。他の軽機関銃を置き換えるために採用された。
すべてのモデルは、射撃直後に自動分解する金属製ベルトリンクM13により7.62mm NATO弾(通常弾、曳光弾、徹甲弾など)を給弾する方式となっている。これらの派生形は全て機関部が共通となっており、重要パーツすら他のモデルやNATO加盟国のFN MAG(またはその派生形)と交換が可能になっている。これらのモデルとM240の主要な相違点は、重量と若干の特徴(反動吸収バッファなど)である。製造は、武器に関して長い歴史を持つFN社の、アメリカ子会社で行われている。
[編集] 歴史と設計
M240はアメリカ軍のための汎用機関銃として選ばれ、サウスカロライナ州コロンビアにあるFN Manufacturingで製造されている。異なる役割のために多数の派生形が運用されているが、特に戦車の同軸機銃として使われているM60が、減耗して使用できなくなり次第、順次M240に交換されていった。
M240はベルト給弾式・ガス直圧式・空冷式・ヘッドスペース固定式の機関銃である。用途により二脚、またはM122A1三脚で運用されるか、あるいは車輌の同軸機銃・搭載機銃、ヘリコプター用のドアガン、舟艇用の搭載機銃として使用される。しかしながら、未だにM60が車輌搭載機銃・ヘリコプター用ドアガンとして残っている。
前述の通り、1977年に陸軍により戦車の同軸機銃として初めて使用され、以来ゆるやかに1980年代から1990年代にかけて各種用途に採用されてきた。以後、陸軍と海兵隊の歩兵部隊のために汎用機関銃として採用され、これらの実績がさらに用途を広げることとなった。どのような用途に対しても、機関部の基本的な機構は同一であるため、従来の各種機関銃、特にM60に比べてメンテナンスや部品交換に融通が利くこともこの傾向を後押しした。M240はM60よりはるかに複雑なガス反動システムを持つが、より少ないメンテナンス間隔でより高い信頼性を確保している。
他の機関銃と比較して重いこともあり、動作不良発生平均間隔弾数 MRBF (Mean Rounds Between Failure) が26,000発と、古い設計の重機関銃と同程度の信頼性があると実証されている。
M240とM60、およびいくつかのM249 MINIMIは、開発中の新軽機関銃 (JSSAP/PMSW) に置き換えられる予定である。同様にFN社の製品であるSOCOM用途の新7.62mm機関銃 Mk 48 Mod 0(M249を大口径にして全体を小型にした派生形、en)は、2006年から特殊部隊で採用され始めている。
[編集] 初期の歴史
[編集] 試験と派生
M240の採用にあたっては、1960年代後期から1970年代初期にわたって検討された7.62mm同軸機銃(およびM85 50口径 (12.7mm) 同軸機銃)更新プロジェクトが発端となっている。この計画は1980年代から運用する同軸機銃を選定することが主目的であったが、同時に歩兵用途・車輌搭載用途としても転用できるように考慮したものであった。さらに1990年代から2000年代にかけて、別の用途にも応用できるように見越してあった。
この計画が進行している間、1970年代に陸軍は装甲車・車輌搭載用の新しい7.62mm機関銃を探していた。1950年代のM73はトラブルが多く、これを元に開発されたM73E1・M219(注:MINIMIはM249)は大して改善されなかった。このため、他国のいくつかの機関銃を採用することも検討され、最終的にはM60E2とFN MAGに絞られた。M219を含め、これらは大規模な射撃試験にかけられた。
採用経緯から、特に二つの重要な要因が重点的に試験された。
- 射撃停止発生平均間隔弾数 MRBS (Mean Rounds Between Stoppages、数分以内に解決するジャム)
- 動作不良発生平均間隔弾数 MRBF (Mean Rounds Between Failure、例えば部品の破損)
この試験の評価結果は下記の通り。
形式 | 発射弾数 | MRBS | MRBF |
---|---|---|---|
FN MAG 58 | 50,000 | 2,962 | 6,442 |
M60E2 | 50,000 | 846 | 1,669 |
M219 | 19,000 | 215 | 1,090 |
基準最低値 | 850 | 2,675 | |
要求最低値 | 1,750 | 5,500 |
注意すべき点は、このリザルトは1970年代に製造されたものの試験結果であるということである。M240自体もFN MAGに対して幾分かの改良を施され、M60E2も同軸機銃版に特化された。M60の性能は派生形により異なり、改良された派生形、例えばM60E4やM60Cでは結果が異なることが予想される。
テストの結果、FN MAGのみが完全に要求を満たし、満足できる結果を出して陸軍のコンペに勝利し、1977年に「M240」と制式化された。1980年代の間に同軸機銃と車輌搭載用機銃を置き換えた。後に歩兵部隊用にM240B・M240Gとして採用された。1991年から陸軍の作戦で運用され、また海兵隊においては摩耗したM60E3を置き換えるために配備された。ただし、必ずしもM60のすべての用途をM240が置き換えるという訳ではない。
[編集] 派生形
M240の元となった7.62mm NATO弾使用のFN MAGは、MAG 58などの異名を持つ。アメリカで製造されたM240とその派生形はMAG 58と基本的に同じ性能を持ち、内部機構も同一であるため、NATO加盟国間で消耗品や交換部品を相互に使うことができる。これは、訓練・兵站・戦術的な融通・共同作戦を行うにあたって重要な利点となる。例えば、車輌が攻撃を受けるか行動不能に陥り、車輌を放棄せざるを得なくなった場合、持ち運んで使用することができるように、車輌にM240Bの予備の銃床と二脚を搭載しておくといったことが可能となる。
[編集] M240
1977年に基本型として陸軍により採用された同軸機銃で、1980年代を通してM73・M219 7.62mm同軸機銃とM85 12.7mm同軸機銃を置き換えた。海兵隊はまずM240やM240E1をLAV-25装甲車の同軸機銃として搭載した。同軸機銃・搭載機銃用の派生モデルにM240Cがある。
[編集] M240E4 / M240B
M240Bは陸軍における標準的な中量級機関銃であり、地上戦に使用される。しばしば「240ブラボー 240 Bravo」と呼ばれる。
旧式のM60を置き換えるため、1991年に行われた陸軍の新歩兵部隊用機関銃コンペにおいて、M60E4 (海軍名 Mk 43) と競い、1991年にM240Bとして制式採用された。このことは、1,000挺近い既存のM240基本型を、オーバーホールを行った上で地上戦用改修キット(銃床、ピカティニー・レール含む)を取り付けるためにFN社に送ることに結びついた。このことは、1990年後半に新しいM240Bを調達する契約に結びついた。ただし、後期に調達されたものは、M60にも採り入れ居られた油圧式反動バッファの取り付けが行われている。M240Bは信頼性においてM60を凌駕したが、M60E4よりも2.5kg重いため、前述の通り新しい軽量機関銃が計画されている。陸軍のM240からM240Bへの改修と、海兵隊の多数のM240/M240E1からM240Gへの改修とは混同されやすいが、別のものである。
[編集] M240C
M240Cは、M240同軸機銃を逆側(左側)から給弾するようにしたバージョン。
[編集] M240E1 / M240D
M240Dは2通りの使用法を想定している。航空機搭載用と車載機銃用である。航空機版に用意されたM240Dは、前部照準と後部照準、引き金まわりがスペードグリップ仕様(銃床の代わりにハンドルと引き金が付いている)になっている。車載機銃版は「歩兵携行キット Infantry modification kit」が用意され、車輌が行動不能になった際に、機銃を取り下ろしキットを装着することで携行し、脱出時・緊急時の火力を上げられるように設計されている。
M240DそのものはM240E1の改修版で、主に機関部カバーへのピカティニー・レールの取り付けが特徴になっている。M240DとM240E1はスペードグリップにより、柔軟な運用ができる。
[編集] M240G
M240Gはは、海兵隊が採用したM240の派生形の一つであり、しばしば"240 Golf"と呼ばれる。海兵隊ではM60E3をM240Gで置き換えている。海兵隊でのM240Gの運用は、歩兵用、車載用、ヘリ搭載用と幅広い。
M240G自体は、車載機銃として最初に採用されたオリジナルのM240 / M240E1同軸機銃と同一設計である。M240G付属の「歩兵携行キット」は、フラッシュハイダー、前部照準、銃身用キャリングハンドル、銃床、歩兵型ピストルグリップ、二脚、後部照準ASSY)からなる。これらを全て装着しても、M240Bよりも1kgほど軽くなる。
- 製造者:FNマニュファクチュアリング(FN社のアメリカ子会社)
- 全長:1246.6mm
- 重量:11.6kg
- 口径:7.62mm
- 最大有効射程:1,800m(三脚使用時)
- 最大射程:3,725m
- 発射速度:
- 間欠的:650-950発/分(調整可能)
- 急速射撃:200発/分
- 持続射撃:100発/分
- 調達価格:6,600ドル
[編集] M240E5 / M240H
M240HはM240Dの改修型であり、しばしば"240 Hotel"と呼ばれる。機関部にピカティニー・レールを取り付け、また予めフラッシュハイダーが取り付けられ、歩兵携行キットの取り付けが簡単になっている。
[編集] M240E6
M240E6は現在テスト中の次世代バージョンである。基本的な歩兵用モデルのうち、特に問題になっている重さの問題を解決するために、機関部にチタン合金を使用して軽量化を図っている。
[編集] 操作方法
[編集] 発射手順
発射可能にするには、まず装填ハンドルを手前に引いて遊底(ボルト)を後部に固定し、武器を安全な場所に置いた後で装填ハンドルを前に押し出す。その後で給弾カバーを開き、給弾トレイに弾薬ベルトを載せる。給弾カバーを閉じれば発射可能となる。
射撃が終わったあと、携行のため武器をクリアにするためには、遊底を後部に固定し、武器を安全な場所に置く。給弾カバーを開け、もし給弾ベルトが残っていれば給弾トレイから外し、弾薬が薬室に残っていないかどうか、給弾トレイと遊底の前面を目視で確認する。トレイ上に給弾リンクや空薬莢が残っていれば撤去する。
もし不幸にも遊底の先端に実包が見えた場合は、清掃用ロッドか堅いものでゆっくり叩きながら実包を取り外す。もし薬室に実包が残っている場合、かつ、銃身が加熱している場合には、射手はすぐに銃から離れ、実包を取り出すことができるかどうか検討しなければならない。銃身がじゅうぶんに冷えるのを待ってから実包を取り外す。この手順を省いた場合、給弾カバーを開けたまま銃身を交換しようとすれば、弾薬がすぐに撃発する原因となり得る。
実包を取り除き安全にしたあと、一度引き金を引いてから、装填ハンドルを手前に引く。これで、この武器は安全な状態となる。
これらの手順は、確認漏れの場合などに実弾発射の原因となるので、銃身が安全な方向を向いている状態で作業しなければならない。
[編集] 発射速度の変更
発射速度は3段階に調整できる。初期設定では750発/分となっている。他の二つの設定は100発/分と、850-950発/分である。これらの設定は、まず銃身を取り外し、ガス調整弁を取り外し、レギュレータを回すことで変更可能である。作戦中に設定を変更することは望ましくないので、作戦実行前に調整すべきである。
[編集] 銃身の交換方法
銃身は非常に素早く交換できる。武器の左側に銃身交換ボタンがある。武器をクリアにした後、交換ボタンを押す。銃身は機関部から外れ、中程から右側に動く。ここでボタンを離し、機関部から外れた銃身を、キャリングハンドルを使って手前に引き抜く(キャリングハンドルは銃身に直接付いている)。次に新しい銃身を差し込んで機関部にセットし、キャリングハンドルを右に倒して定位置にロックする。
発砲が長時間に及んだ場合、むき出しの皮膚と銃身が触れないように気をつけなければならない。銃身は熱くないように見えても、第二度のやけどを起こすのに十分な熱をもっていることがある。このような銃身は、暗視装置で見た場合に誰にでも明るく輝いて見える。
[編集] 実戦報告
2002年4月にナティック兵士センター Natick Soldier Center は、アフガニスタンでのアナコンダ作戦(en)でM240Bを使用した兵士から聴き取った結果を、次のように報告している。
実戦から得られたM240Bの戦訓:
- 17%の兵士が、装備していたM240Bで敵と交戦した。
- 42%の兵士は、アフガニスタンにおける部品調達(交換用銃身、ばね、小さいロールピン、T&Eピン、熱シールド、減耗したピン、予備銃身バッグ、清掃キット)が困難であるという問題を報告した。
- 1名の兵士は戦闘中に二重給弾が発生したと報告した。
- 50%の兵士は、弾薬を運ぶより良い方法(弾薬バッグなど)が必要であると報告した。
- 100%の兵士は、彼らの武器に自信を持っていた。
- 82%の兵士は、M240Bが信頼できる武器であると感じていた。
- 提案事項:スリング(吊りひも)の改善、軽量化、より耐久性の高い三脚と熱シールドが必要。