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JR羽越本線脱線事故 - Wikipedia

JR羽越本線脱線事故

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

JR羽越本線脱線事故(-うえつほんせんだっせんじこ)は、2005年(平成17年)12月25日羽越本線北余目駅砂越駅間で発生した列車脱線事故である。

目次

[編集] 事故概要

事故車両と同型車両(485系3000番台「いなほ」)
事故車両と同型車両(485系3000番台「いなほ」)

2005年(平成17年)12月25日19時14分頃、山形県庄内町榎木のJR羽越本線北余目駅砂越駅間の第2最上川橋梁付近において、秋田新潟行きの上り特急「いなほ14号」(列車番号:2014M-485系3000番台6両編成・新潟車両センター所属R24編成)が、橋梁通過直後に最も軽量であった2両目から脱線を始めて最終的に全車両が脱線、うち3両が転覆し、先頭車両が線路脇の養豚場の飼料小屋に激突し大破した。脱線時の運転速度は、運転士の証言等から約100km/hと見られている。

この事故により先頭車両に乗っていた5人が死亡、32人が重軽傷を負った。なお、乗客の目撃情報から秋田県内在住の母子2名が車内に閉じ込められたままだと報道されていたが、事故発生前に下車しており、無事だったことが数日後に判明している。

事故の発生した2005年12月の山形県庄内地方では例年と比べても激しい吹雪が連日続いており、事故当時も暴風雪・波浪警報が発令されていた(ウィキニュースの記事)。事故の直接の原因は突風だとされ(現場周辺住民からも「今まで体験したことがないようなものだった」との証言が出ている)、周辺の防砂林のクロマツが倒れていることや目撃情報などから、原因は局地的に発生したダウンバーストあるいは竜巻に煽られ転覆した可能性があるといわれた。事故当日、最上川河口南方から事故現場までの一直線上で、ビニールハウスの倒壊や、国道7号沿いの防雪柵に取り付けられていた重さ105kgの鉄板が飛ばされコンビニエンスストアの軒を破壊するなどの大きな被害が発生していたことが確認されている。

事故後、山形県警察東京都内の大学研究室に依頼した風洞実験の結果、当該列車は風速40m以上の突風に襲われたと推定される。しかし、事故当日の気象庁酒田測候所が観測した最大瞬間風速は21.6m、現場近くのJRが設置した風速計の数値も20m程度と、極狭い範囲を移動した突風に対して、管理側で異常を検知することは出来なかった。

[編集] 事故の背景と責任

事故の原因については航空・鉄道事故調査委員会によって調査が続けられ2008年4月2日正式な見解が発表された。脱線原因として瞬間風速40メートル程度の局所的な突風で車両が傾いたと結論づけた。そして、予見はほぼ不可能であり、事故は不可避な事故とした。そして、今後の対策として気象庁や鉄道事業者や行政等の連携や観測網の強化などで実効性のある対策が必要との所見を述べた。当該HPの鉄道事故報告内に当該事故正式報告書を参照 このほかに当時の状況や関係者の証言などから、以下の点について議論されている。

[編集] 運転士の過失の有無

この列車には、運転士(当時29歳)と車掌(当時26歳)の2名が乗務していた。事故発生当日、事故列車は秋田駅発車の時点で1時間1分の遅延を生じていたが、途中風の強い区間では運転指令員の指示に従い25km/hで進行するなど、安全確保のための措置をとっていた。その結果、事故直前の酒田駅発車時点では1時間8分の遅れを生じていた。事故発生時も、運転士は自らの判断により通常120km/hで走行するところを、100~105km/hに減速して運転していたことが、事故後の調査で判明している。無理な定時運転の敢行など、安全性を無視した無謀運転を行った形跡はなかった。

事故発生後、運転士は、すぐさま列車無線新潟支社輸送指令に脱線事故の発生と救助の要請を行い、車掌と2人で消防の到着まで救助作業を行った。消防隊員が到着した時、重傷を負いながらも、「私より先にお客様の救助をお願いします」と言って、救助作業を続けたという。


[編集] 運行管理体制と設備の問題

東北地方日本海沿岸地域は冬になると頻繁に暴風雪警報が発令されており、当時も暴風雪・波浪警報が発令され、大規模な寒冷前線と通称「爆弾低気圧」発生が予測されていた。リアルタイムの気象レーダーには寒冷前線前縁付近に集中して通常の冬季積乱雲の2倍以上の高度に達する大規模な積乱雲が事故現場に掛かるのが観測されており、激しい雷を伴った暴風雪だったが、この情報が鉄道側では全く利用されていなかった。

警報発令下でも極力生活路線を維持せねばならない事情があるとはいえ、運転見合わせ等の措置を講じずに運行を継続した点においては、JR側に一定の責任を問う事も道義的には可能と考える余地もある。また、気象情報活用法の具体的研究の必要があると思われ、気象庁もとりあえず「気象情報の共有」をJR東日本に対して提案しているが、事故時点では気象情報もそれに基づく減速・抑止規準も無かった。

事故前日の12月24日にも秋田支社管内で、輸送指令の運行判断の誤りによるものとみられる運行事故が発生していたことが、事故に遭遇した乗客によってインターネット掲示板に書き込まれている。トンネル出口に雪だまりが発生していることが輸送指令に伝わらず、先行の特急が問題なく通過したとして運行を指令し、その結果、列車がトンネル出口で立ち往生してしまったという。輸送指令が判断した先行の特急は、前日に途中で運転を打ち切っており、該当区間を運転していなかった。この事実を知っていた当該列車の運転士は、対向列車の運転士から「雪だまりがある」との情報を聞き、トンネル出口手前で減速していたため、脱線等の事態を免れた。

また事故の現場となった「第2最上川橋梁」付近では、余部鉄橋列車転落事故で問題となったパドル型風車利用の風速計(風が水平方向から大きく傾いた場合、正確な風速を計測できなくなる)を使用していた。

加えて、従来は、駅長の目測で風速20m以上と認められる場合に、輸送指令員に報告する義務規定があったが、風速計と自動防災システムなどの整備を理由として2002年3月に廃止されている。

余部鉄橋列車転落事故は、「警報装置が作動していたにもかかわらず運転を続行した」として、1994年に発生した根室本線の列車転覆事故は、「警報装置の故障を放置したため、異常を検知できなかった」としてそれぞれ立件されたが、1994年に発生した三陸鉄道の列車転覆事故は、「突発的な暴風で、列車が転覆するほどの突風の予測は困難であった」として起訴猶予処分になっている。

なお2007年現在、事故の補償交渉は順調に進められており、既に数人の事故被害者について、補償内容で合意が成立している。

[編集] 救援活動

事故後の次のような救助活動により、多くの人命が救われた。

[編集] 山形県立日本海病院の対処

この事故では、山形県酒田市山形県立日本海病院の対処が早かった。

日本海病院では、この年の12月3日有事を想定した対処訓練を行ったばかりであり、この訓練が、半月後に発生した「実戦」で役に立った。日本海病院は事故発生の一報を受けると、速やかに救急医療センター副センター長と看護師からなる医療チームを事故現場に派遣した。21時前に現場に到着すると、レスキュー隊とともに、一人がやっと入れるほどの狭い救助現場に入り、要救助者に対して点滴の投与などの治療を行い、レスキュー隊に対し医学的なアドバイスを行った。これにより、クラッシュ症候群などを防ぐことが出来、死者の増加及び救助者の後遺症を食い止めることが出来た。日本海病院内でも、全医師を緊急招集し、救助者が到着するまでの間に首提げのタグ(名前・症状・加療の状況などを一覧できるボード)を大量に用意するなど、初動は迅速であった。

庄内余目病院など、救助者が搬送された他の病院においても、救急救命士など救急隊員と病院との話し合い・研修が他の地域に比べて盛んに行われており、救急隊員と医師との連携も密になっていた。

[編集] レスキュー体制

事故発生直後から、地元の酒田地区消防組合を主として山形県内の庄内地方最上地方村山地方消防本部特別救助隊などで編成される山形県消防広域応援隊や山形県警察広域緊急援助隊が出動し、横殴りの地吹雪の中、不眠不休で救助活動に当たった。翌26日午後からは山形県消防広域応援隊として山形県置賜地方消防本部特別救助隊山形県消防防災航空隊も参加し、緊急消防援助隊は出動しなかったが山形県の全14の消防本部から山形県消防広域応援隊として救助隊などが応援出動し山形県全域からなるレスキュー体制が実現した。また、東北唯一の救助機動部隊である宮城県警察広域緊急援助隊特別救助班(P-Rex)も出動し、困難な車両台車部での救助作業が28日以降に同特別救助班と特別救助隊が協力し行われた。

[編集] その他

乗客として乗り合わせた新潟県見附市消防本部の消防士や、JR東日本新潟支社の社員が、自らが腰や背骨に全治数か月にもなる重傷を負いながらも救助活動を行い、動けない人に声を掛けて励ましていた。

[編集] 事故発生時のメディアの対応

  • キー局
  • 新潟県
    • 新潟総合テレビ - 19:20頃「新潟行き特急列車が脱線したもよう」とのテロップを表示。その数十分後「新潟行き特急列車が脱線。負傷者人数は不明。」とテロップを表示。詳細をNSTニュースで放送。
    • テレビ新潟 - 事件発生翌日、事故現場へアナウンサーを数名派遣。地元テレビ局山形放送と連携して事故の詳細を伝え大きな反響を得た。
  • 秋田県
    • 秋田放送 - 19:20頃「羽越線で特急いなほが橋梁上で横転」とのテロップを表示。その数十分後「羽越線で新潟行き特急いなほ14号が脱線、横転。負傷者人数は不明。」とテロップを表示。詳細をさきがけABSニュースで放送。

[編集] 復旧活動や余波、その後の対策

この事故により酒田~鶴岡間が不通になった。この区間は日本海縦貫線の一部を構成しているため、寝台特急「あけぼの」、「日本海」、「トワイライトエクスプレス」が全区間運休。貨物列車も一部区間運休や東北本線東海道本線経由に輸送ルートが変更になるなどし、全国的に大きな影響が出た。昼行特急列車、普通列車も一部区間でバス代行輸送を行い、陸羽西線直通の列車は同線内のみの運転になった。

現場周辺の暴風雪により、被害者の捜索や事故車両の撤去は年を越した2006年1月1日まで掛かった。事故発生以来鶴岡~酒田間が不通となっていたが、その後復旧工事が完了し、1月21日大学入試センター試験にも配慮して1月19日より運行が再開された。事故現場付近は45km/h以下での徐行運転が続けられていたが、2006年11月30日に事故現場の前後2.3km区間に亘る恒久的な防風柵の設置工事が完了。現在は平常運転に戻っている。

気象庁では、この事故をきっかけに、一般の気象レーダーを改造する形でドップラー・レーダーの整備計画を推進している。成田国際空港など全国8空港と千葉県柏市のみに設置されていたドップラー・レーダーの運用を、2006年12月に新潟地方気象台で開始し、2007年2月には、仙台地方気象台、名古屋地方気象台でも運用を開始する予定である。今後数年をかけて全国の気象台にドップラー・レーダーを設置し、一般の気象予報にも活用する計画だ。2006年に宮崎県延岡市北海道佐呂間町で発生した竜巻被害を受けて、この整備計画をさらに前倒しするとも言われている。

この事故を受けてJR東日本は、平成18年(2006年2月1日JR東日本研究開発センター内に「防災研究所」を設立、次いで平成19年(2007年1月29日には余目駅屋上に1億円をかけてJRグループでは初めて(鉄道事業者としても初)のドップラー・レーダー(探知可能距離約30km)を設置し、2007年3月より使用を開始している。この事故の対策としてJR東日本が計上した対策費は、防風柵・ドップラー・レーダーの設置工事を含め100億円を越える。

また、この事故が突風によって引き起こされたことから、気象庁気象研究所はJR東日本、鉄道総合技術研究所等と共同して平成19年(2007年)7月より3年計画で事故現場周辺の庄内地域において、突風探知システムの開発へ向けた観測を行っている。この研究は、上記余目駅のドップラー・レーダーや庄内空港のドップラー・レーダー、25箇所程度の地上気象観測点等から得られたデータを解析及びシミュレーションして突風が発生する詳細なメカニズムを解明し、現在は不可能な突風探知の実現を目指すと共に、将来的には突風探知システムとして実用化することにより鉄道の安全運行に寄与することを目的としている。平成19年(2007年)12月には、酒田市内や酒田市沖合いの日本海上において、突風の原因となる雲の渦が発生してから消滅するまでの移動経路や大きさ、風速変化について連続して精密に観測することに成功した。

事故車両については大破しているものの捜査資料として警察から証拠物件の保全命令が出されていたが、捜査の終了により全車2007年3月31日付で廃車となった。 なお車両補充のため、青森車両センターから新潟車両センターへ2006年度中に同型車4両が転属している。

JR東日本では、同社の公式サイト (www.jreast.co.jp) のトップページにおいて、事件から2年半以上経過した2008年になっても、引き続き「お詫び」や「対策実施状況」を示している。

[編集] 関連項目

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