Hearts of Iron
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Hearts of Iron(HoI)はスウェーデンのパラドックスインタラクティブが発売している歴史シミュレーションゲームのシリーズ。
続編にHearts of Iron II(HoI2)があり、続編にはDoomsday、Doomsday-Armageddonの二つの拡張パックがある。日本ではサイバーフロントより発売されている。
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[編集] 解説
Hearts of Ironは第二次世界大戦をテーマとしており、1936年から1947年(DDでは1953年、DDAでは最長1964年)までの期間で、プレイヤーは当時存在していた国(独立勢力)の中の一つを選んでプレイすることになる。基本的には枢軸・連合・共産の3つの陣営のいずれかに参加して大戦に参加することになるが、そういったことに囚われないプレイも可能である。Europa Universalis(EU)シリーズと同じゲームエンジンを採用しており、同様に歴史的な出来事を歴史イベントという形で再現している。
ゲームシステムは1時間ごとに進んでいくリアルタイムストラテジーで、2700以上のプロヴィンス(≒地域または州)・海域に分けられた世界地図上で全世界同時解決される。
ゲーム規模は戦略級であり、師団、飛行隊相当等のユニットが戦闘の最小単位となっている[1]。作戦の指示は、複数または一つのユニットからなる軍団・軍、艦隊、航空団相当の部隊に対して行う。
[編集] PARADOX社製の他のシリーズと比べての特徴
第二次世界大戦という歴史的には短い期間がテーマとなるため、EUやVictoria等の他のシリーズと比べて、戦争・戦闘に特化したシステムとなっている。戦闘システムの複雑化(開始時刻を指定しての集中攻撃や戦略爆撃によるインフラ破壊など)に加え、たとえば、HoIでは勝利ポイント(VP)と呼ばれるポイントのあるプロヴィンスだけを占領すれば国の併合が行える(他作品では国(特に大国)の併合には非常に手間がかかる)ようになっており、戦争のペースが加速されている。また占領中の領土からも工業力や資源を取得できるようになっており、ゲームのほぼ全期間中戦争が続く状態に配慮されている。
また、当時の国家総力戦の時代背景にしたがい、Industrial Capacity(工業力、IC)と資源の確保が内政の中心的課題となっている。ユニットの生産や改良は全てICを振り分けて行うようになっており、本ゲーム内では工業力=国力といっても過言ではない。そのため、他作品と比べて大国と中堅国・弱小国の差がきわめて激しい。
[編集] プレイ可能国
Hearts of Iron 2では、175ヶ国以上の中から1国を選んでプレイすることができる、と謳われているが、これには第二次世界大戦当時に他国の領土であった国家・地域(ほとんどのアジア・アフリカ諸国・ケベック・イスラエル等のように史実では独立していない地域)も含む。これらの国をプレイするためには、特殊な手順(一旦領土を領有している国を選んで国家を独立させてから選びなおす、侵略によって該当地域を占領し国家を独立させる、MODを製作してプレイできるようにする、など)を踏まなければならない。
そのため、普通にプレイしていると滅多に見る事のない国家も多数存在する。また、史実重視であるため、国家を取り巻く状況の再現(グランドキャンペーン開始時に既にイタリアと戦争状態にありすぐに滅亡してしまうエチオピアや、ドイツに蹂躙される事が決定済のルクセンブルク、国家政策上戦争に参加できないスウェーデン・トルコ、周りを強大な味方に取囲まれて身動きが取れないタンヌ・トゥーバ等)が極めて厳しい国家も多く、プレイヤーによる操作でも状況を覆す事が不可能な国もある。
こうした事から、普段実際にプレイされる国家はこれよりも大分少ないが、逆に、このような国で最後まで生き残ることを目的としたプレイの仕方もある。
[編集] イデオロギー対立
Hearts of Ironでは、第二次世界大戦のイデオロギーの対立という側面を重視してゲームデザインされており、国家の政体はファシズム(=右派・独裁)、民主主義、共産主義(=左派・独裁)の3つに大分類され、それぞれ枢軸・連合・共産の3つの陣営に対応している。
Hearts of Iron 1では右図を三角形に切り取った図が政体の定義に使われており、「政治干渉」コマンドで自国の政体に対象国を近づけ、同盟に誘う等のプレイがおこなえる。
Hearts of Iron 2では、国ごとの政体は「左派・右派」と「民主・独裁」のそれぞれ10段階の組み合わせで決まる。民主度の高い国では、極右もしくは極左に振れないかぎり独裁政体にはならない。また、閣僚候補となる政治家・軍人にも政体が設定されており、国家の政体と近ければ閣僚として登用できる。第二次世界大戦当時は権威主義的な国家が多く存在したが、ゲーム上は権威主義をファシズムの一種としているため、その多くは「権威主義者[2]」政体のファシズム国家として登場する。「権威主義者」とドイツの政体である「国家社会主義者」はパラメータ上は近いが、内部データによりドイツに接近しない行動を取るように設定されている国家も多い。
独裁度が高くなると、左右にわずかに振れただけで民主政体と独裁政体とが交代する。極端な場合は、ファシズムの政体と共産主義の政体とが交代してしまう事もある。これらのパラメータはイベントや、傀儡政権の樹立で強制変更される場合を除いては、年に一度の内政設定でしか変更できないため、国ごとの性格づけはゲームを通じてあまり変わらない(無理に変えようとするとその他の内政設定の機会を無駄遣いすることになる)。
[編集] 同盟
Hearts of Ironではプレイヤーは国を一つ担当するが、戦争自体は同盟間で行われる。同盟を結んだ国のいずれかが、宣戦布告した、またはされた場合は他の同盟国も参戦する(EUシリーズやVictoria等の同じ開発元の他のシリーズと異なり、戦争ごとに参戦するかしないかを選択することはできない)。また、同盟の盟主が講和条約を締結した場合、加盟国全てがその内容に拘束される。同盟を結ばずに片務の独立保障を宣言することもできる。こちらであれば参戦を選択でき、和平交渉も単独で行える。同盟はゲームの主役となる三大同盟と、それ以外の小同盟に分けられる。以下に主な登場勢力を紹介するが、これ以外にも史実に基いた外交関係が設定されており、独自の同盟関係も築けるため、多種多様なプレイが行える。
- 枢軸
- 三大同盟の一つ。ファシズム国家による同盟で、盟主はドイツ。最初はドイツのみだが、イベントで同盟国が増えていく。日本は通常のシナリオ進行では同盟に参加せず、イベントでのみ枢軸国として扱われる。これは史実の三国同盟が防御同盟であり、同盟関係を攻守同盟で表すHearts of Ironのシステムでは再現が出来ないためである。
- 連合
- 三大同盟の一つ。民主主義国家による同盟で、盟主はイギリス。最初は英連邦およびフランスのみだが、戦局の拡大とともに加入国が増えていく。民主政体の国は世論や政策の影響で、同盟や宣戦に制約がつくため対応が後手に回りやすい。また、英仏はシナリオスタート時は平時における工業力マイナス補正がかけられているため、戦争準備を整える余裕が少ないことも特徴である。共産主義陣営を独立した同盟として扱うため、ソ連は同盟に入らない。
- 共産
- 三大同盟の一つ。共産主義国家による同盟で、盟主はソビエト連邦。Hearts of Iron II Doomsdayでは、枢軸消滅後にアメリカ合衆国と第三次世界大戦を戦う核戦争シナリオ "Doomsday" がある。
- アメリカ合衆国
- リベリア・フィリピン自治領を傀儡としている。ゲーム序盤では史実どおりに孤立主義をとっており、大戦には参加してこない。シナリオが進むにつれて、外交の制約が少なくなり、単独でまたは連合に加盟して参戦する。圧倒的な工業力を持つうえ、石油を含めた全資源を自給自足可能であるため、ゲーム中最強の国家となっている。
- 日本
- 満州国を傀儡かつ同盟国としている。アメリカとは対照的な典型的資源不足国家になっており、資源の自給を達成するためには他の資源地帯を獲得しなければならない立場に置かれている。通常のシナリオ進行では、中国の各勢力と泥沼の戦争を行っていき、蒙古国の樹立などを行い[3]、そして、史実と同様に太平洋が荒れる冬の季節に米英蘭と開戦し、戦局を大きく変貌させることになる。
- 中国
- 史実の中国がそうであったように、ゲーム序盤から政治情勢が混迷極まっている。中国大陸の雄であった国民党、国民党と開始時から戦争状態にある中国共産党、当時国民党の統制下から半離脱状態にあった各軍閥(閻錫山の山西軍閥、李宗仁の広西軍閥、馬鴻逵の西北三馬、竜雲の雲南軍閥、盛世才の新疆軍閥)がある。また、ダライ・ラマを元首とするチベットも独立勢力となっている。
- ゲーム開始時(1936年)は泥沼の内戦状態にあり、基本的には日本の侵略が進むにつれ一致団結(強制的に同盟を結ばされる)し抗日戦線を結成するようになるが、国民党と敵対する勢力を形作る軍閥が現れる(日本と同盟を結ぶ事も可能)など、展開次第で様々な勢力図が生まれる可能性を秘める。尚、各中国勢は『兄弟国』の設定が為されており、併合した他勢力の資源や、戦闘中に殲滅されなかった軍事力を取り込む事が可能となっている。但し、中国全土を中核州とするのは中国共産党と中国国民党のみであり、その他軍閥が史実のような中国統一を成し遂げるのは極めて難しい。
- 共産同盟とも展開次第では戦う可能性(ソヴィエト連邦が満州を占領している、など)があり、この場合も各勢力による抗ソ戦線が構築される。
[編集] 勝利条件
自国の所属する同盟の勝利ポイント(VP)を、ゲーム期間終了時に一位にすることである。勝利ポイントは、支配しているプロヴィンスに設定されている値の合計であり、それ以外の方法では手に入らない。自由度が高いゲームであることから、独自の目標を設定してプレイするプレイヤーも多い。
[編集] 好戦性
好戦性とは国際社会での評判をあらわす国家のパラメータである。高いほど挑発的とみなされ、国家間の友好関係に悪影響を与える(EUシリーズやVictoria等でBBRとよばれていたものとほぼ同じものである)。大義名分のない宣戦布告を行ったり、敵国を併合すると大きく上昇する。これが高い国への宣戦布告は、低い国よりも各種ペナルティが少なくなる。民主主義国は通常、対象国の好戦性が高くないと宣戦布告できない。必要な好戦性の値は、内政の民主主義と介入主義の設定値により異なる。
ゲーム中、ドイツの国家元首のヒトラーは戦時に自国の好戦性を上げ、平和時に自国の好戦性を下げる能力が与えられており、これによりアメリカの参戦をゲーム上で表す事に成功している。
[編集] 本国プロヴィンス(中核州)
本国プロヴィンス(中核州)は、国家の固有の領土で住民が敵対的でない地域として定義されており、史実の政治情勢を基に設定されている。国家が領土の資源を100%利用できるのは本国プロヴィンスだけである。それ以外のプロヴィンスは資源の産出量が少なく工場の稼動効率が悪く、守備隊を置かないとパルチザンが発生する。これは住民が協力的でないことを表現している。そのため、HoIでは領土の拡大は見た目ほどにメリットがない。
他国が自国の本国プロヴィンスを領有している場合は、宣戦布告の大義名分とすることができる。首尾よくこの戦争で勝利し、領土を奪還できれば大幅な国力増加が見込める。ゲーム的にも本国プロヴィンスを全て回収することは、わかりやすい目標となっている。とくに中国共産党は最初は弱小勢力であるが、現在の中国の支配地域ほぼ全域が本国プロヴィンスとなっていて非常にやりがいのある国の一つとなっている。
[編集] 新国家の独立
その時点で存在していない国家の最小独立範囲となる地域(=本国プロヴィンスの一部)を支配していれば、新国家として独立させることができる。占領状態では通常、資源や工業力はそれぞれ設定値の40%、20%しか利用できない上、パルチザンが発生する危険性がある(独裁国家ほど危険性が高い)が、独立した新国家にとっては本国プロヴィンスであるため100%利用でき、パルチザンも発生しなくなる。新国家が領土要求する地域(=全ての本国プロヴィンス)の内、自国の本国プロヴィンスでない支配地域が新国家に与えられる(この制限により、日本が朝鮮半島を独立させたり、ソ連が自発的に連邦を解散したりすることはできない)。また、AIはイベントを除き、新国家を独立させる事はない。
独立直後の政権は傀儡政権であり、宗主国はその貿易関係を独占できる(資源を上納させることができる。但し資源が足りない場合は逆に援助してやらなければならない)が、軍備や内政などは新国家のAIに委ねられプレイヤーは指示できない。また、新国家の独立により自国の好戦性が低下する。傀儡政権を解体すると、さらに好戦性が低下する。但し、独立させた場合は自国民の不満度が上昇(苦労して手にした権益を手放す事になる為)する他、イギリスやフランスなど、開始当初から多数の植民地を獲得している国家では、独立を認めすぎるとイベントが発生し著しく不満度が上昇する。
新国家としては、戦後の独立国や占領地にできた政権(東西ドイツ、南北朝鮮、蒙古国など)、異なる時代の国家(アメリカ連合国、オスマントルコ、モンテネグロ、カザフスタンなど)、架空の国家(スカンディナヴィア、クルディスタンなど)などが用意されている。もちろん、ゲーム中に消滅した国家の復活も可能である。また、ポーランドのようにシナリオ開始時と、新国家として独立する場合とで本国プロヴィンスの領域が異なる国家も存在する(これは、ヤルタ会談による領土変更の再現である)。尚、イベント以外で分断国家が通常プレイ中に成立する事はないので、東西ドイツや南北朝鮮の再現は予めMOD等で設定しなければならない。
[編集] 問題点
当時のドイツ国旗はハーケンクロイツであるが、ドイツでは公的な使用が禁止されているために、ゲーム内では帝政期および1933〜1935年に使用された三色旗が用いられている。生物兵器や化学兵器、ホロコーストもゲーム内では表現されず、公式フォーラムにおいてもこれらの話題を挙げることは禁止されているが、一方で南京大虐殺はイベントとして組み込まれている。
また、中華人民共和国では本シリーズは販売禁止となっている。ゲーム内での当時の中国の状況(満州・チベット・新疆などが独立した勢力として扱われ、台湾を日本が領有していること)がこの理由として挙げられている[4]。これに対してパラドックスは「我々はゲーム会社であり特定の政治的意図は持っておらず、そのため研究家や資料に当たるなど歴史の正確さには注意を払っている。」と反論している[5]。
[編集] Hearts of Iron
日本では、2003年にハーツ オブ アイアン ~戦火の獅子達~ 日本語版というタイトルでメディアクエストより発売が発表されたものの、後に「英語版の一部に弊社のゲームソフト作成基準上、日本語化が困難な部分があるため」との理由で発売が中止されている。詳細は発表されていないが、天皇制に関する部分が理由ではないかと推測されている[6][7]。そのため、大多数の日本人ユーザーは英語版に日本語化MODを当てるなどしてプレイしている。 2008年7月4日にサイバーフロントからハーツ オブ アイアン 完全日本語版として発売されることとなった。
[編集] Hearts of Iron II
2005年1月にWindows用のPCゲームとして発売。前作と比べ、技術研究システムの改良、空戦・海戦の簡略化、外交活動の増強、その他多くの軍事システム改良、が行われている。
日本では、サイバーフロントより2005年12月にハーツ オブ アイアンII 完全日本語版として発売されている。なお、日本語版では1作目の問題を回避するためか、日本の国家元首がHirohitoから大本営(これには批判も多々あり開発者の苦肉の策であると考えられている)に変更されている。
[編集] Hearts of Iron II Doomsday
Hearts of Iron IIの拡張パック。拡張パックではあるが、HoI2がなくとも動作する、いわゆるスタンドアロンである。実質的にはHoI2の改良版といえる。2006年4月4日に英語版が発売。さらに2006年8月4日、日本語版がサイバーフロントよりハーツ オブ アイアンII ドゥームズデイ 完全日本語版として発売された。日本語版のみ、HoI2本体が必要なアップグレード版も併売されている。
ゲーム期間が1953年まで延長されており、冷戦や第三次世界大戦がテーマとなっている。システム面でも、諜報戦などの機能追加や、ICの自動割り当てなどの改良がなされている。
追加キャンペーンシナリオのDoomsdayは、第二次世界大戦終結直後の1945年10月に、米ソ対立から第三次世界大戦が勃発したとする架空のシナリオである。モスクワへの核攻撃から始まるこのシナリオでは、米ソの総力戦が繰り広げられることになる。
[編集] Hearts of Iron II Doomsday-Armageddon
Hearts of Iron II Doomsdayのブースターパック。英語版のダウンロード販売が2007年3月29日に、次いで完全日本語版のパッケージ版販売が2007年9月7日に開始された。
「欧州ソヴィエト」「オーストララシア」等の架空の少数の地域大国が世界を分割し、全く違った歴史の中を歩んできた国々を1936年からプレイできる新作シナリオ(Armageddon、The Abyss)が2本同梱されている。これらは各国家の強さが均一化されているため、マルチプレイを主眼に置いたシナリオである。
その他の大きな変更点は、ゲーム終了年度が可変可能となって最大1964年まで延長され、海戦・空戦のバランスの改善や、占領した国家の研究機関を引継げる等の新要素が盛り込まれた。
[編集] 関連項目
- Europa Universalisシリーズ
- Victoriaシリーズ
- Crusader Kings
[編集] 脚注
- ^ これ以外にも旅団の名称でユニットの付属部隊が存在する。
- ^ Paternal Autocrat 有志の日本語化MODでは「専制独裁」、サイバーフロントによる公式日本語版の古いバージョンでは「絶対王政主義者」と訳されている。パターナリズムも参照のこと。
- ^ DDA以降ではプレイヤーの任意で中華民国臨時政府・南京国民政府といった傀儡政権も立てる事が出来る。
- ^ 「中国政府、輸入オンラインゲームの検閲を強化」、Hotwired Japan、2004年6月5日。
- ^ "Paradox comments on Hearts of Iron being banned in China"、パラドックスインタラクティブ、2004年6月2日。
- ^ 「メディアクエスト、「Hearts of Iron」の発売を中止-理由は「ゲームに日本語化が困難な部分」-」、GAME Watch、2003年8月11日。
- ^ 「「ハーツ オブ アイアン」が発売中止に」、4Gamer.net、2003年8月11日。