工作機械
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工作機械 (こうさくきかい、英語:machine tool) とは、機械を構成する部品や金型を加工する機械。旋盤、歯切り盤、ボール盤、中ぐり盤、フライス盤、研削盤など様々な種類がある (「工作機械の種類」参照) 。
一般に加工対象物もしくは刃のどちらかを回転させ、両者の相対位置を制御することで目的の形状に加工する。加工対象物としては、金属、木材、プラスティックなど。刃としては、ドリル、エンドミル、バイトなど。
近年では、相対位置の数値制御を自動化することで、生産効率を高めた NC加工を行う工作機械が主流。中でも、FA (ファクトリーオートメーション) の一環としてATC (オートツールチェンジャー) ・APC (オートパレットチェンジャー) の機能を持つマシニングセンタなどが登場した。
NC機能を持ち合わせていないタイプは汎用機という。そういった汎用機を製造するメーカーは国内ではわずか数社となってしまった。それに汎用旋盤や汎用フライス盤などの汎用機は、取り付けた刃物の「回転数」や機械のテーブルのスピードを意味する「送り」を加工するワークの材質や切り込み量から適宜選んで加工し始めなければならないし、また自動でストップするわけではないので、削り込みすぎないように常に機械と向き合っていなければならない場合が多い。そういったNC機ではありえない面倒なこともあり、また大量生産性効率の悪さから今時のオペレーターには敬遠されがちであるのも事実である。主に単品加工向きと言えよう。また現在では汎用機を専門とする職人は経験を積んだ高齢の人が多く、NCを主体とする工作機械を操るオペレーターとは相容れない理由はここにあると言われている。
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[編集] 工作機械の発展と母性原理
現存するすべての機械は、いずれもどこかの工作機械から生み出されている。そのため工作機械のことを母なる機械-マザーマシン-と呼ぶこともある。現代の工作機械もまた、歴代の工作機械から生み出された。これは、「はじめて作られたコンパイラは何でコンパイルされたか」という疑問と同じく、はじめの工作機械はどうやって作られたかという疑問が出てくる。
これについて明確な答えは無いが、有史前に職人が手作業で作り上げたと推測される。またおそらく、単純に全ての機械の生みの親と言えるべき工作機械が存在していたわけではなく、ほぼ同時期にいくつもの工作機械が手作業で作り出されたと考えられる。
初期の工作機械の精度は悪かったと考えられる。歴代の技術者の努力によって、精度の高い工作機械が作られ、それがさらに精度の高い工作機械を生み出すことを繰り返し、今の工作機械の精度が得られるようになった。機械の精度を高めるために、キサゲやラッピングという金属加工の技術が編み出された。キサゲとは、木の棒の先に、超硬バイトをつけて0.1μm単位で削る加工方法である。この手法で削られた金属面は、ウロコ状の模様になる。目的として、摺動面に油だまりを作り摺動摩擦を軽減するのと、0.1μm単位で機械の部分的な精度を向上させる。しかしながら、この手法は、高度な習得技術を必要として作業時間もかかる。このために、摺動面を持つような工作機械は高額になるといえる。
ところで工作機械には「工作機械以上の精度で部品を生み出すことが出来ない」という母性原理が存在する。この原理を真に受けると、このように次第に精度を上げてきた工作機械の歴史には矛盾があるように感じる。
しかしこれは、例えば 10μm の精度の工作機械が生み出す部品は、必ず 10μm の誤差があるわけではない(1μm=0.001mm)。精度 10μm の工作機械を用いてまったくおなじように 1000 個部品を作ってみると、出来る部品の誤差が ±10μm の範囲に収まるという意味であり中には 1 個くらい ±1μm の部品が出来る可能性がある。選りすぐられた精度の高い部品のみを使うことで、母性原理に反せず工作機械の精度を向上させることができる。また、職人が砥石等を使って精度を上げた部品の採用や誤差が出にくいように設計する工夫なども精度向上の歴史を担ってきている。
[編集] 工作機械の歴史
工作機械がいつ頃発明されたかは定かではない。紀元前1200年頃のミケーネの墳墓から、旋盤によって加工されたと考えられる木鉢が発掘されている。紀元前6世紀頃、エトルリアやケルトの中に、高度な旋盤技能を持つ人がいたと、発掘品から考えられている。
旋盤の技術は紀元前 2 世紀頃にはヨーロッパや近東にも広がった。工作機械が劇的に発展したのは 、14世紀以降で、これはまず14 世紀の機械時計の発明によって加工精度が必要になったためである。しかし、機械時計は対象物が小さく、比較的大きな物に対する工作機械が登場するのは18 世紀の蒸気機関の発明により、ピストンやシリンダを高精度に加工する時代まで待たないといけない。
20世紀後半になるとコンピュータの発明により、工作機械の自動制御化 (ロボット化) が進められた。
[編集] 工作機械の種類
工作機械には、大きく分けて汎用工作機械と単能工作機械の2種が存在する。前者は旋盤のように様々な加工をこなすことができる反面、十分な精度を出すには高い技術と熟練を要する。後者はボール盤のように単一の作業しかこなせない代わりに操作が容易で、多種の単能機械を組み合わせることで高精度の部品を大量に生産できる。この違いが顕著に示された例が第二次世界大戦の日本とアメリカで、熟練職人の操作する汎用工作機械に頼っていた日本の軍需工業が彼らの徴兵によって弱体化したのに対し、アメリカは経験に乏しい作業員でも精度の出せる単能工作機械を大量に駆使して高い生産力を維持し、物量でドイツや日本を圧倒したのである。
- 旋盤 (Lathe) -バイト (Tool bit)
- フライス盤 (milling machine) -フライス (milling cutter) 、エンドミル
- 形削り盤 (shaping machine) -バイト
- 平削り盤 (Planer) -バイト
- ボール盤 (drilling machine) -ドリル、リーマー (reamer) 、タップ
- 中ぐり盤 (中刳盤、ボーリング・マシン、boring machine) -バイト
- 放電加工機 (electrical discharge machine)
- ワイヤーカット放電加工機
- 形彫放電加工機
- ブローチ盤 (broaching machine) -ブローチ (broach)
- 歯切り盤 (gear cutting machine)
- ホブ盤 (gear hobbing machine) -ホブ
- 歯車形削り盤 (gear shaping machine, gear shaper) -ラックカッタ、ピニオンカッタ
- 研削盤 (grinding machine) -砥石
- コンターマシン
- 帯鋸盤
- マシニングセンタ (machining center, CNC milling machine)
- ウォータージェット加工機
- レーザー加工機
- 電子ビーム加工機
- 電解加工機 (electro chemical machining、ECM)
- 電解バリ取り機 (electro chemical deburring machining、ECDまたはECDM)