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地下水 - Wikipedia

地下水

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

地下水(ちかすい、groundwater)とは、地中に存在するの一種である。地中に存在する水は、地下水と土壌水に二分されるが、ある地層帯水層)に水がこれ以上ないほど満たされている(飽和している)場合、それを地下水と呼び、満たされていない(不飽和である)場合はそれを土壌水と呼んで区別している。地下水と土壌水を合わせて、広義の地下水と呼ぶこともある。

廃棄物最終処分場に含まれる水については地下水とは呼ばず、保有水という。処分場は構造上、一般環境から隔離されており、その内部にのみ保有されている水であることを示している。

地盤は水分を吸収する能力(性質)を持っており、これを浸透能というが、この浸透能により地中に地下水が蓄えられることとなる。地下水は、地表に流出して河川などの地表水を形成する。また、生活用水・農業用水・工業用水などに使用されたり、水温の高いものは温泉として利用されるなど、人間の生活活動・経済活動を支える重要な資源とされている。人間は井戸によって地下水を得ることが多い。一方、地下水は斜面崩壊地すべり土石流など自然災害の原因ともなっている。

地下水を扱う研究分野には、水文学水理学などがある。

目次

[編集] 地下水の由来

地下水の大部分は、降水(天水ともいう)に由来する。などの降水は、地表の浸透能によってほとんどが地中に浸透する。いったん地中に浸透した地下水は、ふたたび地表に湧出して河川や池沼のような地表水となるか、地下のまま海岸線を潜り抜けて沿岸の海底に湧き出る。地中へ浸透せずに地表水となる水流をホートン地表流というが、地表の浸透能は非常に高いため、舗装で埋め尽くされた都市部などでない限り、降水のほとんどはホートン地表流となることなく、一度は地中に吸い込まれて地下水となる。同位体を用いた水文調査の結果によると、洪水時でさえも、地表水は地下水から供給されていることが判明している。すなわち、地中に浸透できなかった降水によって洪水が発生するのではなく、多量の降水が地中に浸透して、それまでの地下水が追い出されて洪水が発生するのである。

海水を由来とする地下水もある。太古にだった地域が、長い年月の間に陸となり、海水が地中に残存して地下水となったものである。こうした地下水を化石水(かせきすい)といい、アメリカ中西部プレーリー平原の化石水が代表的なものである。化石水は、数千万年 - 数億年前に形成されたと見られている。化石水はもともと海水だったため、塩分を多量に含む塩水であることが多く、人間にとって利用しにくい地下水であるが、東京都内や川崎・横浜市内の天然温泉は化石水が温められたものである。

また、プレートテクトニクスに由来する地下水もある。大陸プレートが海溝などで他の大陸プレートの下部へ潜り込む際、周辺の海水も一緒に引きずり込まれる。地殻内部へ引きずり込まれた海水は、マグマ熱などにより、地表近くへ上昇して地下水となるものもある。こうした地下水は、高温であることが多く、温泉を形成することがよく見られる。

[編集] 地下水のふるまい

[編集] 地下水面

地中を観察すると、の粒子の間隙に水が浸透している。このとき、粒子の間隙に水が完全に満たされた状態(飽和状態)であれば地下水といい、水が完全に満たされていない状態(不飽和状態)であれば土壌水という。そして、地下水と土壌水の境界を地下水面という。地下水面を境として、上部(土壌水の存在する部分)を不飽和帯、下部(地下水の存在するところ)を飽和帯または帯水層と呼ぶこともある。さらに不飽和帯を二分し、その下部を毛管水帯、その上部を懸垂水帯と呼ぶこともある。

地下水面は、地表の起伏に大きな影響を受けている。地表が盛り上がる山地台地では、地下水面も盛り上がっている。地表がへこんでいる場合は、地下水面も同様である。

さて、上述したとおり、地下水は、地下水面より下部では面的あるいは空間的に存在している。地下水を線的なものとして捉える地下水脈という概念があるが、ここで見るとおり地下水の実態にそぐわない概念である。

河口周辺の平野部における地下水の挙動を考えるとき、地下水の上流側が河川や海洋であり、下流側が井戸と考えた方が理解しやすい場合が多い。平野部には数十メートルを超える井戸が多数存在し、揚水を行っている。また、地下水は地層構造により第一帯水層・第二帯水層等の幾層にも分かれて重なっている。地下水流向は同一平面位置であっても各帯水層によって異なる場合が多く、全く逆方向の流向も珍しくない。

[編集] 地下水の流速

地下水の流速は非常に遅く、年速数cm - 数百m程度である。地下水の流速を求めるにはダルシーの法則を用いる。1856年にアンリ・ダルシーが発見したこの法則では、地下水の流速 = 透水係数×動水勾配とされている(透水係数:地層が水を通す度合い、動水勾配:任意の2点間での地下水の流動の差)。透水係数・動水勾配は、その地層の地質構造に左右されるが、地質構造を明らかとするには実際に現地で調査を行うほかない。そのため、地下水の実態把握には、現地調査が非常に重要である。

その調査方法としては、井戸ボーリング孔を掘って地中を調べる方法、地中に電流を通して電気伝導率を調べる方法、pH、水温、弾性波で調べる方法などがあるが、最も効果を上げているのが、地下水に含まれる放射性同位体を測定して調査する方法である。この同位体測定法により、実際の地下水の流速や流動方向などが、地域によってはかなり詳細に判明することもある。

[編集] 地下水ポテンシャル

地下水ポテンシャル(流体ポテンシャル、水理ポテンシャルともいう)とは、ある地中点における地下水の存在状態のことである。水理学では、ポテンシャル概念を水頭と呼ぶ。

地下水ポテンシャルは、速度密度高度圧力の4つの物理量を変数スカラー)とするが、現実的に、速度は無視できるほど非常に遅いので除外出来る。また、観測対象地域の各観測点の密度の違いも無視できるほどであるため、地下水ポテンシャルは高度(位置エネルギー)と圧力のポテンシャルの和、すなわち次の数式で近似できる。

  • 地下水ポテンシャル(水理水頭)= 重力ポテンシャル(位置水頭)+圧力ポテンシャル(圧力水頭)

ある地下水が、地下水ポテンシャルの高い観測点Aから低い観測点Bに移動した場合、AB間の地下水ポテンシャルの差は、運動エネルギー、および、両地点間にある地層による摩擦を受けて熱エネルギーとなる。エネルギー保存の法則から、観測点Bの地下水ポテンシャル、運動エネルギー、および、発生した熱エネルギーの和は、観測点Aの地下水ポテンシャルと等しい。すなわち、地下水の運動エネルギーは地下水ポテンシャルの差によって生じ、地下水は、地下水ポテンシャルの高い方から低い方へ流れるといえる。これを慣例的にポテンシャル流れという[1]

地下水ポテンシャルは、井戸を掘ることで測定することができる。ある任意の基準面から井戸の中の水位までの高さが、地下水ポテンシャルの高さを表す。このとき、井戸の中の水位を地下水位ということもある。地下水ポテンシャル = 地下水位は、同一地点であっても深度方向によって異なる。例えば、低標高平野部では、浅い地層よりも深い地層の方が地下水ポテンシャル = 地下水位が高い場合が多く、深い井戸を掘ると地下水位が地表面より高くなることさえある。こうした自噴する井戸を自噴井という。

地下水位と地下水面は、よく似た用語であるが厳密には異なる。地下水位は、地下水ポテンシャルの大きさを表す用語であるのに対し、地下水面は、地下水帯水層の上部境界を示す用語である。短期的に見れば、地下水面の位置は一定だが、地下水位は深度によって異なる。なお、地下水面は、地下水ポテンシャル = 重力ポテンシャルとなる点の連続面と定義することもでき、地下水面上では、地下水面と地下水位が等しくなる。

[編集] 地下水の分類

地下水は、特徴や水の対比等を目的として、いくつかの視点から分類されている。なお地下水の賦存状態の区分については、帯水層を参照のこと。ここでは水質区分について記述する。

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[編集] 主要成分の濃度

塩類濃度により、以下の3つに分けることは最も多く行われている。

[編集] 主要成分の当量比

塩水(海水や化石塩水(化石海水ともいう))との交換、塩基置換、などの水質変化・進行現象を解釈する際に、以下のような当量比で区分する。

  • Na / Cl
  • Mg / Cl
  • SO4 / Cl

これらにより、塩基置換・炭酸の変化・有機物の分解・酸化還元などを、地下水と地層の接触時間や、滞留時間等の解析として用いられる。

[編集] 主要塩類

溶存成分により、仮想的な結合を考え、その塩類によって区分を行う。これは温泉の区分で行われている方法である。

[編集] 地下水と人間活動

鉱工業の発展に伴い地下水が汚染される例が多く地域でみられる。日本においては、汚染水を地下に浸透させることを禁止してからあまり年月が経っていない。例えば、大阪の鉱山保安法適用事業所 (OAP) において地下55m付近もの深部において汚染が確認されており、人間の経済活動が清浄な地下水を利用し、汚染してきた歴史の悪例である。さらに、健全な水循環は人間活動を行う上で必須の条件であり、都市部と言えども緊急時においては清浄な地下水の確保が生命線となるので、都市における地下水環境保全が求められている。

[編集] 地下水資源

[編集] 地下水資源の特徴

地下水を長期にわたって最大の利益を得るように利用するために、地下水を保全する視点を持つ必要がある。特に地下水は、地下水の特徴からくる制約事項がある。

  1. 地下水は貯留量が大きいが、地下に賦存しているが故、それを直接目視することができない。また貯留量が大きいが故、利用する(揚水)に際して、その反応が現れるまでに時間を要する。したがって、地下水を管理する場合は、長期的視点に立つ必要がある。
  2. 地下水への涵養(かんよう)量は貯留量に比べてわずかであり、揚水量が涵養量よりも上廻っている場合、貯留の減少が起き安定的に利用できなくなることに加え、地盤沈下が発生する。

[編集] 日本における地下水の「公水論」と「私水論」

昭和40年代ごろより、地下水は、公共財的性格が強い(地下水は流動し私有地に滞留しているものではない(水循環の一翼を担う)、周辺も含めた土地の環境機能の根幹をなす)とする立場の「公水論」と、土地所有者が井戸などを設置して個人的に利用できるものであることから私的財産に含まれるとする「私水論」が議論されている。昭和30年代頃より激しくなった地盤沈下の原因が、地下水の揚水によるものと結論づけられた昭和40年代頃より始まった議論である。

法的には土地の所有権について「法令の制限内に於いて其の土地の上下に及ぶ」(民法207条)としていることから、地下水は私有財産とされているが、公水とする判例もでている。現在まで国の各省庁による議論が行われてきたが、定まった・統一された地下水に関する考え方はない。

同様の議論は土壌、特に土壌汚染対策において土壌環境機能を将来にわたり制限してしまうことについて、土壌環境機能の公共性と、土地そのものを構成する物質としての私有財産の議論がある。土壌は地下水のように移動せず、また土地を構成する主体であることから、公共性については概念のみ提案されている。

1990年代の中頃より地下水汚染が各地で表面化し、それまでの地盤沈下防止対策、そして世論の環境意識の向上により、地下水を公水として考える社会的背景が形成されてきている。一方、土地所有権を地盤を所有する権利という視点に立てば、地下水は地盤を構成する三要素(1.岩石・土粒子等の固体、2.地下水等の液体、3.空気等の気体)のうちの一つと考えられることから、地下水は土地所有権に付随するものという概念は、今なお残されていることに留意が必要である。なお地下水は、自由に流動する液体であることから、私有財産に相当しないとする考え方もある。

参考文献

  • 「諸外国及び我が国における地下水法制度等調査(平成3年度地下水利用評価調査報告書)」国土庁長官官房水資源部(平成4年3月)p.314

[編集] 地下水と環境問題

[編集] 地盤沈下

日本では、戦後、安価な水源として地下水が利用されてきたが、1960年代ごろには過剰な地下水の揚水により特に都市部において地下水位が著しく低下した。そのため、地層は失った地下水の分量だけ収縮していき、地盤沈下が発生することとなった。公害問題として地下水が注目された最初のケースであり、全国各地で地下水の揚水を規制する条例が制定され、地下水の利用は沈静化していった。1990年代ごろからは、低下していた地下水位の回復も見られ始めた。以前とは逆に、地下水位の上昇により上野駅地下ホームが押し上げられ、その浮き上がりを防止する対策工事が行われるなどの問題も発生している。

[編集] 地下水汚染

地下水は、人間の各種活動に欠かせない資源であるが、一方では人間の産業活動にともなう各種の化学物質等による汚染が各所で発生している。例えば農業で使用する農薬や、工業等により排出される廃棄物が地中に浸潤することで、地下水汚染が発生している。

今後も地下水を貴重な資源として利用していく上で、地下水の汚染をいかに防止するかが重要な課題である。また、地下水汚染の発生抑止のためには、地域での地下水循環の実態を把握することが不可欠である。

その反面、必ずしも十分かつ的確な地下水観察が行われていないという課題もある。例えば、日本では大阪アメニティパークというマンションにおいて敷地境界付近で環境基準の1700倍の重金属による地下水汚染が検出されている。平成17年に開催された学識経験者や環境コンサルタント等で構成する検討委員会(平田健正座長)では敷地外の地下水汚染の調査の必要性について活発な議論がなされた。その結果、敷地周辺の地下水汚染調査は当面実施しないとされた。その後(翌平成18年)、行政の指導により敷地周辺の地下水汚染調査が実施され、地下水環境基準の400倍の地下水汚染が発表された。検討委員会考え方と実際の結果が異なっていたことで、検討委員会の行政上の位置づけや委員会の基本的な姿勢について、注目されている。

[編集] 地下水汚染による底質汚染

 有害物質を含む地下水が川や池等に流れこむと地下水に含まれていた有害物質は凝集沈殿し、水底に堆積する。底質に多くの有害物質が蓄積されると底質汚染が引き起こされる。水底や底質に生きる動植物が体内で有害物質を濃縮蓄積し、食物連鎖を通してさらに高濃度の有害物質が形成されやがて人が食するようになり、健康被害が懸念される。

[編集] 脚注

  1. ^ 榧根勇 『地下水の世界』 日本放送出版協会、1992、p57-62

[編集] 関連項目

ウィキメディア・コモンズ

[編集] 参考文献

  • 榧根勇 『地下水の世界』 日本放送出版協会 <NHKブックス>、1992、ISBN 4140016515

[編集] 外部リンク


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