ボーグ
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ボーグ(Borg)は、『スタートレック』シリーズに登場する、架空の機械生命体の集合体である。
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[編集] 概要
初出は『新スタートレック』である。その最大の特徴は、侵略の対象が「文化」や「技術」その物にある点にある。領土や財貨、個人といった物には興味を示さず、特定の種族の持つ、文明、文化、そのものを吸収同化していくという特徴は、ボーグを従来のSFドラマに登場した地球人と同類の「主に場所や資源を求めて他を征服する」という侵略型エイリアンとは、一線を画す特異な存在に位置づけさせた。物語中、ボーグは、冷酷無比に同化と呼ばれる強制的なサイボーグ化と洗脳とにより、自組織へと他のヒューマノイド(人間)を取り込もうとする存在として描かれた。ボーグは全メンバーの意識を常時共有している性質上一人称単数の意思は存在せず、常に自分たちの事を「我々」と表現する。これは1人だけを相手にしていてもその個体はこのように表現する。同化の際に「我々はボーグ。お前たちの生物的特性と科学技術は我々と同化する。お前たちの文化は我々と同化する。抵抗は無意味だ」という一方的通告をしてくる事で知られている。
ボーグらは、一辺数キロメートルにも及ぶ巨大な宇宙船に乗り、宇宙空間内をワープを使って高速で移動する。これらボーグ宇宙船は立方体型をボーグキューブ、球状体型をボーグスフィアと呼ばれ、様々な星の知的生命体を同化して、その科学技術を吸収する事で自己進化を推し進めている。
彼らは極めて向上心溢れる種族という解釈も出来るが、「向上心」は個人の意思を前提としているので当てはまりづらい。「完璧生命体」(en:Parfect organizm)を目指しており、したがってもはや向上のために同化するのか、同化のために向上を余儀なくされているのかすら不可解でもある。
征服する意思集合体であり侵略集合体に見えるが、これも侵略される側が個人の意思を持っているからでありボーグ意志体にしてみれば親切を施しているとも受け止められる行動を見せた事もあった。 ボーグのフレーズ「我々はボーグだ」(We are the Borg)、「お前達を同化する」(You will be assimilated)、「抵抗は無意味だ」(Resistance is futile)はあまりにも有名であるため、しばしば方々でパロディが見られ、たとえば技術系ニュースコミュニティサイトの主要な一つであるスラッシュドットでは、マイクロソフトが様々な市場を自社製品で制していったことをボーグの同化活動になぞらえ、同社に関するトピックのアイコンは「ボーグインプラントをつけたビル・ゲイツ」としている(→ハッカー文化)。
[編集] ドローン
ボーグに所属する生命体のことを「ドローン」と呼ぶ。なおドローン((英)Drone)は、元々は雄蜂など社会性昆虫における繁殖を担う個体群(→(英)Drone (bee))のことだが、無人探査機もこう呼び、むしろボーグにおけるドローンは後者の意味合いで、集合体における末端レベルでの調査や各種作業といった活動をするシステム端末のイメージが強い。各々のドローンは生体と機械とが融合しており、物理的に不可分である。また一体のボーグが周囲の生命体を同化する事でも仲間を増やす事が出来る。
ドローンには個人という概念がなく、脳に直結された通信装置で常に情報を共有している。この通信内容は見聞きした感覚的な情報から、考えたり思ったりした事までもを伝え合っている。なおこの通信は特定の対象のみに通信を送る双方向通信ではなく、無意識・無制限のブロードキャストである様にも見えるが、情報分配効率は極めて高く、内容インデックスが付け加えられているのと、優先順位の位置が決まっているデータベースと見受けられる。
知識や経験といった人間の社会では個人に属する情報までもを共有するという極めて共産主義的なボーグには自分という概念が無く、集合体という共有意識をもって活動している。そして各々のドローンは、その組織内の一部品として扱われ、また死んだボーグ・ドローンに蓄積された情報は常にボーグ全体に伝えられているため、ドローン個人の死はボーグ社会(集合体)ではあまり気にされない。ただし『新スタートレック』では、事故によって集合体から断絶してしまったために、集合体から完全に取り残されてしまい、各ドローンが精神的に個人として自立しているという一団も登場した。
ドローンは一定期間活動した後、所定の装置(再生ユニット)に入って立ったまま休む(再生と呼ばれる)。この間、ドローンの意識は無い状態で、またドローン自身のセンサーも休眠状態にあるが、この間も脳内通信機による情報交換は活発に行っていて、再生を終えたドローンはすぐさま所定の仕事を行う事が出来る。
肌の色は概ね土気色→青ざめているのは体内のナノマシンによってボーグの最効率優先精神により、生体組織の維持にエネルギー消費率を最低限まで抑えられている事による。したがって毛髪は毛根を維持できうる範囲までは至って無い事が明らかである。
[編集] 同化と繁殖
ボーグは同化という特殊な方法で仲間を増やす事が出来る。同化とはヒューマノイド生命体の体内に、ドローンが「ナノプローブ」という極小機械を注入する方法である。
同化されたヒューマノイドはすぐに全身にインプラント(埋め込み装置)が出現し、これに伴って脳内の通信機も形成されるため、個人という意識がなくなり、集合体の一部となる。またボーグは同化により繁殖が出来ないときには、人工授精により仲間を増やす事が出来る。通常の生物のようには繁殖せず、恋愛の感情は精神同一集合なので普通の人間の様に抱くことはない。
人工受精の際には胎児の段階でナノプローブを投与されており、人工的な装置の中で育成されるが、自分で動けるような年齢に達するとこの装置から出され、仕事が与えられる。なおドローンは必要な情報はいつでも集合体の記憶装置から与えられるため、義務教育などの一般的な学校制度もない。
[編集] 集合体の社会
ボーグ集合体には、全体の支配者として女王(ボーグ・クイーン)が存在しており、各戦艦には独立した女王が存在している様に見えるが、各女王は次元を超越して存在する一人の支配者の影に過ぎない。その社会はアリ等の社会性昆虫のそれに酷似しており、日々、他知的生命体の同化活動に邁進している。
ボーグは同化していない種族を見つけると、その種族の程度を調査し、同化に値する価値があると判断した場合には、すぐに同化する手段に出る。彼らが同化をする理由は、非の打ち所のない完全なる生命体を目指しているからであり、同化により新たなテクノロジーを吸収していく。ただし彼等の興味は、あくまでも対象が持つ科学技術や知識であるため、文明のレベルが低く同化する価値がないとみなされた種族は、その存在が無視されることもある。また個人や個体には興味を示さないため、ボーグキューブに人間が入り込み活動を行っても完全に無視している。ただし、ボーグに対して敵対的な行動をとれば、直ちに排除対象となり苛烈な攻撃にさらされることになる。
ほぼ日常的に他知的生命社会への襲撃と同化と言う略奪行為によって日々を過ごしており、技術的な開発を除いては、ボーグ自身が文明と呼べるレベルの創造的な活動を行うことはない。いわゆる文化や芸術と呼ばれる、非生産的だが情動に働きかける要素に価値を見出している様子も見られず、このためボーグの生活において個体が精神を楽しませる芸術的な活動をしていたり、ボーグキューブやスフィア内に装飾がなされている様子も見られない。技術面における機能性と効率を最重視した結果、それらのボーグ関連施設の内部は工場や大規模工業施設群に酷似する。
[編集] ボーグ・テクノロジー
彼らには武器に対応・適合する能力があるので、同じ武器は数回しか通じず、倒しても次々と他のドローンが転送されてくるので、襲撃を受けた場合、ほぼ同化は免れない。なお『新スタートレック』においてエンタープライズのクルー達は、発射のたびに自動的に変調するフェイザーを用いてボーグの対応を混乱させ、被害を最小限に留めることに成功している。
『スタートレック:ヴォイジャー』では、同化を拒絶する免疫を持った種族(生命体8472)が現れ、技術の吸収ができなかったボーグは、一方的に撃退され続けた。また、『スタートレック:エンタープライズ』の時代でナノプローブはオミクロン粒子に弱いことが判明し、実際ナノプローブを注入されたフロックスは、自身の体にこれを照射して完全に除去することに成功しているが、後の時代で通用するかは不明である。ただし、治療を受けたドクター・フロックスは身体構造が地球人と異なるデノビュラ人だからこそ行えた治療である可能性が、後のシリーズとの適合性を考慮すると高い。
なおボーグのテクノロジーは記憶バンクに蓄えられカタログ化されている様子も見られ、一度受けた現象(攻撃を含む)に対する対応を過去のデータと照合、対応策を導き出す事ができる。しかしこの照合システムは何らかの現象に遭遇した際に、これを観測・分析してからでないとならないため、どうしても受動的である。このため即興的なアイデアを実行に移したりといったことができない。また極めて同質性の高い社会のため、例えば生命体8472による襲撃など、従来のパターンでは対処できない敵と対峙した場合には、極めて短期間の間に大規模な被害を被ることもある。一定の周期性がある現象への対応は得意であるが、完全に乱数的に現象が変化しつづけている流動的な事態には、対応不能に陥ったりもしている。前述の自動変調フェイザーによる防衛も、この変則的な事態に対応しにくいボーグの弱点が露呈したものとみなすことができる。
[編集] ボーグの対外的評価など
ボーグに捕まった生命体は、すぐさま同化という処置が施され洗脳される。これは言い換えれば個人の人格を殺す事でもあるため、多くの作中に登場する種族の間では殺人以上に忌み嫌われている。しかしその技術は高く、しばしばボーグテクノロジーは他種族の関心の的となる。
個々のボーグドローンが置かれた環境で性質的に変化する場合もあり、この辺りはストーリーのエッセンスとして度々扱われている。
[編集] ロキュータス
個人という人格を持たないボーグは、宇宙艦隊に対するスポークスマンを必要としたためジャン=リュック・ピカードを拉致。ボーグの代弁者ロキュータスへと改造した。
通常はドローンとされたものの人格は破壊されたに等しいため、期間の長短にかかわらず、人間の生理機能に完全に戻すことは非常に困難となるが、ピカードの場合は、艦長としての知識と経験を利用する必要から、彼の自我を破壊する程の同化は行われなかった模様である。結局はかつての部下にドローン・ピカードは奪取され、後の治療で人間に戻ったが、逆にロキュータスであった際の言動もピカードは明確に記憶しており、ウルフ359の戦いで幾千もの同胞を死に至らしめた事実はピカードの大きなトラウマとなった。
[編集] ブルー(ヒュー)
アーゴリス星団に不時着したボーグ偵察船からU.S.S.エンタープライズDに回収される。
ボーグ集合体から離れクルーと接する事で、自我が確立され、サード・オブ・ファイブ (Third of Five) が正式名称だが、ジョーディ・ラ=フォージによって「ブルー(原語ではヒュー)」と名付けられた。彼は人間社会の中で温和で思慮深い性格を身に付けた。
エンタープライズのクルーは葛藤はあったものの、最終的には悪意なくブルーを集合体に返すが、ボーグ内では異質の存在であり、周囲の者までもが彼の考えや態度に影響され、自我に目覚めさせられることとなった。集合意識ではない「個」の概念に直面した彼らは自己の存在意義や存在目的を見出せず、混乱はブルーのいるキューブ全体に波及し、バラバラの状態となった。
そこにデータの兄であるローアが現れてリーダーとなったことで事態は収束する。しかしローアは自分の掌握したボーグたちを使って事件を起こす。
[編集] セブン・オブ・ナイン
『スタートレック:ヴォイジャー』に登場したセブン・オブ・ナインは、幼い頃にボーグに同化され、この両親諸共同化したボーグの中で育った一人だが、その両親はボーグを研究しており、しばしばドローンを転送で捕獲しては調べていた。その研究の様子を描写したシーンによれば、ボーグの探査装置には一定の癖があり、上手くシールド調整をすればボーグキューブからの探索を逃れられるとしている。また同シーンでは、ボーグは宇宙船に窓を設けて宇宙を眺めたりしないので、センサーさえ騙せればボーグキューブに接近しても感知されないともしている。このほかボーグドローンの脇腹装甲板の裏側にはスイッチがあり、これを手動操作することでドローンを休眠状態にすることができる模様だ。
ヴォイジャー作中において、ボーグドローンとしてのアイデンティティを持つセブン・オブ・ナインは、生命体8472に対するボーグとU.S.S.ヴォイジャーの共同戦線のために連絡役として派遣され、問題が解決するとヴォイジャーの同化を命ぜられた。しかし逆にヴォイジャーのクルーらに捕獲され失敗、集合体から切り離されてしまったためにヴォイジャーに残ることとなる。そこで普通の人間としての生活を余儀なくされたが、キャスリン・ジェインウェイ艦長や他のクルーと生活する内に、人間らしさを取り戻している。しかし最初の内は集合体内では絶えず周囲にあった集合体意識が無くなったために混乱し、強い孤独感を訴えたりしていた。なおセブン・オブ・ナインは後に同化を強要するボーグのあり方に反発、ボーグクィーンと対峙してジェインウェイを助けた。またデルタ・フライヤー開発では、自身の持つボーグテクノロジーを提供したりもしている。
[編集] 生命体番号
ボーグは他の種族に、「生命体番号」と呼ばれる独自の番号を付け、種族名ではなく、「生命体●●」といった具合に呼称している。生命体番号が付けられるのは遭遇時の瞬間であり、未だ同化が成功していない種族にも番号が付けられる。シリーズ中、番号が判明している主な種族は、以下の通りである。
正式な種族名が判明していないものを含めると、西暦2376年の時点で、生命体番号は10026まで存在していることが、『スタートレック:ヴォイジャー』において語られている。なおケイゾン人は文明レベルが低く、同化する価値がなかったとセブンが語っている。
[編集] ボーグの天敵
ボーグの技術力は作中に数多登場する異星人の中でもずば抜けて高度なものであり、Qや預言者などすべての物理法則を無視して活動できる高次元生命体を別とすれば、正面決戦でボーグに打ち勝つのは極めて困難である。実際の所、ボーグの侵略は大抵が一方的なもので、抵抗らしい抵抗を為しえた種族は少ない。しかし、ほぼ無敵と見なされているボーグにも、強敵と呼べる種族は存在する。
- 生命体8472
- 『スタートレック:ヴォイジャー』に登場。「流動空間」と呼ばれる異次元に生息する生命体で、高度に発達した肉体とテクノロジーを持つ。彼らの遺伝構造や生理機能は、ボーグの同化機能を寄せ付けない強力な免疫力を備えており、また強力なテクノロジー(兵器関連)は、ボーグがそれまでに収集した知識では対応不可能あった。
- ファーストコンタクト後に同化を試みるが失敗、執拗に追い詰める生命体8472の反撃の前に一方的な敗退を余儀なくされたボーグは、一時的なものとは言え、宇宙艦隊所属ながらデルタ宇宙域で単独行動中のヴォイジャーと同盟を結ぶと言う、普段の彼らからすれば考えられない行動を取らざるを得ない状況にまで追い込まれた。ボーグと正面から戦い、これを一方的に打ち破ったのは、これまでの所生命体8472だけである。
- 生命体5618
- 人類、すなわち我々のことである。『新スタートレック』(小説『宇宙大作戦-スタートレック8・ファーストコンタクト』)以降、ボーグはテクノロジーレベルもそこそこ高く生命力にあふれ活動的な人類の同化を執拗に目論んでいるが、テクノロジーや正面決戦ではボーグの優位は明らかであるにも関わらず、これまでの所はウルフ359の戦いで艦隊に大打撃を与えたことを除けば、小規模なコロニー単位の制圧以上に大きな成果は得られておらず、逆に新たに伸ばした勢力部分を集中的に攻められて後退を余儀なくされるなど、一進一退を繰り返している。
- 豊かな個性や強い意志、あるいは他種族ともうまく連携して継続的かつ多彩な方法で挑んでくる人類は、個性を持たないボーグにとって、ある意味では生命体8472のような圧倒的かつ単純な力押しで巻き返してくる相手よりも厄介な存在と言えるのかもしれない。なお人類とボーグ・ドローンとの接触では、上に述べたブルー(ヒュー)のように逆に影響されてしまったり、もしくはボーグ社会から孤立状態にあるドローン集団への援助を行ったりといった奇妙な相互関係も発生、この辺りがボーグの画一的な他勢力への対応では処理できない部分となっている様子も見られる。
物理的な技術を持ってボーグを撃退したのは、今のところは惑星連邦と生命体8472だけである。特にDS9以降では、ディファイアント級およびソブレイン(ソヴェリン)級航宙艦やパルスフェイザー、量子魚雷などの対ボーグ技術が多く登場している。
[編集] 関連項目
- しばしば同作品ファン筋からは、ボーグの血色の悪さと妙な動きとにより、「機械ゾンビ」だなどとも言われる。