ハッカー文化
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ハッカー文化(はっかーぶんか)とは、主にアメリカの学生やコンピュータ技術者を中心に引き継がれている、テクノ・サブカルチャーである。特にハッカー人種が好む他の文化媒体を含むこともあり、コンピュータ関連の製品や技術の名称に、オカルト・コメディ・ジョーク等からの引用が見られる事もある。
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[編集] 概略
ハッカーとはコンピュータや電気回路一般について常人より深い技術的知識を持ち、その知識を利用して技術的な課題に対して最小限の手間で最大の効果を生み出す人々のことである。たとえばコンピュータに没頭して熱心にプログラムを組む者などはハッカーと呼ばれる。それらの人々は、概ね平均的なアメリカ国内のサブカルチャーへの興味が見られる一方、ある種独特の矜持・嗜好・ライフスタイルを伝統的に引き継いでいる。この文化形態の発生にはコンピュータが欠かせない事もあり、その遷移はしばしばコンピュータ史と不可分である。
ちなみに電子・情報処理技術に傾倒するHackerの他に、工学技術でも電子・電気工作に傾倒する向きをGeek(ギーク)と呼ぶが、これらもいわゆるHackerの一員と見なされる。
なお現在、マスメディア上で「コンピュータを使い、不正侵入や改竄を繰り返す人」という意味で使われている表現である所のハッカーもまた、これら文化を踏襲しようとしているが、元々の意味でのハッカーからは「低俗で、似て非なる、鼻持ちならない、ただの跳ね返り」と忌み嫌われ、クラッカー(注1)やスクリプトキディ(注2)という蔑称を与えられたりしている。だがそれらクラッカー等も、ハッカーを標榜し、その文化に依存している事もあり、彼らもまた、ハッカー文化の担い手である。
- 注1
- Crack=「砕く・欠く・こじ開ける」という意味から、何等かの完成された存在やプログラムを、壊したり台無しにして中身を盗もうとする輩を指した人間類型
- 注2
- 他人の作ったクラックツールを悪用してコンピュータの不正操作を行う輩を指した人間類型。ツール使い
[編集] 特徴と傾向
ハッカー文化の最も特徴的な一端は、非常に直感的である事を良しとする部分である。例えば同じ動作をするプログラムを作るにしても、直感的に・感性でプログラムを興し、それを元に発展させていく。今日の大規模なプログラム開発では、このような手法は共同作業する同僚や、後々メンテナンスする他人に、余計な労力を強いる事にも繋がるため、一般には非能率的であると推奨されない方法論ではあるが、個人的な興味で一人、または同好の士が少人数にてプログラムを製作する際に驚異的な能率を発揮する。
この過程を経て、直感(程度によっては霊感と形容しても良い)的で優秀なハッカーは神格化され、そのライフスタイルは触発された他のハッカーに伝染する。詰まる所強烈な個性に起因する優秀なハッカーのライフスタイルは、1960年代のヒッピー文化の影響や1970年代のテレビのシリーズドラマによって顕著な方向付けが成されている事も多く、時に非常にマイナーなサブカルチャー文化が異常に盛り上がりを見せることもある。
その一方で、ハッカー文化の根底には、親切でおおらかな博愛精神が脈々と息づいており、時に宗教的ですらある。その原因は、他人に影響を与え得るハッカーの多くが、その実において人間的にも親しみやすく、技術を独占するよりも広く共有して、皆で大いに楽しみたいとする奔放さを持っている事にあると思われる。
往々にして意固地で他人の知識を吸収しても他人には与えたがらない種類な人間のライフスタイルは、他人の嗜好の問題から単純に広まり難いだけではなく、そのような人間の周りには人も金も知恵も集まらずに素通りしてしまうために能力的上限が発生して、あまり注目されない結果に陥る可能性も考えられ、結果として選択的に博愛精神が培われたと思われる。
なお、おおらかな奔放さが、逆に問題を起こす傾向を含むのも否定しきれず、実際問題としては、社会的道義を逸脱して自己の知識欲を追求した結果、公共のコンピュータシステムにダメージを与えてしまったり、セキュリティ上の欠陥を証明して見せるために、企業サーバ内の非公開情報を公開してしまい、企業と係争関係に陥るハッカーも居る。2001年には米国内でも著名な放浪ハッカーであるエイドリアン・ラモが、複数企業のWebサーバに侵入、その問題点と改善方法を企業側に提供するという事件を起こした。同事件に関して、一部のネット関連企業は感謝の意思すら表明したほどだが、ニューヨーク・タイムス・デジタル社が、自社社員やコラムニストの個人情報にアクセス可能な部分にまで侵入していた事で訴え出て、FBIから逮捕状が出される事態となった。後にラモは保釈金を支払って保釈されている。
日本では、サイバー・ノーガード戦法と揶揄されるに至ったコンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)の個人情報漏洩事件において漏洩状況をカンファレンス上で実データを公開してしまった研究者や、ファイル交換ソフトウェアのWinnyを制作・配付した作者が著作権侵害幇助に問われたことから技術手法の開拓と司法上の責任に関して議論となり、通信・情報処理技術者などを巻き込んで検察側と全面対立、また同ソフトウェアのネットワークに依存するマルウェア(ワームプログラムの一種・Antinny参照)の蔓延に伴う個人情報漏洩事件の多発で社会問題化したケースが知られている。
[編集] 類型
一般にハッカーと広く目される人には、一定の顕著な共通点が見出される。
[編集] 趣味
気分転換に思い切った活動をする優れたハッカーも多く、そのライフスタイルは多くのハッカーに感銘を与えている。料理・サイクリング・家の修理(ペンキ塗り等)・庭弄りといった素朴な気分転換を好むハッカーは多い。
[編集] 社会性
アメリカでは様々な趣味嗜好に関するコンベンションが開催されているが、これらコンベンションへの参加は、ハッカー人種にとっては重要視されるイベントである。中にはこのコンベンションに参加するためだけに、大陸横断ヒッチハイクを行うハッカー人種もある程で、このコンベンション好き気質は、アメリカ以外のハッカー文化にも顕著に見られる(日本国内も同様である)。これらコンベンションでは、非常に多岐に渡る交流が行われ、この際に取り交わされた口約束から、ハイテク関連企業が勃興する事も珍しくはない。
[編集] 関連文化
- サブカルチャー
- ヒッピー文化
- 1970年代から1980年代に掛けて活躍し、現在では指導的立場に居るグルやウィザードの敬称をもって語られるハッカーには、当時大学において盛んに持て囃されたヒッピー文化の影響を色濃く受けた者も少なくない。
- モンティパイソン
- モンティパイソンのコメディネタを引用した技術用語としてspamが広く使われるなど、ハッカー文化や情報処理技術の発展に、少なからぬ影響を与えている。またプログラム言語のPythonは、このコメディグループ名から来ている。
- おたく
- 日本のおたく文化は、非常にコンピュータ方面との親和性が高く、日本のハッカー文化には、多分におたく文化の影響が散見される。
[編集] 関連項目
- スパム (メール)
- スパム(食品の商標:一般名はランチョンミート)
- UNIX
- マサチューセッツ工科大学(MIT)
- MITの学生による人騒がせな「ハック」と呼ばれるいたずらはよく知られるところである。
- 『計算機プログラムの構造と解釈』。MITのプログラミング入門講義で使われる古典的教科書。ジャーゴンファイルにも掲載されるほどハッカーに愛好され、知らない者はもぐりとされる。
- カリフォルニア大学バークレー校(UCB)
- MITやUCBは、UNIX(後にバークレーUNIX=BSD系統と呼ばれる)の発生において重要な拠点となったこともあり、著名なコンピュータ技術者や優秀なハッカーを輩出させている。ハッカー文化には多分に、これらの(特にバークレー校のおおらかな)気風や学生気質が影響している。
- RFC
- LifeHack
- 優れたハッカーやギークの作業面でのスタイルが他のハッカーやギークに注目された現象。
- 先割れスプーン(spork) - これで刺したり刺されたりといった話が欧米圏のチャット上に決まりジョークとして存在する。
- 聖イグヌチウス(聖イGNUチウス)
[編集] 関連文書
1970年代初期に生まれたジャーゴンファイルは、変遷するハッカー文化の中で特別な役割を果たしてきた。また、多くの教本・文学作品が学術的ハッカー文化を形作ってきた。その中でも影響の大きかったものを以下に挙げる。
- 『ハッカーズ』, スティーブン・レビー
- 『ゲーデル, エッシャー, バッハ』, ダグラス・ホフスタッター
- 『The Art of Computer Programming』, ドナルド・クヌース
- 『人月の神話』, フレデリック・ブルックス
- 『コンパイラ-原理・技法・ツール』, アルフレッド・エイホ, ラビ・セシィ, ジェフリー・ウルマン
- 『Structure and Interpretation of Computer Programs』, Harold Abelson, Gerald Jay Sussman, Julie Sussman
- 『プログラミング言語C』, ブライアン・カーニハン, デニス・リッチー
- 『銀河ヒッチハイク・ガイド』, ダグラス・アダムス
- 『The Tao of Programming』, Geoffrey James
- 『ピラミッドからのぞく目』, ロバート・シェイ, ロバート・A.ウィルスン
- 『Principia Discordia』, Greg Hill, KerryThornley
- 『超マシン誕生』, トレイシー・キダー
- 『カッコウはコンピューターに卵を産む』, クリフォード・ストール
- 『The Unix System』, スティーブン・ボーン
- 『ハッカーと画家』, ポール・グレアム