ナノマシン
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ナノマシン(Nanomachine)は、0.1~100nmサイズの機械装置。ナノとは10-9を意味する接頭辞であるため、細菌や細胞よりもひとまわり小さいウイルス(10nm~100nm)サイズの機械といえる。ナノ・マシンは機械的動作を重視しているが、微小な回路形成など機械的動作を含まないより一般的な技術をナノテクノロジーと呼ぶ。
この程度のサイズになると、切削加工などで部品を製造することは不可能になる。現状ではリソグラフィー技術を用いて製造し、歯車からモーター程度の機械的部品の試作に成功している。機械部品の形状を備えた有機分子の設計が必要だと考えられている。
フィクションの中には、しばしばナノマシンを無から有を作り出す便利な小道具として登場させるものもあるが、現実のナノマシンはもちろんエネルギー保存の法則を破るものではない。また元素の変成も困難であるため、必要な材料元素は用意する必要がある。しかしその材料が極めて安価あるいは不要物であれば、ある意味無から有を作り出せると言える。
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[編集] ナノマシンの歴史
ナノマシンの概念を最初に取り上げたのは米国の物理学者リチャード・ファインマンである。1959年にカリフォルニア工科大学において「原子レベルには発展の余地がある(There's Plenty of Room at the Bottom)」と題する講演を行った。ファインマンの考え方は、一般的な工具一式を用いて、1/4サイズの工具一式を作り、加工した工具を使って1/16サイズの工具を作り、という作業を分子レベルに至るまで続けるというものであり、トップダウン的といえる。ファインマンは、ブリタニカ百科事典全巻を針の先に収めることや、原子の並べ替えなどを目標に挙げている。
ファインマンの方針はそのままの形では生かせないことが分かっている。なぜなら、通常の機械装置で重要な働きを示す重力や摩擦力の影響が薄れる一方、表面張力やより一般的なファン・デル・ワールス力、さらに量子力学的効果などが発生するため、同じ縮尺の機械では動作しなくなるからである。ナノ・サイズを対象とする新しい機械工学自体をまず開発しなければならない。
1974年にナノテクノロジーという造語を作ったのは、東京理科大学の谷口紀男である。谷口はナノメートル・サイズの機械部品について論じた。
1980年代に入り、キム・エリック・ドレクスラーがナノマシンの概念を拡張した。1986年には著書「Engines of Creation: The Coming Era of Nanotechnology」(邦訳、創造する機械-ナノテクノロジー)では、「石炭とダイヤモンド、砂(シリコン)とコンピュータ・チップ、ガンと正常組織の違いは原子の配列だけであり、配列の違いが価値を生む」として、ナノマシンによるバラ色の未来を描いた。ドレクスラーのナノマシンでは部品の形状を取った単一の分子の組み合わせを想定している。
2000年1月には、ビル・クリントン米大統領が国家的なナノ・テクノロジーの立ち上げを提唱。ファインマンの講演を発展し、米国議会図書館の蔵書を角砂糖1個分の容積に収めること、分子機械によるガン細胞の検出などを目標とした。
[編集] ナノマシンの危険性
ナノマシンには固有の危険性がある。特に自己増殖するナノマシンについては懸念がある。ドレクスラーの著書にも環境や人体内部の不要な物質から必要に応じて自己の複製物を作るナノマシンが扱われている。工場であらかじめナノマシンを製造するよりも、安上がりだからだ。炭素やケイ素を主要な素材として自己複製するナノマシンがあるとする。もし、自己複製時のプログラム・エラーなどにより暴走した場合、増殖が止まらなくなる可能性がある。ナノマシンは幾何級数的に個体数を増やすため、数時間のうちに地球全体がナノマシンの灰色の塊である「グレイ・グー(Grey goo)」に変化してしまうという危険性が指摘されている。これは危険なウイルスや細菌を用いる生物兵器よりも脅威となりうる。
しかし、グレイ・グーの可能性については疑問を唱える者もいる。もし化学的に地球上の全ての生き物を分解することができるのなら、自然のナノマシンとも言えるバクテリアが40億年の進化の過程でなぜそのような現象を起こしてグリーン・グー(Green goo)をつくり出さなかったのか、などということがよく言われる。
グレイ・グーを否定する科学者もいる。1996年にノーベル化学賞を受けたハロルド・クロトーは、チャールズ皇太子が表明したグレイ・グーへの懸念に対して「まったく現実とかけ離れている」と批判したと伝えられる。
グレイ・グーの概念を提唱したドレクスラー自身、2004年にイギリスBBCへのインタビューに答えてグレイ・グーは実際にはありそうもないことだと述べている。
一方要人暗殺等、テロに使用される懸念も高まりつつある。もし使用された場合、これまでの検視方法では検出不可能である。また、ナノマシンは犯行後体外に排泄されるようにプログラムすると予想され、凶器であるナノマシンは肉眼で確認できず、確認には高価な電子顕微鏡が必要なため、事件として立件することも非常に困難になってくる。
[編集] ナノマシンが登場するフィクション
[編集] 小説
- 「無限アセンブラ」(ケヴィン・J・アンダースン&ダグ・ビースン)
- 「極微機械ボーアメーカー」(リンダ・ナガタ)
- 「PREY」(マイケル・クライトン)
- 「ナノハザード」(半田克己)
- 「レフトハンド」(中井拓志)
- 「ブラッド・ミュージック」(グレッグ・ベア):登場する新生物ヌーサイトは一種のナノマシンと言え、グレイ・グー的結末が描かれる。
- 「終わりなき平和」(ジョー・ホールドマン):ナノテクノロジーで元素材料からあらゆる物を作り出す「ナノ鍛造機」が登場する。
- 「トリニティ・ブラッド」(吉田直):主人公は体内のナノマシンを起動し「クルースニク」(吸血鬼の血を吸う吸血鬼)となる。
- 「交響詩篇エウレカセブン」(杉原智則):小説版にのみ登場。
- 「女王天使」「火星転移」(グレッグ・ベア)
- 「斜線都市」(グレッグ・ベア)
- 「虐殺器官」(伊藤 計劃)
- 「誰も死なない世界」(ジェイムズ・L・ハルペリン):主人公ベンジャミン・スミスは、自分の体を冷凍保存クライオニクスし、83年後・・その時代に生まれたナノマシンにより、破壊された細胞を修復され蘇生する。
[編集] ドラマ・映画
- スタートレックシリーズ全般(ボーグ・インプラントやナノプローブ)
- スターゲイト SG-1, スターゲイト アトランティスシリーズ(ナノマシンの集合体であるレプリケーター)
- 仮面ライダー THE NEXT:「ナノロボット」の名前で登場。本作に登場する仮面ライダーV3(風見志郎)を初めとする各ショッカー怪人の改造に用いられている。
- 13日の金曜日 PART10:ジェイソンX
- ドクター・フー
[編集] テレビゲーム・漫画・アニメ(メディアミックス)
- ブレーメンII(川原泉)(漫画)
- 「サイバーナイト」シリーズ(山本弘)(小説+テレビゲーム)
- R-TYPE FINAL
- メタルギアシリーズ
- ゼノギアス(スクウェア:1998)
- ゼノサーガ(ナムコ:2002.2004)
- BLACK CAT(矢吹健太朗)
- ARMS(皆川亮二)
- 銃夢(木城ゆきと)
- 攻殻機動隊(士郎正宗)- 電脳を始めナノマシンの技術が一般化している。
- 砲神エグザクソン(園田健一)
- ふたば君チェンジ(あろひろし)- 主人公の祖先が乗ってきた宇宙船はナノマシンによる自己修復機能をもつ。
- GANTZ(奥浩哉)
- 救命戦士ナノセイバー(実写+アニメ)
- ∀ガンダム- 作品内の月光蝶システムが地球上の文明をすべて砂に変えた、という歴史が語られる。劇中では他にもナノマシン技術が使われている。
- ルパン三世 DEAD OR ALIVE(アニメ)
- ルパン三世Y(モンキー・パンチ、山上正月)- 『銭形の最も危険な日』に登場。「ナノス」と呼ばれる。人工免疫体だが人間並の大きさになり、住民等を殺傷し、銭形警部に襲い掛かって行く。また、ケイ素等を吸収し、成長が進むにつれ、姿がルパンに近付く。
- Re:キューティーハニー(アニメ)
- ギャラクシーエンジェル
- Cowboy Bebop(アニメ)
- ワイルドアームズシリーズ- 3rdおよび4thにて環境改善用として登場。4thではこれを用いた兵器「ARM」(Ambient Reorganization Material)が登場している。
- 無人惑星サヴァイヴ(アニメ)
- 舞-乙HiME
- 機動戦艦ナデシコ
- Call to Power II
- エースコンバット3(ナムコ) - ゲーム中はナノバイトという名前で出ている。それが暴走して、登場人物の命が危険に晒される。
- タキオン・フィンク(漫画、樹崎聖)
- カウンターストライクNEO - 血液中を流れる生体機械。人間の脳に影響を及ぼし、感情を統御する。
- スカイガールズ
- DT Lords of Genomes(ゲーム)
- カスタムロボGX(ゲーム)- 「旅立ち編」で登場する"ニカイドウグループ"の人間と、それに関係する闇コマンダーがダイブの能力の強化などの目的で体内に入れている。
[編集] 関連項目
- ナノテクノロジー
- カーボンナノチューブ
- ウイルス …ウイルスは天然のナノマシンであるという説がある。
- 自己複製
- マイクロボット