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PACS - Wikipedia

PACS

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

PACS(パックス)とは、1977年京都大学原子力研究所の助教授であった星野力へ、当時日立製作所の川合敏雄が当時普及し始めたマイクロプロセッサを使ったアレイ型計算機の構築提案を行ったことがきっかけで始まった物理学専用計算機の略称。

なお、星野の論文から「Processor Array for Continuum Simulation(連続体シミュレーションのためのプロセッサ・アレイ)だったが,某雑誌に「連続体の計算以外には無能」と書かれたので,PAX(Processor Array eXperiment, プロセッサ・アレイ実験)と改名することに至った」とある。

目次

[編集] 概要

当初の目的は、原子炉の炉心内における核熱水力現象をシミュレートする炉心シミュレータとしての開発にあった。実際は、このような処理を行うには既存の一般的な汎用機でも可能ではあったのだが、開発主担当であった星野の回想によれば、ILLIAC IVのような並列計算機を作ってみたいという夢から始まったものである。

PACSシリーズそのものは、完全な専用計算機でなく多目的汎用計算機となった。名称から推察できるように、連続体のシミュレーションを主な応用とするが、それ以外のアプリケーションにおいても高性能を出すことになった。その理由を突き詰めると、隣接するCPU間をトーラス型トポロジーで繋ぐ隣接結合2次元トーラス型アーキテクチャを採用していたためである。それ以降、この近接作用を重視するアーキテクチャは、IBMBlue Geneシリーズや日立製作所のHPCシリーズ等でも用いられている。

具体的には、内部バスがそのままプロセッサ間通信用共有メモリへ接続され、それによるバンド幅(帯域幅)の広さと、自然の近接作用をそのままプロセッサ・アレイ上に投影するという直接写像処理方式が、PACS特有の哲学であり、高効率の秘密だった。

現在、多くの高性能を発揮しているHPC群でも同じようなアーキテクチャを採用しており、現在も継続して進められている研究開発は内部バス幅を拡大し、いかにしてメモリ間と分散CPU間との通信帯域幅を保持するのかという点である。これは、フォン・ノイマンが、現在のコンピュータアーキテクチャを提唱した時から知られているフォン・ノイマン・ボトルネックを解消するための最善の方法と考えられている。

[編集] 歴史

表 PACSシリーズの系譜

製作年 名称 理論演算性能 CPU数 使用OS 提供ベンダ 仕様作成元 研究補助 備考
1978年 PACS-9 7KFLOPS 9 京都大学 原子エネルギー研究所 校費 最初の試作機。ラッピング等で製作。
1980年 PACS-32 0.5MFLOPS 32 京都大学 原子エネルギー研究所 校費 32台のマイクロプロセッサを搭載した最初の実用機。
1983年 PACS-128 4MFLOPS 128 筑波大学 第3学群 星野研究室 校費・科研費 PACS-32のクロックを2倍に、台数を4倍にしたマシン。
1984年 PACS-32J 3MFLOPS 32 三井造船 筑波大学 第3学群 星野研究室 科研費 製品型。慶應義塾大学筑波大学での並列プログラミング研究に生かされた。新技術開発事業団の委託で三井造船が開発した商用機「MiPAX」は慶應義塾大学等に納入された。
1989年 QCDPAX 14GFLOPS 480 アンリツ 筑波大学 計算物理学研究センター 文部科学省 科研費(特別推進) 量子色力学専用計算機として開発。特に、格子量子力学計算に成果を残す。
1996年 CP-PACS 614GFLOPS 2048 mach3.0カーネル+OSF/1(HI-UXベース) 日立製作所 筑波大学 計算物理学研究センター 文部科学省 研究助成費 CPは、Computational Physicsの略。商用機「SR-2201」はRWCP,東京大学等に納入された。
2006年 PACS-CS 14.3TFLOPS 2560 Linux/SCore 日立製作所,富士通 筑波大学 計算科学研究センター 文部科学省 研究助成費 CSは、Computational Sciencesの略。

ハイパクロスバ結合によるXeonクラスタ

PACSシリーズはユーザオリエンテッドな評価によって確立されたシリーズであり、並列ソフトウエア研究開発の流れを作ったマシンとして、現在はボードの一部、資料、日誌、さらにはQCDPAXとCP-PACSが国立科学博物館に収蔵されている。

これらは、純粋にILLIAC IVの流れを汲む国産並列計算機として、マイクロプロセッサを活用した国産並列機の歴史資料として非常に重要である。実際にこれらの試作機があったからこそ現在の国産HPCの系譜があり、現在の研究開発へと繋がっている。

もし、当時のILLIAC IVをきちんと評価するなら、当時の半導体設計や半導体プロセスがまだICからLSIへ移りつつある時代で技術的に目標を実現できるレベルになかった。またその結果、当初の夢は実現が難しく、大きな挑戦であった。 しかし、表面上の結果としては失敗であっても、その哲学は間違っていなかったことは現在のHPCのトレンドが物語っている。

コンピュータ設計では、デバイスの設計によって、第0世代(解析機関からリレー式まで)、第1世代(真空管)、第1.5世代(パラメトロンコア)、第2世代(トランジスタ)、第3世代(IC)、第4世代(LSI)と区分されている。現在は、敢えて言えば4.5世代に相当する。つまり、量子コンピュータ超伝導コンピュータが一般実用化されれば、それが第5世代と呼ばれるようになるかも知れない。

[編集] 参考文献

  • 情報処理学会誌
  • IEEE micro

[編集] 注記

Note.1)隣接2次元トーラス型接続とは、隣接CPU間をトーラスバス(Blue Geneシリーズでは、PowerPC CPUに専用のポートを設けることによって実現)によって接続し、パイプライン演算を効率良く行う仕組みのこと。具体的には、CPUの演算処理が終了すると、同時に隣接するCPUへ結果を受け渡すことによってSIMD型のベクトルプロセッサを構築している。なお、MIMD型のアーキテクチャーとしても変更可能。

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク


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