MadV
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MadV(マッドヴィー 生年月日不詳)は2006年4月11日よりYouTubeに投稿を行っている匿名のヴィデオ演出家、イリュージョニスト。画面に登場する際はアラン・ムーア作のグラフィック・ノヴェル、『V・フォー・ヴァンデッタ』で広く知られるようになったガイ・フォークスの仮面のレプリカを着けている。彼が名乗るキャラクター名の"V"はこの本から由来している。ヴィデオでは一貫して寡黙なイリュージョニストとして振舞い続け、各種の奇術やありえない手わざを無言のままに披露する。また、一時YouTubeへの投稿を止めていた時期があったが、これはテレビの仕事でキャリアを積むためだったといわれている。彼の名をより高めたのは、おそらくヴィデオ"One World"(投稿日2006年11月16日)で起こした波及力の強いキャンペーンにおいてだった。この一編はYouTubeで、これまで最もヴィデオ・レスポンスを得たヴィデオの地位を獲得している。
彼のヴィデオはこれまでに、YouTubeトップ・ページの"featured video"で2回採り上げられ、「YouTube・ヴィデオ・アウォード・2006」では「最も創造性の高いヴィデオ」部門で候補になっている。
またDirecTVの番組『ザ・フィズ』、MTVのウェブサイト、ペプシ提供のウェブサイト『ザ・9・オン・ヤフー!』でも彼の映像が採り上げられたことがある。
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[編集] 披露したイリュージョン
MadVはイリュージョンを収めた11本ものヴィデオ全てを1か月間のあいだに投稿した後、彼のファンたちに別れの挨拶を送るヴィデオを差し出した。下記に語られているオーディオ・トラックの情報は、彼の〔YouTube上のチャンネル・ページにある〕プレイリストに記されたものを正確に書き写している。
1. "Mad Guitar Solo"(『イカレたギター・ソロ』 投稿日2006年4月11日、45秒) 彼の名で出された最初の投稿で、ここではアコースティック・ギターを用いて、レッド・ツェッペリンの『ハートブレイカー』に合わせた弾き真似をしている。
2. "Mad Air Guitar Solo"(『イカレたエアギター・ソロ』 投稿日2006年4月12日、23秒) MadVはジャスティン・ティンバーレイクの曲『ライク・アイ・ラヴ・ユー』リミックス・ヴァージョンに合わせてギターをかき鳴らし、ドラムを叩く振りをしてみせる。
3. "Anti-Gravity "(『反-重力』 投稿日2006年4月13日、24秒) 元の題名は"Teh Maddest Skillz Ever!!"(『ありえないイカレ技!!』)といったが、このヴィデオがMadV人気の突破口となった。ここで彼は一枚のカードを宙に浮かび上がらせて、軌道を操作しているかのように手元に戻す手わざを見せる。MadVはこの時点から彼の作品の特徴と意匠を確立させたのだといえる。ヴィデオはYouTubeトップ・ページに採り上げられ、200万回以上視聴され、彼を模倣するおびただしい物真似作品を生んだ。背景音楽は、映画『レクイエム・フォー・ドリーム』のサウンドトラックに収められているクリント・マンセルの曲から取られている。
4. "The Third Best Card Trick Ever"(『出来のいい順で3番目のカード・トリック』 投稿日2006年4月13日、32秒) 元の題名は"Teh Maddest Skillz Yet!!"(『まだまだ続くイカレ技!!』)だった。ここでMadVは、何枚ものカードを次々に空中から取り出してみせては、投げ捨てていく。最後にはサングラスさえひとつ引っ張り出してみせる。背景音楽はネイキッド・ファンクの『ドント・タッチ・ドウェイン・ベリー』が使われている。
5. "Black Floater"(『黒の浮遊物体』 投稿日2006年4月14日、27秒) MadVは小さな黒い球を空中に浮かび上がらせる。音楽はレフトフィールドの『リリース・ザ・プレッシャー』。
6. "Where's Your Head At?"(『君、アタマどうかしちゃったの?』 投稿日2006年4月17日、20秒) MadVは今回、自分が着けている仮面をはずしてみせるが、見る限り、そこにあるべきはずの頭がない。いつも被っているフードの中は、ただの空虚な暗がりがあるばかりである。音楽はフィルターによる『ヘイ・マン・ナイス・ショット』(ニッケル・バッグ・ミックス)が使われている。
7. "The Brain"(『秀才とは』 投稿日2006年4月18日、28秒) MadVは本のページを触れることなしに手繰ってみせる。音楽はTVアニメ『ピンキー・アンド・ザ・ブレイン』の挿入歌から取られている。
8. "Don't Try This At Home"(『お家でやってはいけないよ』 投稿日2006年4月20日、30秒) 今回のMadVは見たところ、ハサミで自分の手の親指を関節あたりから切り離してしまったらしい。(もちろん、後のヴィデオで彼の親指が無傷のままなのを見て取れる)。音楽はクリント・マンセルの『PiR2』。
9. "String Theory"(『弦理論』 投稿日2006年4月28日、30秒) MadVは玩んでいた一枚のカードを正面に差し出すように宙に浮かしてみせ、回転し続けるカードの上方と下方に腕をかざしてみせる。音楽はフィルターの『トリップ・ライク・アイ・ドゥ』。
10. "Unplugged"(『繋げずに』 投稿日2006年5月5日、24秒) MadVはここでは持っていたiPodに両手のひらでふたをして、消失させてしまう。音楽はミスター・オイゾーの『フラット・ビート』。
11. "The Fix"(『修理』 投稿日2006年5月8日、19秒) MadVは今回、手にしていた曲がったスプーンを念力でまっすぐに直してしまう。音楽はシガー・ロスの『スタラルファー』。
[編集] "Goodbye"
"Goodbye"(『さようなら』 投稿日2006年5月9日、2分17秒)。音楽はモグワイの「アシッド・フード」が使われている。
YouTubeでの約1か月間の参加の後、MadVは自身がテレビ制作会社に雇われたことを告げるこのヴィデオを投稿した。
-引用-(この文章はヴィデオ脇のキャプション欄に書き込まれていたが、今では削除されている。)
「ここ数週間は大した日々だった。最初は冗談で始めたことが、こんなにたくさんの人と繋がりを持つまでに成り代わっていったんだからね。4週間の間にインターネットで口コミが広まり続けたおかげで、僕は今しがたTVの制作会社との契約書にサインするまでになってしまった。そんな訳で、もうMadVとしてYouTubeにい続ける訳にはいかなくなった。ここで、意義のある仕方で『さようなら』を言ってみたいんだ。… ファンの人たちから寄せてもらったコメントや賛辞のヴィデオ、あれこれの献身にも、まだしっかり感謝の気持ちを伝えられてないからね。君らはほんとにすごいよ。僕は多くを学べたと思っているし、君たちもそうであったらいいと思う。今度のようなやり方は楽しめた。ここでもしお許し願えるのなら、意見をひとつ言わせてもらいたい。僕らはこの世界を形作る全ての部分の集まりなんだ、だから互いを尊敬しあおう。もの言う機会に恵まれたときは、より良く伝えるべきなんだ。いつもの流儀を忘れてヘイターたち〔haters 妬みから他人に嫌がらせをする人々の総称。YouTubeではコメント欄に多く出没する。〕に変わらないよう、気をつけなくちゃいけない。自分はならなかったけどね。本当!僕はここを離れて、新鮮で晴れやかな仕事に向かう。元気よく行こうぜ!サニエル(またはMadV)」
この別れの挨拶を送った時から、後に"One World"による復帰までの間、MadVが契約を交わしていたという会社は、イーフーフ・ドットコムeefoof.comのことだと推測する事ができる。これは当時、YouTubeと張り合う形で新規に立ち上げられたヴィデオ共有サイトだった。彼はただのユーザーとしてだけではなく、フォーラムとコンテンツに関する調停役を務める形で姿を現していた。このサイトは後にヴューム・ドットコムvume.comという名前に切り替わり、彼のアカウントやその活動の痕跡は見つけられなくなってしまった。
[編集] "One World"
2006年11月16日、YouTubeから6か月あまりに渡る「離別」の後に、MadVは"One World"(『一なる世界』 40秒)と題されたヴィデオを投稿した。背景音楽には、シガー・ロスの『メズ・ブローズナースィル 』が使われていた。この作品では、彼の扮するいつものキャラクターが手をカメラ正面に向けてかざすのだが、その手のひらには黒インクで"One World"と書き上げられている。続いて現れる字幕にはこうある。
「これは招待だ。立場を明確にするため、呼びかけるべき言葉を作るため、個性を確立する行いへの招待なんだ。参加しよう。良き行いの一員となろう。君の返答を今すぐに投稿するんだ。」 この字幕には続けて2006年12月4日を表す 日付、"4/12/06"(通常ヨーロッパで使用されている書式)が記されていた。〔彼の持ちかけるイヴェントの〕終了日か、またはヴィデオ・レスポンス受付の締切日を意味しているようだった。
ヴィデオ"One World"は即座にYouTubeのトップ・ページに採り上げられた。ヴィデオがもたらした影響は雪だるま式に膨れ上がり、世界中のYouTubeユーザーたちが「手のひらに一言書き入れる」ことだけを共通項としたヴィデオ・レスポンスの投稿を行った。波及効果の強いたった一本きりのヴィデオは、インターネット上かつてない応答数を記録して際立つ存在となり、YouTubeでの「最も返答が多かったヴィデオ」ランクでも歴代一位〔2007年7月30日現在で2257本〕の座を得ることになった。
このヴィデオがもたらす沈黙裏の影響は、MTVをも捉えた。MadVの映像はMTV・オンライン・ニュースの、2008年度の大統領選候補を扱ったレポート中に登場した。また『ザ・9・オン・ヤフー!』でも採り上げられている。
"One World"キャンペーンはまた、新しく興された慈善のためのウェブサイト、ハンドメッセージ・ドットコムHandMessages.comにも影響を与えている。ここでは一般メンバーに対して、手のひらにメッセージを書き付けて投稿するよう呼びかけられているが、MadVがこのサイトにどの程度の関わりを持っているのかは、今のところはっきりしていない。
2006年12月22日、MadVはヴィデオ、"The Message"(『声明』4分12秒)を投稿した。"One World"で呼びかけに応じた数々のヴィデオ・レスポンスを編集したものだった。背景音楽にはモグワイの『キッズ・ウィル・ビー・スケルトンズ』が用いられている。ここではYouTubeユーザーたちが寄せた、全ての人種間の愛や理解といった共通するテーマについての声明の集積から、感動的な一編が構成されている。
[編集] 削除されたヴィデオ
MadVがYouTube上でわずかの期間のみ公表していたヴィデオが2本ある。
1. "To the haters"(『ヘイターたちへ』 投稿日2006年4月12日)では、いつものキャラクターに扮した彼が「エアギター」を披露するが、ここでは例外的なことに、演奏の最中、YouTube上で跋扈する「ヘイターたち」に反対する語りを入れている。ヴィデオで伺える彼のアクセントは、典型的なアメリカ西海岸在住者のものだ。この作品はMadV自身の手で削除されてからも、別のYouTubeユーザー、Zerhynnによって再度アップロードされている。
2. "Let there be loVe"(『愛があるといいね』 投稿日2007年2月13日)で彼はピアノを用いて、元はナット・キング・コールが歌い広めた一曲、『レット・ゼア・ビー・ラヴ』の編曲版を弾いている。このヴィデオに添えられたキャプションにはこうある。「収録は午前3時30分、彼女が2階で眠っている隙に。みんな、いいバレンタインデーを。」 このヴィデオも彼自身の手で削除された。
[編集] 共同作品
MadVはYouTube上で、ユーザーたちによって共同制作された2本のミュージカル・ヴィデオに出演している。
1. "Imagine" ジョン・レノンの曲、『イマジン』を題材に、〔曲に合わせてリップシンクする人々の映像を〕bowiechick〔メロディ・オリヴェリア〕が収集し、まとめ上げたもの。投稿日は2006年6月12日。MadVはここではイントロ部でドラムを叩く振りをしてみせる。
2. "Bohemian Rhapsody" クイーンの曲、『ボヘミアン・ラプソディ』を〔上記の曲と同様に〕MattyMJ2007がまとめたもの。投稿日は2006年12月12日。MadVはリードギター部を担当している。
[編集] 帰還の可能性
MadVは"One World"へのヴィデオ・レスポンスに対して、寄せられた時期がかなり遅いものにもコメントを残している。また彼のログイン記録から、今でも不規則な頻度でログインを行っていることが見て取れる。これらの手がかりから、彼が〔サイトから決別したわけではなく〕ただヴィデオのアップロードを控えているだけなのだと推測できるだろう。
[編集] 外部リンク
- MadV's Channel 公式 YouTube チャンネル