AO入試
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AO入試(えーおーにゅうし、アドミッションズ・オフィス入試)は、出願者自身の人物像を学校側の求める学生像(アドミッション・ポリシー)と照らし合わせて合否を決める入試方法である。学力試験の得点で合否が決まる従来の一般入試とは異なり、志望理由書や面接などにより出願者の個性や適性に対して多面的な評価を試みる点に特色がある。同様の選抜形式が一律にAO入試と呼称されているわけではなく、自己推薦入試等、大学により様々な名称が与えられている。この項では主に、日本の大学入試においてのAO入試の諸事情について記す。
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[編集] 概要
その発祥はアメリカ合衆国、カナダやイギリスなどであり、現在もなお盛んに実施されている。
日本では1990年(平成2年)に慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスが最初に導入した。かつては私立大学を中心に実施されて来たが、近年は国公立大学でも採用する学校が増加し、日本における受験の態様は変わりつつある。2006年度、同入試を実施したのは、全国で、国公立49大学(120学部)を含め、約600校に達する。
通常の推薦入試とは異なり、浪人生や社会人であっても出願できるケースが多い。(ただし、原則として高卒または高等学校卒業程度認定試験合格の資格は必要となる)一方で、他の入学試験と比較して長い準備期間を要することが多く、その結果、一般入試との併願は忌避されがちである。受験生は学業成績に加え、部活動の成績やボランティア活動の履歴、個人的な活動(伝統芸能の継承や芸術活動、芸能活動など)を出願時に願書等に記述するなどして申告でき、それが合否の判断材料としても使われる。このため、AO入試での受験を早い段階から意識した学生は部活動の充実や各種個人活動での成果を気にしながらの学校生活を送ることになる。
亜細亜大学等が行ったいわゆる一芸入試とも異なり、学校側は受験者を多面的に評価した末に合否を決定する。そのため、一面だけで秀でていても総合評価で不合格になるケースもある。
[編集] 生徒青田買いとしての運用へ
多くの私立大学において、近年AO入試は青田買いの手段となってしまっている。つまり、推薦入試においては出願が11月以降という決まりがあるが、AO入試にはこの規制がない。青田買いが過熱し、夏休み前に合格者を出すケースも少なくない[1]。[2]
試験実態・学生レベルも、ある首都圏の私立大学教員によると「面接に来た受験生が『ぜひこの大学に入学したい』と言えばたいてい合格を出す。しかし実際は高校教師に言われたまま来た生徒が多い。」、「AOと推薦で定員の9割ほどを埋めた上で残りを一般入試で採る。そうすれば一般入試の競争倍率もそこそこに見える」「入ってきた学生の学力は中学2、3年レベルである。英語なら過去形が分かれば上級コースである。しかし大半はちゃんと就職している。」といった具合である。[3]。
[編集] 評価
出願校のアドミッション・ポリシーに適合しないと見なされた場合その受験者は不合格となるが、このことは学校側が真に入学させたい人材を能動的に選び出すことができるというプラス面と、一般入試と比べて恣意的に合否が決せられるというマイナス面とを二つながら含んでいると言える。
また、一般入試の学生とは学力差のある学生が入学するなど、大学生の質の確保という観点からは全面的に成功しているとは言い難い。現に、一般入試の学生との学力差を埋めるため、「入学前教育」を実施している大学も少なくない。ベネッセコーポレーションが2005年度にAO入試を実施した大学を対象に調査したところ、74%の大学が入学前教育を行っていた[4]。
とは言え、学力試験では評価し難い個性の発掘というAO入試の趣旨を考慮すれば、一般入試合格組との学力差はある程度想定されていたことであり、入試後もしくは入学後に大学からの支援を通じて克服すべき問題に過ぎないという考え方もある。また、新自由主義的競争社会、グローバリゼーション傾向が進む日本の現状に照らして、中長期的視点からクリエイティブな人材を発掘していくことが必須であることも事実である。
一方高等学校からは、AOで合格した生徒が半年間遊んでしまい、一般入試を目指す友人に影響が及ぶ、との批判の声も挙がっている[5]。
[編集] 入試優遇制度
AO入試においても、特技・実績・資格試験取得の有無などを判定材料のひとつとする大学が増えている。特に、出願資格として英語検定、漢字検定、TOEFL、TOEIC、簿記検定などの取得級(例えば○級以上)を申告させるケースも多い。
[編集] 芸能人一芸入試との異同
必ずしも学習意欲が高い、または学習に十分な素地を備えているとは考えにくい芸能人(アイドル)がこの入試制度を利用して知名度の高い大学に入学しているケースがある。人物を多面的に評価するとの名目で芸能人を入学させ、学校の知名度や入学希望者の増進を期待しているのではないかという意見が、制度への批判とともに挙げられることもある。大学の一部では、入学の根拠に疑問がある学生の入学に対し、集団で抗議する動きがみられた[6]
[編集] 脚注
- ^ 『読売新聞』AO入試 青田買い過熱2007年05月02日
- ^ 『読売新聞』2008年5月12日社説
- ^ 『朝日新聞』「AO入試の今 下」 2007年11月19日
- ^ 『毎日新聞』第2部・「全入時代」の幕開け/3 入学前教育 毎日新聞2006年12月6日東京朝刊
- ^ 『朝日新聞』「AO入試の今 下」 2007年11月19日
- ^ 『週刊新潮』1998年7月16日号、『週刊現代』1998年9月26日号、ほか