14歳 (漫画)
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『14歳(フォーティーン)』は、1990年~1995年にかけてビッグコミックスピリッツにおいて連載された、楳図かずおの長編SF漫画作品。2007年現在、本作品を最後として、楳図かずおの長編新作は、発表されていない。
目次 |
[編集] 概要
楳図かずおの代表作『漂流教室』の続編ともいえる作品で、環境破壊による人類滅亡、危機的状況を乗り切ろうとする子供達の奮闘、親子の絆と別れといったテーマを圧倒的な迫力で描ききっている。また、過去の楳図作品の集大成としての意味も持っている。
注意:以降の記述で物語・作品に関する核心部分が明かされています。
[編集] あらすじ
22世紀、人類は見せかけの繁栄の陰で、迫り来る破滅の危機に直面していた。鶏肉製造工場で生まれた天才科学者チキン・ジョージは、鳥の頭をもつ異形の人物で、人類による地球の滅亡を逃れる為、動物達を連れて地球脱出ロケット「チラノサウルス号」を建設した。だが、チキン・ジョージは、大富豪ローズ氏とアメリカ副大統領マーサ・ゴーマンの手先である美女バーバラの魅力に負け、地球に残る事を決断し、自ら大脳の左右を分離して退化の道を選ぶ。
見せ掛けの繁栄と、不老不死の夢の裏で、人類は、過去数年に渡って、新生児を一人も生んでいない。最後の世代の子供達は、14歳になった時、先祖がえりを起こして恐竜になってしまう。人類は恐竜の進化したものなのだ。それも、一番凶暴なチラノサウルスが。
やがて、人類と同じ滅亡の危機を迎えた宇宙人達が飛来し、遺伝子交換による生き残りの望みを求めて人類を集団レイプするが、宇宙人達は地球人の遺伝子には未来が無い事を悟り、地球の霊的エネルギーを奪って去っていく。地球のバランスが狂った事により、大地震、大津波、大流砂等が発生して人口は激減。各国政府が極秘裏に進めていた、選ばれた子供達による地球脱出計画は、暴徒化した市民により崩壊する。
子供達は、代替ロケットとして「チラノサウルス号」に乗り込み、地球を脱出するが、迫りくる14歳のタイムリミットと、宇宙船を乗っ取られたチキン・ジョージの怨念に悩まされ続ける。しかも、破滅は地球に止まらず、当初の目的地であったアンドロメダ星雲にも波及している。果たして、選ばれた子供達は、人類滅亡の危機を乗り越える事ができるのか?
[編集] 登場人物
- チキン・ジョージ
- 動物界からの人間への使者。異形の天才科学者
- チキン・ルーシー
- チキン・ジョージによって知性を授かったニワトリ
- 繁野
- チキン・ジョージを生み出した鶏肉製造工場の技師
- ヤング大統領
- アメリカ大統領で正義漢
- アメリカ・ヤング
- アメリカ大統領の息子。緑色の髪に全ての植物の遺伝情報を持って生まれたほか、全生物の遺伝情報を持っている。名実共に、選ばれた子供達の代表であると共に、地球上の全ての生命の最後の希望を担っている
- ローズ氏
- 不老不死研究に没頭する大富豪
- バーバラ
- チキン・ジョージの愛人となったスパイ
- 戸川洋子
- 愛称はヨッコ 14歳でアイドル歌手の遊びの相手とされ、子供を身ごもった中学生
- 戸川きよら
- ヨッコの息子。遺伝子の配列がアメリカ・ヤングと殆ど同じ 後に遺伝操作によってアメリカとして転生する
- マーサ・ゴーマン
- アメリカ副大統領。悪役
- エリザベス
- マーサ・ゴーマンの孫。選ばれた子供
- 岬一郎
- 日本国総理大臣
- 岬タロウ
- 岬総理大臣の息子。選ばれた子供
- のばら
- ローズ氏のコピーである少女。選ばれた子供達を悩ます存在
[編集] 『漂流教室』との相違点
- 『漂流教室』が人類滅亡後の世界へ子供達がいきなり飛ばされるというストーリー展開であるのに対し、『14歳』は人類滅亡のプロセスを詳細に描き出す
- 『漂流教室』が母と息子の関係を描いていたのに対し、『14歳』は父と息子(アメリカ大統領親子、日本国総理大臣親子)がメインテーマである。また、漂流教室における母・息子関係が強固な絆であるのに対し、『14歳』における母・息子関係は、ヨッコの一方的な溺愛と、それに応える素振りを見せないきよらとに描かれている
- 『漂流教室』は、マンガ界の『蝿の王』と呼ばれるほど子供同士の殺し合いや内ゲバを激しく描いており、極限状況においてはエリートよりも悪ガキくらいのほうが強いというメッセージを強く打ち出している。それに対し、『14歳』の子供たちは、「選ばれた子供たち」であり、団結力・問題解決能力に抜きん出たエリートである
- 『14歳』には、本性を言い当てられると死んでしまう人造人間、ハーメルンの笛吹き男の物語のように呼び出される子供達、イエス のミイラかと思われた悪魔のミイラなど、都市伝説的なテーマが見られる
- 『漂流教室』の物語は地球で完結しているが、『14歳』のストーリーは宇宙なくして成立しない。破滅が他の銀河にも波及し、宇宙の果てでは宇宙が明るくなっているなど『わたしは真悟』以降の楳図の形而上学的作品世界が展開される
- 『14歳』の絵柄は意識的に歪曲されており、特に、物語前半においては、遠近法・輪郭線とも歪曲が激しい。その絵柄は、ほとんどマニエリスム的である
[編集] 他の楳図作品との関連
『14歳』は楳図かずおの集大成ともいえる大作で、過去の作品でも見られたテーマが、より深く、より大きな説得力を持って、描かれている。
- チキン・ジョージにおける知性の進化と退化のプロセスは、『わたしは真悟』、『ROJIN』等
- ローズ氏の老衰への恐怖、脳移植、のばらの異常心理は、『洗礼 (漫画)』を参照
- 複眼的な論理軸を持ったストーリー展開は、『神の左手悪魔の右手』
- 空が落ちてくるシーンは、『闇のアルバム』
- ケースに入ったサボテンは、『わたしは真悟』
- 進化とは緩やかに進むものではなく、ある臨界点を超えると一気に進むものであるという考え方は、『漂流教室』に共通
[編集] 作品世界の構成と、楳図かずおの想像力の構造
『14歳』は現実世界における物理法則や外的必然性ではなく、楳図かずおの作品世界における内的必然性に従って描かれた作品であり、現実にはありえない不自然な展開が多い。だが、これをもって論理的破綻を批判するのは適切ではない。
コンピュータ計算によるシミュレーションが現実に影響を与え、精神が物体を支配してコンピュータを宙に浮かせてしまうシーンでは、「仮説が現実を支配し始めたっ!」というセリフが登場するのだが、このセリフを見れば分かる通り、作者が不自然な事象を作為的に描いていると考えるほうが妥当である。
- 世界中の植物が枯れてしまった事実をプラスチックで作った偽物を植えつけて誤魔化したり、過去数年に渡って新生児が1人も生まれていない事実を誰一人として知らないなど、政治による情報統制があまりに完璧で不気味である
- 人間の本質が善であるか悪であるかという問いに対して、問いかけだけして、答えが提示されていない。滅亡のプロセスのある段階で、人間が死ぬと怪物として蘇るようにようになるのだが、この現象を、大統領の弟は「人間が死ぬと怪物になってしまう」としてではなく、「人間が死ぬとその本性が現れるようになった」として、何の疑問も持たずに解釈している。殆どの人間は死ぬと怪物になるのだが、死んでも人間の形を失わなかったヤング大統領や、死んで美しい人形のような姿になったヨッコという例外もある。(なお、バーバラは、楳図かずおが最も嫌いなものである蜘蛛になった。バーバラこそ、マーサ・ゴーマンやローズ氏を超える悪役であると言ってよかろう)
- バイオテクノロジーが発達したからといって、わざわざ奇形ともいえる不気味な生物や人面犬を作って上野動物園に展示する必然性がどこにあるのか、常識では理解できない。人類の堕落を表現したものとでもみなすしかない。また、チキン・ジョージの機械操作や地震によって脱走した人造生物達が、いきなり人間に襲いかかるのも、自然の人間に対する復讐と理解するしかない(通常の生物であれば、人間を見て無視したり警戒して逃げ出したりする事もあるはずである)
[編集] 評判
ビッグコミックスピリッツのトーンを捻じ曲げてしまったほどの楳図作品の後期の作風を語る上で、欠かせない傑作である事は間違いない。しかし、連載当時の編集部と読者からの評判はイマイチで、特に楳図作品を知らない若い読者からの反応が芳しくなく、往年のファンとの間で意見が食い違う事態に発展していた。この反応は確実に現在の休筆へつながっている。