蛍光共鳴エネルギー移動
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
蛍光共鳴エネルギー移動(けいこうきょうめいえねるぎーいどう:Fluorescence resonance energy transfer:FRETと略す)とは、近接した2個の色素分子(または発色団)の間で励起エネルギーが、電磁波にならず電子の共鳴により直接移動する現象。このため、一方の分子(供与体)で吸収された光のエネルギーによって他方の分子(受容体)から蛍光が放射される。
供与体の吸収スペクトルは受容体の発光スペクトルよりも短波長側にある必要がある。供与体の発光スペクトルが受容体の吸収スペクトルと重なるほど、FRETの強度は高くなる。供与体の吸収スペクトルに相当する光で励起すると、供与体ではなく受容体の発光スペクトルに従う蛍光(つまり供与体ではなく受容体の色の蛍光)が現れ、これによりFRETが観測される。
FRETの強度は両分子間の距離の6乗の関数として、距離とともに急速に減少する。これを応用して、両分子が互いに近接していることがFRETで示される。また電気双極子間相互作用によるため、両分子の配置にも影響される。
[編集] 応用
化学的には、両分子が共有結合によって1分子になったり、超分子複合体を形成したりすることでFRETが観測される。これを利用したものに、ホスゲン感知試薬などがある。
また特に分子生物学・生物物理学で、蛋白質間相互作用の検出に応用される。例えば、注目する2種類の蛋白質にそれぞれ異なる蛍光蛋白質(GFPを改良したCFP、YFP等)でタグを付けておくと、それらが相互作用する(結合する)ことによりFRETが観測される。またリアルタイムPCRにも応用される。
このような生物学的応用では、褪色や他の蛍光物質の妨害(自家蛍光)によりFRETが観測しにくい場合もある。これを回避する方法として、蛍光でなく化学発光に同じ原理を応用した、生物発光共鳴エネルギー移動(Bioluminescence resonance energy transfer:BRET)もある。