落窪物語
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
『落窪物語』(おちくぼものがたり)は、10世紀末頃に成立したとされる中古日本の物語である。全4巻。作者は不明、漢籍の引用があり、露骨な表現や下卑た笑いもみられることから当時の男性下級貴族であろうと言われている。源順、源相方などが候補に挙がっており、巻四は清少納言が書き加えたとする説まであるが、いずれも確定に至っていない。
文学 |
---|
ポータル |
各国の文学 記事総覧 |
出版社・文芸雑誌 文学賞 |
作家 |
詩人・小説家 その他作家 |
目次 |
[編集] 概要
題名の「落窪」は、主人公の薄倖な姫君が置かれた部屋の名前に由来する。美しい容貌を持つ主人公の落窪姫君が、その名の通り寝殿の隅にある、畳の落ち窪んだ陋屋に住まわされ、継母からのいじめにあうという、シンデレラとも似通った構図を持つ継子いじめ物語。
『落窪物語』は『源氏物語』に先立つ中古の物語で、『枕草子』にも言及がある。恩讐のけじめをはっきりさせているやや単純な筋ながらも、継子いじめの筋を軸に、当時の貴族社会を写実的に描写した物語として評価されている。
[編集] 内容
主人公は中納言源忠頼の娘(落窪姫君)である。母と死別した落窪姫君は継母のもとで暮らすことになったが、継母からは冷遇を受けて落窪の間に住まわされ、不幸な境遇にあった。しかし、そこに現われた貴公子、右近の少将道頼に見出されて、姫君に懸想した道頼は彼女のもとに通うようになった。姫君は継母に幽閉されるが、そこを道頼に救出され、二人は結ばれる。道頼は姫君をいじめた継母に復讐を果たし、一家は道頼の庇護を得て幸福な生活を送るようになった。
[編集] 登場人物
- 落窪の姫:ヒロイン。皇女を母にもつため、出自は継母や義姉妹たちより遥かに高いが、下女同然に冷遇されている。針子として家族の着物を縫わされ続けていたためか、裁縫が非常に得意。
- 中納言(源忠頼):落窪の父。北の方の言うなりで、落窪を自分の娘として扱ったり庇ったりすることも無い。
- 北の方:落窪の継母。4人の娘を持つ。落窪を虐待し、四の君を右近の少将に嫁がせようとするが、すべて失敗する。
- 大君(オオイギミ)、中の君、三の君、四の君:中納言と北の方の間に生まれた娘。末娘の四の君以外は物語開始時点ですでに夫が居る。
- あこき(阿漕とも表記)とその夫帯刀
- 姫君につかえる女房あこきが、夫帯刀を介して姫君と右近の少将の仲を取り持つなど、当時の貴族の縁談の一端がいきいきと描かれている。
- 蔵人の少将:三ノ君の婿、帯刀の主人。妻の自覚が無い三の君に愛想を尽かし、後に右近の少将の妹(中の君)と結婚。
- 右近の少将(道頼):帯刀の乳兄弟、落窪の姫の夫。後に三位の中将、中納言兼衛門督、大納言兼左大将、左大臣、太政大臣と昇進。落窪の姫以外に妻も恋人も持たず、彼女だけを一生愛し続けた。一夫多妻制の当時としては、珍しいことである。実在の藤原道頼がモデルとされる。
- 左大将:右近の少将の父。後に右大臣に昇進。
- 帯刀の母:右近の少将の乳母。落窪が実家で虐待されていたことを理由に追い出そうとするが、帯刀の説得で折れる。
- 典薬の助:中納言家の居候。中納言の北の方の叔父。落窪の姫と結婚しようとする。
- 兵部の少輔:右近の少将の母方の親戚である治部卿(じぶきょう)の息子。馬面で性格も変わっているのため、人々から「面白の駒」と馬鹿にされている。右近の少将の策略で四の君と結婚する。
[編集] 刊本
- 『落窪物語 少年少女古典文学館 3』 氷室冴子 (著) 講談社 ; ISBN 4062508036 ; (1993)
- 『落窪物語・堤中納言物語 新編日本古典文学全集』三谷栄一 (翻訳), 稲賀敬二 (翻訳), 三谷邦明 (翻訳) 小学館 ISBN 4096580171 ; 17 巻 (2000/08)
- 『新版 落窪物語 上・下』角川ソフィア文庫 室城秀之(訳注) ISBN 4043742010
- 原文と現代語訳が読める。
[編集] 関連作品
- 『落窪物語解』 田中大秀 著
- 『マンガ日本の古典2 落窪物語』 花村えい子画 (中央公論社)ISBN 4124032803(1997)
- 当初は、藤子・F・不二雄が担当する予定であったが、執筆前に亡くなったため果たされなかった。
- 『落窪物語―マンガ日本の古典 (2)』 中公文庫 花村 えい子 (著): 中央公論新社 ; ISBN 4122034515 (1999)
- 上記作品の文庫版。
- 『舞え舞え蝸牛』文春文庫 田辺聖子 (著)ISBN 4167153130 ; (1979)
- 翻案作品。物語最後の少将による復讐は、著者の感性によって原作よりも穏やかなものになっている。
- 宝塚歌劇団で舞台化。詳細は別項「宝塚歌劇団によって舞台化された作品の一覧」を参照。