自己啓発セミナー
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自己啓発セミナー(じこけいはつ - /Large Group Awareness Training (LGAT))とは、「本当の自分を見つけ」「可能性を開く」「自己の殻を打ち破る」「心の癒し」「トラウマの解消」と称する講座である。狭義には、アメリカで設立された"est"や"Lifespring"の流れを汲んだセミナーのことを指す。
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[編集] 概略
"Lifespring"のセミナーは、かつてBasic、Advance、Leadership Programの3段階のコースで構成されていた。このようなコースの構成は、現在でも多くの自己啓発セミナーで名前は異なっているが採用されている。上級の講座になると、実習の一環として自己啓発セミナーへの勧誘が含まれていることがあり、このことが議論を呼んできた。
自己啓発セミナーは、ニューソートの流れを汲んだ積極的思考の思想、ヒューマン・ポテンシャル・ムーブメントのセラピー技法、マルチ・レベル・マーケティング系の人脈によって、1970年前後にアメリカで誕生した。その後、日本へは、マルチ・レベル・マーケティングを追って1970年代中頃に上陸し、1990年前後に大流行し、バブルの崩壊とともに下火になった。バブル以降は、自己啓発書の出版や神経言語プログラミング(NLP)、コーチングやセラピーもしくはセラピスト養成などの他業種へ展開したり、毎年新しい顧客が開拓可能な学生、企業間の人脈や企業内の労使関係により顧客が開拓しやすい中小企業などにターゲットをしぼったセミナー会社のみが勢いを維持してきた。高橋弘二が主催するライフスペース(SPGF)、X JAPANのTOSHIが関係しMASAYAが主催するホームオブハート(元アイランド、元レムリアアイランドレコード他)も、かつては自己啓発セミナーであった。
このほかの運営会社の例として日本橋(ビーアール インターナショナル、カレッジ・オブ・ママ)、渋谷(メディオス)、千葉(プレゼンス)や松本(アクトリーダーズ)、札幌など全国各地で自己啓発セミナーが開催され問題が顕在化している。
自己啓発セミナーの運営会社は株式会社の形式をとっており宗教(宗教法人)ではないが、講習の過程で主催者が発言したことに受講者が深い感銘を受けるよう誘導して、主催者を絶対的な『教祖』同様に見るよう仕向ける傾向があり、その受講者本来の思考や理念を消し去り、洗脳されたような状態が続くことから、同等のカルトとしての対応が必要となる場合がほとんどである。啓発のやり方は様々だが、洗脳の手法が用いられることが多い。暴力と薬物は通常用いないため洗脳効果は限られるが、これを戦後発達した催眠術で補うケースが一般的である。ただ、後述する「第3段階」の「勧誘」の実習で、成績の悪い受講生に対して暴力を振るうトレーナーがいるセミナーもある。
[編集] 主な内容
セミナーによって内容は異なるが、大まかに次のような内容で進む。
[編集] 受講するまで
自己啓発セミナーの受講までの特徴として、過去に受講した人から勧誘を受けることから始まる。 セミナーによって違いはあるが基本的に上記"Lifespring"のように3段階に分かれている。 ここでは便宜上「第1段階」~「第3段階」というように表記する。
[編集] 第1段階
知り合いなどから勧誘を受け、セミナーの申し込みや受講料(値段が高額なことが多い)の納付を済ませ、指定された場所に集合する。基本的に講師役の社員から「このセミナーの内容を口外するな」「全日程参加しろ」「遅刻・早退厳禁」などと厳しく指示される。数人のリーダーを決めて受講生同士のグループを作るよう指示され、そのグループごとにアシスタントと呼ばれるセミナーの”卒業生”を「相談役」に据える。
無料や低廉なイベントに参加した場合には、後日、勧誘電話や勧誘メールがひっきりなしに届き、参加しなければ不幸になる趣旨が繰り返される。勧誘した友人などの立場や顔をつぶす、たてると言った巧妙な会話に根負けした形で、『今回だけ』の限定での参加したセミナーが最終的に抜けられなくなる状況に追い込まれるケースがほとんどである。 一度、セミナーを受講するとセミナーの終了時に次回のセミナーの予約を強要される。その場の雰囲気やトレーナー、アシスタントからの圧力などで拒否できない状況に追い込まれる。
講習の具体例としては、「ハードラブ・ソフトラブ」(対面後間もない参加者同士を1対1で向き合わせ、先ず互いの欠点を挙げ罵り合うように、その後一転して長所をほめまくり合うよう指導する)、「赤黒ゲーム」(「囚人のジレンマ」を利用した心理操作)、「選択・投票」などが行われる。
なお、段階終了後に花束イベント(受講生が眼をつぶり再び開けると前にセミナーに勧誘した紹介者が立っており、受講生に花束を渡して握手、抱擁などを交わす)があるのがほとんどである。当然、第2段階への勧誘もあるが、受講生はそれまでの過程で興奮状態に誘導されるので、そのときの勢いやその場の雰囲気に飲み込まれて申し込みをしてしまうことがほとんど。
[編集] 第2段階
ホテルやセミナー会社所有の合宿所などに泊まりこんでの受講となる。価格は泊り込みなので第1段階より高額になるケースがほとんどである。 この段階でのセミナーの趣旨は「第1段階で得たものをさらに発展させる」と称している。
第1段階のときに比べ、「鬼軍曹」のような(振りをしている)講師社員(トレーナー)が担当することが多い。その講師はひたすら受講生を罵倒したり否定したりすることが多い。講習の例では、薄暗闇の密室かつ大音響の中で『お母さん!』や『お父さん!』と叫び続ける懐古体験、女装や男装をしてなりきり体験、男女問わず出産を想像し体現するなど。 その過程で講師とトラブルになったり、精神的に追い詰められる受講生もいる。尚、講師は終盤になるにつれ温和になる(振りをする)ケースがほとんど。第1段階と同様、リーダーを決めて受講生同士のグループを作り、アシスタントが付くことが多い。
なお、この段階でも紹介者が花束を持っているイベントがあり、続く第3段階への勧誘も行われる。 第1段階と異なるのは、第2段階でのハードな講習内容で第3段階に進まない受講者も何人かいるが、第2段階終了時の興奮で第3段階への申し込みをする受講生が多い。
[編集] 第3段階
第3段階は「受講してきた内容を実践する」と称して勧誘活動をさせるのが目的である。 ただし説明では勧誘という言葉が一切使われず、セミナーの内部用語でカモフラージュされる(エンロール、モチベートなど)。ここでもやはりチームを組ませアシスタントをつけるが、この段階におけるアシスタントの役割は担当チームの”監視”である(監視役という名目ではもちろんなく、受講生に対してはフォローや相談担当だという説明が為される)。
受講生に勧誘ノルマを自己申告させ、その通りに勧誘が進まないとアシスタントや講師から詰問されることになる。 しかもその勧誘ノルマの自己申告は受講生が「目標1人」などと申告しても到底講師やアシスタントから承認されないので、講師が「あなたは6人勧誘しなさい」といわれた後、受講生がアシスタントに唆される形で(この段階で相当なマインドコントロールが掛かっている受講生とそうでない受講生との間に大きな差が出ている)講師の目標より多い人数を「自己申告」として宣言させられる。
さらに講師はチームのメンバーにも連帯責任を負わせ、1人がノルマ達成に手間取っているとメンバー全員に迷惑がかかるようになっている。つまり途中で放棄・逃亡できないような環境を作って受講生をそこに追い込み、セミナー会社は1円も金をかけないような仕組みで受講生に「営業活動」をさせているのである。
また他に視覚障害者を装って街頭で募金活動をさせたり、セミナー会社が運営している販売会社(ワークショップとも呼ばれる)の健康食品や健康器具を訪問セールスで売らせるという実習を行なっているセミナーもある。
この段階で無理な勧誘(前述のワークショップの健康食品や健康器具の訪問販売実習も含む)をする羽目に陥った受講生は、多くの友人や家族・親族の信頼を失ったり、またセミナー社員や講師、アシスタントからノイローゼになるまで電話攻撃を受け、精神に異常をきたしたり、中には自殺する受講生もいるという。
このほかにも第3段階を終了した受講生のみが参加できるセミナーや、アシスタント対象のセミナーもあるという。
[編集] アシスタントと呼ばれる”卒業生”
セミナーによって呼称は異なるが、自己啓発セミナーの”卒業生”のことを「アシスタント」という。セミナーを受講し終えても、いまだセミナーに留まり、セミナーを心の拠り所にしている、いわば「セミナー中毒者」である。アシスタントの生活は過酷であり、「第1段階」~「第3段階」では朝早くから夜遅くまでセミナーの手伝い、講師の補佐といった役割と受講生のフォローや監視を担当している。これらも「アシスタント対象のセミナー」の一環として組み込まれていることがほとんどなので、一銭も手当てが出ないどころか、受講料を支払っているケースがほとんどである。セミナー以外でもセミナーの事務・経理やセミナーが経営する「ワークショップ」(健康食品や健康器具などを販売している)での販売の仕事など本来ならば社員が行なうべき仕事を、これまた「アシスタント対象のセミナー」として一銭も手当てが出ないどころか、受講料を支払っているケースがほとんどである。当然、人件費は相当に浮き、法人税も相当節約しているのであり、受講生やアシスタントから巻き上げた金で、経営者側の豪奢な趣味や自治体や慈善団体への寄付などに消えているのがほとんどである。なお、アシスタントは相当にセミナー側にマインドコントロールされているので社会復帰は難しいとされている。
[編集] 問題点
家族、親戚、友人に勧誘活動を始めると、勧誘している本人の思いこみや絶対的な信念のもとで強引な勧誘活動を行い、人間関係や生活に支障をきたす。離婚や家族の離散、自殺に追い込まれるような事例もある。まわりの家族にとってはこれまでの平穏な生活が一変し、地獄の毎日が訪れたような気になる。 更生は極めて困難になるケースがほとんどである。癒しやトラウマの解消、自己の殻を打ち破るなど表向きはもっともらしいが、本人は洗脳され自己の崩壊、家族の分裂、兄弟や夫婦、家族、親戚との縁を切るなど修復が困難なケースが多い。解決するためには、本人が教義とされる「気づき」についての過ちや今置かれている状況をどこまで認識できるかが鍵となる。無理矢理の脱会やセミナーへの参加を妨害することは逆効果になり収拾がつかなくなるケースがほとんどで、家族ぐるみでの医療と治療(精神安定剤等の処方)、精神カウンセリングやサポートが重要である。脱会には本人の満足度と周囲の人たちに対する波及や影響を本人に自覚させ、あくまで自己のための啓発であり他人への勧誘は別だと認識できるように話し合いを持つようにすることが大切である。
もう一つの問題として、自己啓発セミナーに影響を受けた経験のある人が、一度止めたとしてもまた改めてカウンセリングと称した別の自己啓発セミナーに入会してしまうことも多いという点がある。多くの経験者は複数のセミナー会社を受講した経験があることが報告されている。自己啓発セミナー対策ガイド
そもそも精神療法に近い行為を、医師免許を有する精神科医や専門の知識を有するカウンセラー以外が行うことは、予期せぬトラブルを起こす可能性が高まるため好ましくない。
[編集] 関連項目
- 自己啓発
- 偽装サークル
- エンカウンターグループ
- 日本創造教育研究所