粉飾決算
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粉飾決算(ふんしょくけっさん、Window dressing)とは会計用語の一つで、営利企業の経営実態を偽装して虚偽の決算報告とその行為を指す。多くの場合は犯罪となる。
通常の粉飾決算では、財務諸表上の経常収支などを意図を持って操作して、利益を過大にするかまたは損失を過少にするなどして赤字決算を黒字か小さな赤字として報告し、企業自身の財務状態を隠蔽し実態より良く見せる。
粉飾決算を行なう過程では取締役会、監査役会、株主総会をだまし、上場企業のような大きな企業では会計監査人もだます。 通常、実行主体は企業経営者であるが、従業員である経理・財務の担当者が協力する場合が多く、社外監査役、会計監査人までが不正に関与している事例がある。
- 逆粉飾決算
脱税等の目的で、会社の決算を実態より悪いかのように偽装して決算を行うことを、「逆粉飾決算」と呼ぶこともある。そのような事例も粉飾決算に含まれる。
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[編集] 要因
一般的に営利企業の経営者にとっては、赤字決算であることは、対外的に信用不安を招き、営業上得策でないことが多く、仕入れ面での取引先よりの与信への影響、銀行からの借り入れの影響を考慮して、黒字を偽装するように圧力、または誘惑が働く。
以下の個別の要素が粉飾決算の要因となることがあり、通常はこれらは単独ではなく、複数の要因が関係している。
[編集] 個別要因
- 経営者のプライドと見栄
経営者個人の性格に起因する問題によって行なわれる場合がある。
- 経営者の経済的利益
巨額の利益を生み出していると装えば、経営者個人が企業から受け取る給与、役員賞与、役員退職慰労金、その他の経済的便益が得られるため、これらを求めて行なわれる場合がある。また退職直前であれば、再就職先としての社内での相談役や社外での経営指南役としての雇用も好待遇で受けられるなどの事情もある。
- 株価操作
株価を操作することで自他の経済的利益が得られる場合には、それが粉飾決算の要因となる事がある。株価でも経営者の見栄が関係する場合もある。
- 配当操作
株式会社が赤字決算になれば、株式配当は行なえなくなる。株式配当が行なわれることで自他の経済的利益が得られる場合には、それが粉飾決算の要因となる事がある。株式配当でも経営者の見栄が関係する場合もある。
- 銀行借入
銀行借入を容易にする為に粉飾決算を行なう要因となる。粉飾決算を行なわなければ銀行が融資しない状況とは、銀行がその企業の財務状態に疑問を持っていることが考えられ、その反面、粉飾決算を行なう状況とは企業の剰余金を使い果たして手持ち資金が不足して、銀行からの融資が得られなければ、業務が立ち行かないという場合があり、経営者はこの状況を解決する方法として粉飾決算を選ぶことがある。
- 入札資格
官公庁や公営企業などの建設工事、土木工事、機械設備、備品などの外部発注に関わる工事業者や納入業者などの入札資格として、健全な財務状態を求めており、一定の財務指標以下の企業は入札そのものが行なえなくなる。特に公共工事に頼る土木と建築の企業では入札資格の失格は会社業務の継続を不可能とするだけの影響があり、粉飾決算を行なってでも入札資格を堅持するだけの強い誘惑が働く。
[編集] 犯罪に対する罰則
下記の法律によって責任が問われることがある。また、粉飾決算に関連して脱税すれば罪を問われる可能性が高いが、多くの粉飾決算では申告税額が過大となるので不正発覚後には新たな経営者や破産管財人によって更正申告する必要がある。 信用を失うなどのペナルティーも考えられる。
個人経営の小規模な会社で粉飾決算が行なわれても、結果として利害関係者が不利益を受けなければ、起訴されたり民事訴訟を起こされたりする可能性は低い。
[編集] 刑事責任
- 商法 第476条 特別背任罪 (対象:発起人、取締役、監査役、従業員、等)
- 10年以下の懲役又は1,000万円以下の罰金
- 商法 第489条 第1項第1号 違法配当罪 (対象:取締役、監査役)
- 5年以下の懲役又は500万円以下の罰金
- 会社法
- 100万円以下の過料 (対象:取締役)
- 金融商品取引法 第197条、第207条 虚偽記載罪 有価証券報告書虚偽記載
- 10年以下の懲役又は1,000万円以下の罰金、又はこれらの併科、法人には両罰規定として7億円以下の罰金
[編集] 民事責任
- 商法 第266条 第1項第1号 対会社責任 (対象:取締役)
- 損害賠償
- 商法 第266条 対株主債権者責任 (対象:取締役)
- 損害賠償
[編集] 具体的手法
実際に粉飾が実行される場合、債権者等から看破されるのを回避するために複数の手法を組み合わせるのが一般的であるが、基本的な例を以下に挙げる。
- 売上の架空計上
- 費用の圧縮
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- 期末棚卸の際に在庫を過大評価して、売上原価を少なく見せかける方法が典型的。また、本来経費項目に計上するべき費用の一部を隠蔽する方法もあり、この場合隠蔽した費用の期末時点における支払先(債権者)への負債額も隠蔽する(=簿外債務の発生)必要がある。
なお、粉飾決算を行うには、「架空の売上先」や「本来あるべき債務の簿外化」など粉飾決算を行う主体とともに(実際に存在するか否かは別として)相手方(=客体)が必要となることが多く、粉飾を実施する際に広い意味での「関係会社」が客体としてしばしば利用されてきた。
一方、近年日本においてもいわゆる連結企業会計が一般的となったことから、昔より典型的とされてきた期末の子会社への「押し込み販売」といった子会社等を客体とした粉飾決算の手法は、もはや意味を有さなくなっている。
実質的な支配力を有していることから本来連結対象にするべき会社を意図的に外した上、粉飾決算の隠れ蓑に用いている例もある。
[編集] 推移と発覚
利益が上がっていることになり、配当をしないことがおかしく映ってしまうので、蛸配当を行ってでも配当をすることが考えられる。また、一度でも在庫を増やすと、翌年に大きく業績が回復でもしない限り翌年も同じかそれ以上に粉飾を行う必要が出てきて、雪だるま的に粉飾が膨らむ可能性がある。 黒字であれば課税されるので、納税資金も必要で、実態は赤字であれば、資金繰りに影響することになり内部では苦しい運用を迫られることになる。
粉飾決算に手を染める当事者は、粉飾を行えば対外的には美しく取り繕えると思い込んでいることが多い。しかし、粉飾決算を行った結果は確実にその会社の貸借対照表を歪めて行く。当事者は決して粉飾の事実を認めなくとも、企業会計や与信審査に精通したものが決算書類を(特に、3・4年ないしはそれ以上の決算推移を)見れば疑念を抱かれるのは必定であり、結果会社の対外的な信用力は低下する(たとえば資産に対して、同業種と比較して極端に減価償却が少ない、目立った設備投資がないのに極端な増資がおこなわれている、本業が不振だが投資事業組合など匿名先からの収益が異常に高い、など)。最終的に行き詰まって粉飾の事実を公表する段階においては、株主や取引先、金融機関との間に築かれた信頼関係は一気に崩壊し、修復は困難となる。
[編集] 紛飾決算は間違い
文字が似ていることや、直感的な感覚からか、手書きの文書などで「紛飾決算」と誤記されることが多いが、「粉飾決算」が正しい表記である。 また、女性に例えて「化粧直し」、「厚化粧」と言われることもある。
[編集] 出典
- 吉田博文他著 『粉飾決算の見抜き方』 東洋経済新報社 ISBN 4-492-09207-2