痙攣
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痙攣(けいれん、convulsion)とは、不随意に筋肉が激しく収縮することによって起こる発作。 痙攣のパターンは多種多様であるが、大きく全身性の場合と体の一部分である場合とに分ける事が出来る。
痙攣を新規に発症した場合には、医療機関を受診する事が重要である。
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[編集] 疫学
小児の痙攣は、熱性痙攣が最多である。特に乳幼児では、発熱に引き続く熱性痙攣がしばしば見られる。熱性痙攣は6ヶ月~5歳頃に多く、短時間の発作である場合がほとんどである。
成人では60歳ごろまでは、特発性てんかんが最多。それ以降は脳血管障害による痙攣が多く、脳腫瘍の頻度も増える。
[編集] 痙攣の概念
痙攣(convulsion)とは全身または一部の筋肉の不随意かつ発作的収縮を示す症候名である。てんかん(epilepsy)とは病名である。てんかんの本体は脳波の異常であり、必ずしも痙攣を伴わない。事実欠神発作は非痙攣性であるが脳波異常がありてんかんの一種である。また脳腫瘍はてんかんではないが痙攣をおこす。また紛らわしいことにけいれん発作(seizure)という言葉もある。これも症候名であり、てんかんや精神疾患の臨床症状で、てんかんを思わせる一回のけいれん発作という意味である。
症候的に鑑別が必要なのは失神や意識障害である。特に失神との区別が大切である。筋肉の収縮があるのか(失神の主体は筋脱力である)、代謝性アシドーシス(筋肉の収縮が激しく嫌気性呼吸がおこり代謝性アシドーシスが生じる)が存在するのか、失禁や失便があるのか、回復後に意識障害があるのか、舌を噛んでいたりしないのか、これらは失神よりも痙攣を強く疑うエピソードである。こういったエピソード聴取するために本人や目撃者の話をしっかりきくことが重要である。失神と痙攣の区別を行う意義としては原因疾患が大きく異なるからである。失神は循環器疾患が多いのに対して痙攣は当たり前だが中枢神経に病変が考えられることが多い。失神か痙攣か区別できない場合は意識消失発作とし、失神と痙攣の両方の原因検索を行う。また外傷の検索も失神の場合と同じように行うことを忘れてはいけない。大抵は意識消失を伴う痙攣であり、失神同様倒れるからである。
[編集] 原因
痙攣の原因検索において最も重要なのてんかんによるものか、その他全身性疾患によるものかの区別である。病歴にてんかんがない痙攣初発の患者の場合はまずは症候性のものを否定するような診断プランを立てる。鉄則としてはまずは低血糖を否定することである。というのも血糖の検査は最初に行わないと忘れてしまう上、ほかの検査で低血糖を示唆する所見というのは殆どないからである。
[編集] 頭部
[編集] 代謝・内分泌系
興味深いことにカリウムの異常や高カルシウム血症では痙攣は起こらない。
- 糖代謝の異常
- 低血糖、糖尿病性ケトアシドーシス、非ケトン性高浸透圧性糖尿病昏睡
- 電解質の異常
- 低ナトリウム血症、高ナトリウム血症、低カルシウム血症
- 副甲状腺機能低下症
- アジソン病
- 急性間欠性ポルフィリン症
[編集] 血液・免疫系
[編集] 消化器系
- 肝性脳症
- 尿毒症性脳症
[編集] 呼吸器系
- 低酸素脳症
[編集] 神経皮膚疾患(母斑症)
[編集] 足(ふくらはぎ)
バレーボール、マラソン、自転車、テニスなどのスポーツ中に 起きる事がある。筋肉の疲労や体内の水分不足や体の冷えによる血管の縮小が原因である。スポーツ中以外でも、普通に歩いてる時や足を伸ばした時にも起こる。 現代医学では予防法や詳しい原因は解明されていないが、ストレッチや柔軟運動、水分摂取、血流の改善などが有効な方法と思われる。
「こむら返り」は腓腹(ひふく)筋の異常な緊張による痙攣で起こる。
[編集] その他
[編集] 痙攣患者のマネジメント
まず、患者の前に来た時、痙攣が持続しているのかしていないのかを確認する。痙攣発作は大抵は数分で消失するが、なかには数十分続く痙攣重積というものもある。痙攣中は呼吸が満足にできないので、持続すると低酸素脳症を起こす恐れがある。そのため痙攣を止める必要がある。痙攣発作中の患者にはまずBLS、ACLSのアルゴリズムに従い救命を行う。低血糖、心室細動の診断もこの時に行う。低血糖ならば50%ブドウ糖20mlを2A(40ml)を静注し、心室細動ならば電気的除細動を行う。次に考えるのはヒステリーによるもの(偽痙攣という)であるかだが、これは経験的に診断することが多い、疑わしければアームドロップテストなどを行うこともある。偽痙攣が否定されれば真性痙攣の治療となる。
- 酸素投与、あるいはバックバルブ換気を行う。
- ホリゾン(10mg/2ml/A、ジアゼパム)を1A筋注あるいは0.5A静注する。とまらなければ、3~5分ごとに5mgずつ、最大20mg(2A)まで投与する。
- 痙攣が止まったら痙攣再発予防のためアレビアチン(250mg)(抗痙攣薬フェニトイン)を2A(500mg)、生理食塩水100mlに溶解し点滴する。
ごくまれに、ホリゾンを20mg投与しても痙攣が治まらない場合がある。この場合はアレビアチンの点滴を開始する。これでも止まらなければテオドールを50~100mg(1Aに500mg含まれているので注意)静注したり、フェノバール(100mg/A)を1A筋注したりすることもある。これでもダメなら、気管挿管し、低酸素を防ぎ専門医に相談するべきである。アレビアチン(フェニトイン)は2A以上でないと効果がないと言われている。この薬はナトリウムチャネルが不活化状態から回復させる頻度を減らす作用がある。よく用いられる抗てんかん薬であるデパケン(バルプロ酸)もこの作用を有しているがこちらはカルシウムチャネルにも作用する。
発作が止まったら原因検索と外傷検索を行う。採血を行い血算、生化学、アルコール濃度、抗てんかん薬血中濃度を測り、動脈血液ガスにて代謝性アシドーシスを確認する。頭部CTや尿中薬物検査も行う。これらの検査で異常があれば症候性てんかんと診断され、異常がなければ真性てんかんである。
診断ができればそれに基づいて治療を行うことができる。原則として初発の痙攣では入院による精査が望ましい。しかし患者の希望によっては後日脳波検査となる。てんかんは発作型によって治療薬が異なるのだが、この場合は抗てんかん薬の予防投与となる。それ以外の真性てんかんで受診となるケースとしてはコントロール不良の場合がある、これは非常に危険なので入院精査が必要である。怠薬の場合はアレビアチン投与後服薬を再開する。今までコントロール良好であったのに痙攣した場合は抗てんかん薬の増量を行い、かかりつけ医に受診させるという方法もある。症候性てんかんの場合は原因疾患を治療すれば完治できる可能性がある。可能ならば原疾患を治療し、抗てんかん薬の投与そして診断に合わせて後日専門医を受診させればよい。てんかんで最も怖いのは痙攣後外傷である。危険を感じたらためらわず入院させる。
不思議なことにてんかんはある一定の時期を過ぎると痙攣しなくなることがある、すなわち退薬可能となる。こういった判断を仰ぐために専門医の受診はかかせない。
[編集] てんかんの分子生物学
近年、てんかんの一部がチャネル病であることが判明してきた。ナトリウムチャネルであるSCN1Aの異常がてんかんの発症にかかわっていると言われている。SCN5Aはブルガダ症候群、SCN4Aは高カリウム性周期性四肢麻痺との関連性が指摘されている。これらをターゲットとする新しい治療薬が開発されるかもしれない。
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
- 問題解決型 救急初期診療 ISBN 426012255X
- Step By Step! 初期診療アプローチ(第3巻)ISBN 4903331679
- 神経内科ケーススタディ ISBN 4880024252
- Q&Aとイラストで学ぶ神経内科 ISBN 4880024635
- 考える技術 臨床的思考を分析する ISBN 9784822261092