畳語
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
畳語(じょうご)とは、単語またはその一部をなす形態素などの単位を反復して作られた単語をいい、合成語の一種である。畳語を形成することを重畳(ちょうじょう)または重複ともいう。
畳語は次のような、主として俗語的表現に世界的に用いられる:
しかし言語によっては、これ以外のいろいろな文法的機能を発揮するために畳語が用いられる。
目次 |
[編集] 形式
ある単位の全体を反復する「完全畳語」、一部を反復する「部分畳語」、また含まれる子音や母音に変化をつけて反復する「音交替的畳語」に分けられる。
[編集] 各言語
[編集] 日本語
日本語では上に挙げたほかに、次のような機能をもった畳語がある。
名詞の複数を表す畳語は少数の語に限られ、「山々」はあっても、「*岡々」のような言い方はできない。
副詞的表現には、名詞(「時々」)、副詞(「さらに」を重ねた「更々」)、形容詞の語幹または語根(「寒々」「白々(しらじら)」)、漢字音(「揚々」)、また動詞に由来するものなどがある。動詞については終止形によるもの(「返す返す」など、あまり多くはなく慣用句的)と連用形によるもの(「食べ食べ」は「食べながら」という接続助詞の代わりという文法機能を持つ)がある。
動詞の連用形によるもの以外は、「ひとびと」のように連濁が起きることがある。
なお、動詞には「つづく」「とどく」「ひびく」のように部分畳語と思われるものが多く、古くこのような造語法があったかもしれない(「たたく」など一部はオノマトペアかもしれない)。
繰り返される形態素が漢字1文字の場合、2文字目は「々」で略記される。かつては、その他の場合にもさまざまな踊り字が使われたが、現在はほとんど使われない。
[編集] 中国語
中国語の擬音語・擬態語には畳語が多い。この中には完全畳語と音交替的畳語の双方がある。音交替的畳語には声母(音節頭子音)を同じくする「双声語」と韻母(主母音+音節末子音)を同じくする「畳韻語」の2種がある。
- 完全畳語:「呱呱 guāguā」(カラスやかえるの鳴き声)「哗哗 huāhuā」(雨のざあざあ降る音)
- 双声語:「叮当 dīngdāng」(金属や磁器のぶつかる音)「忐忑 tǎntè」(気が気でない様子)
- 畳韻語:「咕噜 gūlū」(空腹でおなかが鳴る音)「轰隆 hōnglōng」(雷や爆発の音)
現在口語では使われない古典漢文の語彙の中にも擬音語・擬態語に由来すると考えられる畳語があるが、現在使われる場合には擬音・擬態的な語感は薄れている。
このほか、形容詞を畳語化することによって意味の描写性を高める強調用法がある。(しばしば副詞に転用される)
- 「好」(よい) →「好好儿(的/地)」(よい、元気だ、ぴんぴんしている、しっかりと)
- 「热闹」(にぎやかだ)→「热热闹闹」(わいわいにぎやかな)
また、一部の1音節名詞を重畳すると「すべての~~」という意味になることがある。
- 「人人」(すべての人、みんな。≠人々)
- 「家家」(すべての家。≠家々)
なお、動詞を2回重ねて「ちょっと~する」という意味を表す用法(「看看(ちょっと見る)」「考虑考虑(検討してみる)」など)は、厳密には畳語ではなく、動作量を表す補語の量詞に動詞そのものを転用した形式の省略形である。(「看一看(一回見る)」→「看看」)
[編集] インドネシア語
マライ・ポリネシア語族では文法的機能を持った重畳が多く用いられるが、最もよく知られるのはインドネシア語で複数を表すものである。たとえば「Orang」(人)が「Orang-orang」(人々)になる。この方法は日本語とは違って多くの名詞に適用でき、たとえば、外来語である「Sekolah」(学校)も「Sekolah-sekolah」という複数形にできる。
[編集] インド・ヨーロッパ語族
インド・ヨーロッパ語族ではあまり畳語を使わず、現在のヨーロッパ言語ではほぼ俗語的表現に限られる。ただし、古代のラテン語、古典ギリシア語やゴート語などでは、動詞の活用に部分重畳を用いたものが少し見られる。例えば、ラテン語:現在形Tango「私は触れる」、完了形Tetigi「私は触れた」。
なお、英語などのオノマトペアには母音を変えた「アプラウト的畳語」(Zigzag、Flip-flop、Cling-clangなど)が多い。