物権
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物権(ぶっけん)は、特定の物を直接的に支配する権利。特定の者に対して特定の行為を請求する債権と対比される概念。
目次 |
[編集] 物権の特質
物権も債権と同じ財産権であるが、以下の点で債権とは異なる。
[編集] 物権の直接性
債権の権利の実現のためには債務者の履行という行為が必要であるが、物権の権利の実現においては物に対して自ら直接的に支配すれば権利を実現できる。このような性質を物権の直接性と呼ぶ。
[編集] 物権の排他性
同一物に対しては、同一内容の物権は、一つしか成立しない。同一の物に対して同一内容の物権が複数成立すると、物への直接的支配が失われるからである。このような性質を物権の排他性、一物一権主義と呼ぶ。同一の物に対して、相容れない同一内容の物権を設定する契約が結ばれた場合は、先に登記、明認方法等の対抗要件を備えたものが物権を取得する。同一内容の相容れない債権においても、明認方法を先に設置することにより、信義則の作用によって他の者を排除することができるが、債権そのものは並存する。
[編集] 物権の優先的効力
一般に物権は内容の抵触する債権に優先する。これを物権の優先的効力という。もっとも、この優先的効力は特別法により相対化されており、たとえば借地借家法により対抗力を有する借地権は借地権の対抗要件具備より後に生じた物権変動に対抗し得る。
また、信義に反する物権変動は認められないから、温泉権や墓地権のように、土地所有者に対して永年使用料が前払いされている場合において、それが不履行となることで債権者が損害を被ることを知りながら、当該土地を譲り受けた者は、所有権者の変更を理由として債務の承継を否定し、かつ、補償の支払を拒否することは認められないとされる。
[編集] 物権の種類と内容
[編集] 物権法定主義
物権の種類と内容は法律によって定められ、法律で定められたもの以外の物権を新たに創設することはできないとする法原則を物権法定主義といい、民法175条、民法施行法35条に規定されている。
古くは、物権法定主義は、封建的権利を廃止し、個人の所有権の自由を確保するために制定されたものと説明されてきた。現在では、物権は債権に優先する効力を有し、また制度上債権以上の保護を与えられているため、各人が自由に物権を創出し得るとすると法制度の混乱を招くために、このような原則が設けられていると説明されることが多い。
法律に規定のない物権を設定する契約が結ばれても、物権法定主義により、そのような物権は発生しないが、当事者間においては債権的な契約として有効である。
物権法定主義にいう「法」は、民法に限られず、たとえば商法、鉱業法、漁業法などによって規定される物権もある。
また、上記の物権法定主義を補完するものとして、「慣習による物権的な性質を持つ権利」も判例により認められている。その例として温泉権(大審院昭和15年9月18日判決・民録1611頁)と流水利用権(大審院大正6年2月6日判決・民録202頁)がある。ただし、強行法規である民法施行法35条は、「慣習上物権ト認メタル権利ニシテ民法施行前ニ発生シタルモノト雖モ其施行ノ後ハ民法其他ノ法律ニ定ムルモノニ非サレハ物権タル効力ヲ有セス」として、慣習上の物権を認めていないことから、慣習法上の物権を認め得るかが学説上の大きな論点となっている。現在の多数説は、同条も、慣熟した慣習によってその後に生ずる物権を否認するものと見る必要はないとして、温泉権や水流利用権の存在を認める。下級審判例には、背信的悪意者による債権侵害に対し、信義則違反と不法行為を理由として、物権的請求を認めたものがあり、「慣習による物権的な性質を持つ権利」の解釈の一つとされている。
[編集] 民法上の物権の種類
日本国の民法上の物権 (第175条~第398条)
- 占有権 (第2章)
- 本権(占有を法律上正当づける実質的な権利)
[編集] 物権的請求権
物権の内容の円満な実現が妨げられ又は妨げられるおそれがある場合、物権を有する者はそのような事態を生じさせている者に対して、妨害を除去・予防するために必要な行為を請求することができる。この請求権を物権的請求権、又は物上請求権と呼ぶ。
物権的請求権の理論的根拠については学説上の対立があるが、物権の排他性から認められると説明されるのが一般的である。また、条文上の根拠としては占有訴権の規定の存在に求めることもできる。
一般に物権的請求権の種類として、返還請求権、妨害排除請求権、妨害予防請求権の3種が認められている。
なお、物権同様の排他性を理由に人格権についても妨害排除請求権や妨害予防請求権が認められている。
特定物の利用に関する債権においても、債権侵害の不法行為を主張し、不法行為債権に基づく補償として、妨害排除請求をすることができる。債権侵害の危険が現にある場合には、その状態を放置することの不法行為性を主張し、不法行為債権に基づく補償として、妨害予防請求をすることもできる。